かわいい男
彼のもとからは去ったけれど、私は今でも彼から届いたメッセージを、ふとした拍子に読み返す。不器用で、だけど内心の誠実さを隠せない、かわいい子。かわいかった。これ以上いっしょにいると、彼を食い尽くしてしまうような気がして、私は彼から去ってしまった。
抱き合う日はハイヒールをはいて行った。本当はいつもいつもスニーカーでいたかった。足の速い彼に追いつくには、そのほうが楽だったから。けれど、女として尊重させるために、私は赤い口紅をつけて、ハイヒールをはいた。背伸びしなくても、私はあの子よりも大人だったのに。
年下の男の子に、興味はなかった。私が好きなのはずっと年上。十歳でも、十五歳でも。年を取った男が好きだった。なのに私に近づく男は、だいたい決まって年下だった。彼もまたそうだった。彼に甘えるのは、嫌だった。大人の顔をしていたかった。
ホテルの窓から月を見上げるのが好きだった。月の光が、好きだ。まぶしいくらいの月明かり。白い満月の光を浴びると、狼になった気持ちになれた。狼になって、彼を食らう。そんな気持ちで、いつも彼を抱いた。抱きしめて、食べた。若い彼は、何度でも食われてくれた。
彼が好きだった。好きだなと思っていた。好きだとは決して言わなかった。言ってしまったらすべてが壊れる気がして、言えなかった。言えずに、私は彼の前から消えた。
あなたは、最高によかったの。最高にかわいい男の子だったの。いつまでも、横に置いておきたかった。いつまでも食べていたかった。あなたはね、最高によかったの。
だから、あなたにぴったりの、かわいい女の子を探してほしい。そんなのきれいごとだけど、本音でもある。
本気で、好きになる前に。
月と恋人 鹿島 茜 @yuiiwashiro
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