読心使いの内偵
田村サブロウ
掌編小説
王宮直属の兵団に、敵国の内通者がいる。
このウワサの対処に兵団の司令官であるガイアは追われていた。
ウワサはウワサと笑って聞き流せればどれほど良いことか。ここ最近、軍事作戦の情報が敵対国に漏れている。上官として、内通者のあぶり出しはガイアにとっても急務だった。
だがその方法が見つからず、ガイアは悩んでいた。
「というわけだ。なにかいい方法はないか、魔女テレシア」
「なーにが、というわけじゃ! いきなり魔女の住処に押しかけてきてやぶからぼうに!」
今、ガイアは魔女テレシアの隠れ家に訪問していた。
テレシアは何度か国家レベルの災害を解決した実績のある優秀な魔女だ。
まぁ、ガイアはテレシアをそれほど信頼してはいないが。
本人に会うのが初めてでテレシアがすごいという実感が無いのだ。
ここに来たのはワラにもすがる思い以外の理由は無い。
「ごたごた言うな。報酬は前金ではずませるから、王宮の内通者をあぶり出す魔術なり秘密道具なり出してみろ」
「あたしゃドラえもんじゃないんだ! そう都合よく出せるか! ……と言いたいところだが」
ドラえもん? なんだそれは。
そうガイアが問いかける前に、テレシアはテーブルの上に薬液の入った瓶を取り出した。
「はいこれ」
「なんだこれは」
「この薬を飲めば人のココロの声を聞く魔術を使える。こいつを使ってやましい考えを持つ部下を探してみたらええ」
「なんだ、そんな便利なものがあったのか!」
ガイアはテレシアの出した瓶を取り、代わりに報酬の金貨をテーブルに置いた。
「感謝するぞ、魔女テレシア。これで内通者をあぶり出せる」
「待った! 人のココロの声を聞けるのは危険な状態でもあるから、内通者のあぶり出しが終わったらすぐにこの解除の薬で……って、人の話を聞けぇ!」
テレシアが取り出したもう一つの薬には目もくれず、ガイアは急いでこの場を立ち去ってしまった。
数カ月後。
魔女テレシアの元に、使い魔のカラスから知らせが届く。
ガイアは兵団内での所属を内部調査担当の憲兵団に移動したらしい。
魔女の薬によって手にした人のココロを読む魔術で、兵団内の怪しい動きを察知しては捕えているようだ。
兵団内に潜む敵国の内通者は、もちろん捕縛に成功。その手柄により、ガイアは国王からじきじきに勲章を授与されたという。
使い魔のカラスから知らせを聞き終えた魔女テレシアは、もの憂いげな顔でぽつりと言葉をもらす。
「ガイアめ、ここで欲張りすぎないといいが……」
さらに数カ月後。
使い魔のカラスから、今度はガイアが投獄されたという知らせがテレシアに届いた。
なんでも、無実の罪で数多の兵を投獄したのが国王の怒りに触れたらしい。
なぜ無実の兵を投獄したのかと国王に聞かれた際、ガイアは「ココロのなかで反乱を企てたから」「ココロのなかで王に不敬を抱いたから」などとわけのわからないことをのたまわったそうだ。
「ガイアめ、こうなると思ったわ。人がココロの中に闇を抱えるのは当たり前なのに、それを無視して出世のために魔術を使いおってからに」
軽く頭を抱えてからテレシアは部屋に戻った。
羊皮紙と羽根ペンを取り出し、文をしたためる。
いずれ国王の前でガイアを裁く裁判が開かれるだろう。
その際、検事官がココロを読む薬の子細を語れるよう、証言書を売りつけてやるのだ!
読心使いの内偵 田村サブロウ @Shuchan_KKYM
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます