KAC202110 ゴール

第十話 相棒は私の手首に住んでいる

 むかしむかし、あるところに小さな国がありました。


 どうして小さい国なのかというと、たくさんのわるいやつらにめられて、もうほろびる寸前すんぜんだったからです。


 わるいやつらは「侵攻者しんこうしゃ」と言いました。

侵攻者しんこうしゃ」は、広い宇宙うちゅうのどこからかやってきて、人も家も町も、みんなこわしてしまいました。

 そのため、初めは大きかった国は、どんどんこわされ小さくなってしまったのです。


 その小さな国には、王様とお姫様がいました。

 小さくなった国と少なくなってしまった国民をまもるため、ある決断けつだんをしました。

 それは、王家につたわっていた伝説でんせつで、ほかの世界から勇者ゆうしゃをよび出したすけてもらうというものでした。

 小さな国にのこった人たちの力をあつめ、男と女、一人ずつの勇者ゆうしゃをよぶことができました。

 勇者ゆうしゃたちは、かってによび出されたことをおこりましたが、それでも小さな国を「侵攻者しんこうしゃ」からまもるため、たたかうことにしました。


 二人の勇者ゆうしゃは、たくさんの「侵攻者しんこうしゃ」をたおしました。

 勇者ゆうしゃたちは、小さな国の人たちより、とてもつよかったのです。

 けんじゅうといった武器ぶき魔法まほう道具どうぐをつかってたくさんの人たちをたすけました。


 でも、二人の勇者ゆうしゃがどんなにつよくても、「侵攻者しんこうしゃ」のいきおいはとまりませんでした。


 小さな国は、もうお城しかのこっていませんでした。

 人も、王様とお姫様、そしてまもる人が百人くらいしかのこっていませんでした。


 いよいよ「侵攻者しんこうしゃ」が城にめてきました。

 勇者ゆうしゃたちはがんばりましたが、城の真ん中にあるとうまでおいつめられてしまいました。

 王様とお姫様はかんがえました。

 勇者ゆうしゃたちは、たくさんがんばってくれました。でも勇者ゆうしゃたちは勝手かってによび出されたのですから、もとの世界にかえしてあげようと思いました。


 勇者ゆうしゃたちは小さな国を最後さいごまで守ろうとしていたので、そんなことを言えばきっといやがると思い、王様は、新しい勇者ゆうしゃをよぶからてつだってほしいとうそをつきました。


 勇者ゆうしゃたちが、帰るための部屋にはいったとき、そこに「侵攻者しんこうしゃ」最大のてきがやってきました。

 最大さいだいてきは、王様をたおし、お姫様と勇者ゆうしゃをおそいます。

 男の勇者ゆうしゃ最大さいだいてきをたおしましたが、女の勇者ゆうしゃはお姫様と男の勇者ゆうしゃをかばってしんでしまいました。


 でも、女の勇者ゆうしゃの心はしんでいませんでした。

 お姫様はその心をひろって魔法まほう腕輪うでわの中にいれました。


 お姫様と男の勇者ゆうしゃは、小さな国にのこったさいごの力で、勇者ゆうしゃがすんでいた世界にげました。

 でも、男の勇者ゆうしゃは女の勇者ゆうしゃがしんだことで、とても心が傷付きずついていました。

 このままではかなしみで、男の勇者ゆうしゃもしんでしまう。

 お姫様は男の勇者ゆうしゃのかなしい記憶きおくも、魔法まほう腕輪うでわですいとりました。


 お姫様はしらない世界でこまってしまいましたが、一人のお医者さんがたすけてくれました。

 お医者さんは、お姫様と勇者ゆうしゃに食べものと住むばしょをくれました。

 そして男の勇者ゆうしゃがくらしていた家をさがしてあげて、男の勇者ゆうしゃは家にかえることができました。


 お姫様は女の勇者ゆうしゃも家にかえしてあげたいと思いましたが、魔法まほう腕輪うでわの中の女勇者ゆうしゃをたすけるほうほうはありませんでした。

 お医者さんにたすけてもらいながら、女の勇者ゆうしゃをたすけるために、お姫様はたくさん勉強べんきょうしました。

 魔法まほう道具どうぐのおかげで、勇者ゆうしゃの世界の言葉がわかったので、外国の人の力もかりて、さらにたくさん勉強べんきょうして、女の勇者ゆうしゃをたすけるために、そしてもう一つの目的もくてきのために、りっぱな会社もつくり、がんばりました。


