責任を取って戦隊を追放された俺。死ぬ気になってビルドアップしたら、怪人たちが裸足で逃げ出した件。

えながゆうき

ターニングポイント

「悪いがレッド、今日限りでお前には抜けてもらう」

「そ、そんな……」

「仕方ないわよ。リーダーであるレッドが責任を取る。当然でしょう?」


 確かにそうかも知れない。俺たちは日ノ本の国を守ることが仕事。そして守ったとしても、これだけの被害を出してしまっては、もうどうしようもないだろう。


 日ノ本の国に怪人が襲撃してくるようになって四五年。何とか撃退しているものの、戦いによって破壊された建築物の損害賠償は年々高くなっていた。

 そして先日、ついに一つの指令が下った。


『お金がないから現場まで走って行け』


 予想だにしない指令だった。確かに戦闘服を着れば、筋力が普通の人の五十倍になるため、走って現場に行くことは可能だろう。その指令に俺たちは顔を見合わせたが、問答無用と上からは通達された。そして俺たちは現場まで走って行くことになった。


 ようやく現場に着いたときにはすでに全員満身創痍。怪人と戦うどころの騒ぎではなかった。しかし、戦うしかない。そして勝つしかない。

 そのときは何とか勝つことができた。だが、かなりの被害が出ることになってしまった。そうなれば、誰かが責任を取らなければならない。そしてそれが俺だった。


「ただ、ただ、無念だ」


 ロッカールームで俺は泣いた。長年「爆走戦隊・激走ジャイ」として働いてきたが、負傷による引退ではなく、不祥による追放で職務から離れることになるとは思わなかった。こんなことなら、戦って華々しく散った方がよかった。


「どうした? お前が落ち込むなんて珍しい。全力前進だけが取り柄じゃなかったのか?」「長官……!」


 涙を流す俺の前に、俺を拾ってくれた恩人が佇んでいた。その表情はどこか寂しそうだった。おそらく俺が追放されたことを知っているのだろう。だが、追放されたのは俺の失態でもある。俺がもっと強ければ、あるいは……。


「もう走れないのか?」

「そ、それは……」


 諦めたくない。だが、俺は戦隊を追放されてしまった。一人ではどうしようもない。俺には仲間が必要――必要なのか?


「一人では走れないのか?」


 そうだ。一人でも走ることはできる。曲がりくねった困難な道だが、走ることはできる。


「……たとえ一人でも、走りたいです」

「ならば走れ、走らんか!!」


 長官は俺の両肩を掴むと、力強く前後に揺さぶった。このままでは終われない。俺のことを信じてくれている人がいる限り、終わることはできない。大きくうなずくと、少し口元を緩めた長官が大きく首を縦に振った。


 その日から俺は、ロッキーのテーマを流しながら自分を鍛え上げた。ベンチプレスにスクワット。縄跳び、丸太受け。ときには腹筋に成人男性の頭ほどの石を落としてもらった。

 トレーニングは過酷だった。野山を駆けまわり、柔道や空手も取り入れた。それでも俺はやり遂げた。誰よりも強くなってみせる。そして、日ノ本の国の平和を守る。それだけが頭の中にあった。



 ****



 東ノ京の街が破壊されている。緊急車両のサイレンがけたたましい音を立てながら、市民の避難を促してした。


「ハァハァ、くっ、ここまでか」

「冗談じゃないわ。ハァハァ、やっぱり走って現場に向かうのは無理よ」


 激走ピンクが弱音をはいた。しかし、誰もそれを咎めなかった。なぜなら、ブルーもグリーンもイエローもブラックも同じように思っていたからだ。


「ガハハハハ! 激走ジャイもここまでだな。いつもの鬱陶しいレッドがいないのが気になるが、後でまとめてあの世に送ってやろう!」


 怪人が持っている三つ叉の槍を構えた。五人の顔が絶望に歪んだ、ように見えた。もちろんフルフェイスを装着しているため、表情は分からない。


「そこまでだ!」

「何者だ!?」


 怪人が振り返った先には赤い人影が目に留まった。あれはもしかして、激走レッド? それにしては、装いが他の奴らと全く違うぞ?


 怪人が困惑するのも無理はない。ビルドアップしたレッドは、その筋肉によって普通の戦隊スーツは着られなくなってしまっていたのだ。仕方がないので、伸縮性が優れた素材に変更したのだが、そのせいで本来は体を守るために装着しているプロテクター部分は皆無になっていた。もちろん、安全のため、フルフェイスは装着している。


「激走レッド!」


 怪人に背中を向けて、「す」のようなポーズを取ったレッド。その背中には引き締まった見事な筋肉が光り輝いていた。


「ま、まさか……ええい、行け、お前たち! 激走レッドを血祭りに上げろ!」


 怪人の指示によって手下の怪人たちがヒャーヒャーと叫び声を上げながら、一斉にレッドに襲いかかった。しかし、レッドに怯む様子は見られない。それどころか、立ち所に手下を戦闘不能にしていた。


「レッドチョップ! レッドドロップキック! レッドダブルラリアット!」


 次々と繰り出されるレッドの新技に、為す術もなくバタバタと倒れる怪人の手下。目の前では一人の部下がレッドに頭を鷲掴みにされていた。

 鍛え上げられたレッドの握力は200 kgを超えていた。そこに戦闘スーツの補正がかかり、その握力は10 tにまで上昇している。悲鳴を上げながら手下が泡を吹いた。ついには怪人一人が残された。


「なん……だと……」


 困惑を隠せない怪人にレッドが距離を詰めた。それに気が付いた怪人の顔色が変わったように見えた。


「さあ、お仕置きの時間だ」

「ま、まて!」

「待てと言われて、お前は待ったことがあるのか?」


 レッドの言葉に息を飲む怪人。それをNOだと認識したレッドが怪人に襲いかかった。


「レッドナパームストレッチ!」

「ぎゃああああ!」


 辺りに怪人の断末魔が木霊した。



 その後のレッドは破竹の勢いで怪人たちを次々と倒して行った。もちろん怪人たちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出した。しかし、レッドからは逃げられなかった。

 いつの間にか回り込まれた怪人たちは為す術もなくレッドによって次々と倒された。


「本日をもって、爆走戦隊を解散する」

「そ、そんな!」


 本部の指示に不満を唱えたのは激走ブルー。しかし、本部の決定は覆らなかった。


「激走レッド一人で十分に怪人に対処することができる。現場への到着も早く、被害も出ない。それならば、他の隊員はいらないだろう」

「そ、それならレッドに戻ってきてもらえば……!」


 激走グリーンはなおも必死に説得を試みた。しかし、現実は非情である。


「レッドからは、「今さら戻ってきて欲しいと言われてももう遅い。俺一人で十分だ」と言われている」


 激走ジャイ全員が青ざめた。しかし、誰一人として反論することはできなかった。


 こうしてレッドは日ノ本の国を縦横無尽に走り回ることになった。

 怪人たちを倒し、真の平和が訪れるその日まで。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

責任を取って戦隊を追放された俺。死ぬ気になってビルドアップしたら、怪人たちが裸足で逃げ出した件。 えながゆうき @bottyan_1129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説