 そのもう一つの目的もくてきは、たたかうじゅんびです。


 お姫様は、自分の国にやってきた「侵攻者しんこうしゃ」が、この勇者ゆうしゃの世界にもやってくることをしっていました。

 そのためには男と女の勇者ゆうしゃ、たたかう武器ぶき、そして勇者ゆうしゃの世界の人の力が必要ひつようでした。


 でも男の勇者ゆうしゃは、心のきずがなおらず、家から外にでられず、学校がっこうにもいけず、大きくふとって、病気びょうきになってしまいました。

 お姫様は、つくった会社に男の勇者ゆうしゃを入れて、たすけながら、なんとか健康けんこうにもどそうとがんばりました。

 女の勇者ゆうしゃも、魔法まほう腕輪うでわの中でずっとねむっているようでした。


 でもお姫様はあきらめず、それから長い時間をかけて、もっともっとたくさんがんばりました。


 たたかうための武器ぶきは、男の勇者ゆうしゃがもちかえったじゅうがあったので、科学者かがくしゃの力をかりて、なんとか同じものをつくりました。


 お姫様は、魔法まほうの薬をつかって、外国のえらい人をたすけ、少しずつ世界中からたくさんのなかまをあつめました。


 女の勇者ゆうしゃの心は、会社やコンピューターの力をかりて、少しずつもとにもどっていきました。


 男の勇者ゆうしゃの体は、お医者さんの力をかりて、少しずつもとにもどっていきました。


 お姫様は、体をうしなってしまった女の勇者ゆうしゃの心をたすけたい。そして男の勇者ゆうしゃ一緒いっしょにいさせてあげたいと思い、女の勇者ゆうしゃの心を、魔法まほう腕輪うでわから、この世界の「腕時計うでどけい」にうつしました。

 そして、その「腕時計うでどけい」を男の勇者ゆうしゃにあげました。


 女の勇者ゆうしゃの心は、「腕時計うでどけい」の中にはいって、男の勇者ゆうしゃといっしょにいたことで、少しずつむかしのことを思い出しました。

 男の勇者ゆうしゃ記憶きおくも、魔法まほう腕輪うでわ」からもどされ、二人はぜんぶ思い出しました。




 それから、しばらくして、たたかいがはじまりました。


 勇者ゆうしゃの世界のたくさんの人たちは、お姫様が作った魔法まほうじゅうを手にたたかいます。


 お姫様ががんばってじゅんびしたおかげで、たくさんの「侵攻者しんこうしゃ」をたおしました。


 そして最後さいご最大さいだいてきがやってきます。


 もうたたかえるのは男の勇者ゆうしゃと、腕時計うでどけいに入っている女の勇者ゆうしゃだけでした。

 魔法まほうじゅうをもった男の勇者ゆうしゃは、女の勇者ゆうしゃといっしょに、最大さいだいてきをたおしました。


 でも、男の勇者ゆうしゃは大きな怪我けがをしてたおれてしまいました。


 お姫様は魔法まほうの薬を使い切ってしまったので、男の勇者ゆうしゃの傷をなおすことはできませんでした。

 そして男の勇者ゆうしゃはそのまましんでしまいました。


 お姫様は、前に女の勇者ゆうしゃの心を拾って「魔法まほう腕輪うでわ」に入れたように、今度は男の勇者ゆうしゃの心を、「魔法まほう腕輪うでわ」に入れました。


 こうして、お姫様は、自分の国と二人の勇者ゆうしゃはすくえなかったけれど、勇者ゆうしゃの世界はすくうことができたのです。


 その後、お姫様は、さいしょにたすけてくれたお医者さんや、武器ぶきを作ってくれた科学者かがくしゃや、たくさんのたいせつな人たちと長い人生じんせいをすごしました。


 その長い年月ねんげつのあいだ、ゴールを迎えるまでずっと。


 お姫様の左手首には、女の勇者ゆうしゃが入っている「腕時計うでどけい」が。

 右手首には男の勇者ゆうしゃが入っている「魔法まほう腕輪うでわ」がついていました。


 お姫様は、いつも笑ってこう言いました。



「相棒は私の手首に住んでいる」




 ――了――


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