KAC20219 ソロ◯◯◯
第九話 相棒は手段を選ばず無双する
みなさんこんばんは。
ダウナー系配信者、セルデンです。
いつも私のソロライブを楽しみにしてくれてありがとう。
……今日は視聴者が二ケタもいる……ありがとうございます。
スパチャは期待してないので、気にしないでくださいね。
……あ、一ケタになった……
……で、ではさっそく、今日は予告した通り、五年前のあの事件の真相について、私の仮説を物語風にまとめましたので、ご覧ください。
直径50メートルほどのそれは、空から飛来した。
もちろん、各国政府はその事実を「最初から」把握してはいたが、「想像通り」衛星軌道上のレーザー兵器や質量兵器は役に立たなかった。
各国上空に総数200個。
蒼空に映える漆黒の球体は、映画やドラマで想像されていたような、異星人襲来という、起こり得ないはずの現実を世界中に突き付けてきた。
意外だったのは、黒球が飛来した直下の都市にほとんど人が居なかったことだ。
黒球が観測されてから各国上空100メートルの位置に辿り着くまで、地球時間にして約72時間。出現ポイントが地球の衛星「月」からの移動ということもあり、どの位置に辿り着くか予測することはできただろう。しかし、そこに住む多くの住人を完全に避難させる時間として十分だったかと言うと、不可能だろう。
どの都市に出現してもいいように、都市ごとの避難計画や避難先を事前に作っていない限りは。
黒球には一定の行動指針がある。
効率よく目的を果たすために、対象の数が多い場所から「始める」というものだ。蜘蛛が糸の張り方を知っている様に、鳥が巣を作るように、それは言わば本能といってもいいのだろう。
思考や感情は必要ない。対象を全部破壊する。すなわちこの惑星で活動する生命体を0にすること。過去、多くの星で行われた来た粛清は、まるで惑星を細胞と見立てたアポトーシスのようなものだった。
宇宙の成り立ちや、生命体の始まりと同じく、黒球たちの目的に「何故?」を唱えても無駄だろう。
人が捕食するように、娯楽で狩りをするように、仮に「スポーツ」や「暇つぶし」などと説明された方が、納得はできなくても理解はできるのかも知れない。
地球の人々は、そんな理不尽の中、短い文明が終わる危機に瀕していた。
後世の人々は、そんな滅亡に瀕した最大の危機を救ったのが、地球人で無いことをまずは語るだろう。
または「かつて滅ぼされた亡国の姫」と。
俗に「異世界物」などという物語に多く使われる題材の如く、危機に瀕した世界を救ったのは、地球の民草ではなく、異世界の姫だった。
彼女が何故地球に存在したのか、はっきりしたことは分かっていない。
だが、彼女に寄り添う一人の男性は地球人だった。
柳瀬 隆(ヤナセ タカシ)というその日本人は、おそらく世界で一番有名な日本人になった。
姫の懐刀、聖女の騎士などいくつもの異名を持つが、一番有名な呼称は「侵攻者食らい」というものだろう。
黒球はある時一斉に擬態を解き、それぞれ中から200体ほどの、生物とも機械とも言える存在を巻き散らかした。
俗称を「侵攻者」
それは、全長三メートルほど、六本足の外骨格を纏った蜘蛛のような姿。
非常に俊敏で、強度も高く、数百メートルからの落下で損傷する事はない。
戦車砲や銃器の類での破壊例がほとんど存在しないことからも、現行の地球技術では太刀打ちできないことは明白だった。
だが、異世界の姫と共に世界を渡った遺物。物語で言うところの人工遺物いわゆる「アーティファクト」と、地球の科学が産んだ人口知能「アーティフィシャルインテリジェンス」が全ての盤面の趨勢を変えた。
銃を模した「魔導銃」とスマートウォッチに実装された「AI」だ。
姫は、唯一手元にあった、亡国の世界で「侵攻者」と渡り合えたこの遺物を、現代科学でリバースエンジニアリングを行い、地球人でも扱えるように量産した。
併せて「マナ」というファンタジーで馴染み深い素子を効果的に扱う術を享受してくれた。
元々姫のいた世界に比べ、重力を初めとする環境差の恩恵で、地球人自体の身体能力は高かった。その代り「マナ」に乏しい地球では「マナ」を取り扱う技術そのものが無かったのだ。
「魔導銃」を量産する過程で得られた様々な技術と知識は、後に「魔法元年」と呼ばれる時期から、後世に多くの知見と発見を残した。
地球の危機に話を戻そう。
姫は過去の経験から、「侵攻者」が粛清対象の衛星からやってくることを知っていた。極秘裏に調査が進められ、決して地球に見せないその月の裏側に転移陣を確認し、主要国共同での破壊作戦も行われたが失敗に終わった。
現存する兵器では転移陣は破壊できない。
だが、最小単位である「侵攻者」自体は「魔導銃」で対抗できる。
その「侵攻者」は黒い球体に乗って地表に降り立つという。
つまりその時点で決戦の場は地球上であることが確定したのだ。
姫の母国では約200の黒球が観測されたという。
それが正確なのか、文明によって数が変わるのかは分からなかったが、結果として月から生み出された黒い卵は、ちょうど200個。
そこから各200体の「侵攻者」が孵化した。
40,000体の「侵攻者」が地球を狩場にする悪魔の総数だった。
襲来地点は、姫の予想とほとんど変わらなかった。
地球上の人口の多い都市、それを上から順番に並べただけだ。
「侵攻者」がどんな能力でそれを知ろうが、どんな基準で事を起こそうが、全ては決められた行為であること。良くも悪くも、彼らが自分たちに課した行動規範によって迎撃の準備は進められた。
地球側の「勇者」はおよそ10万人。各都市に約500人。
「侵攻者」1体に対し2.5人。
戦端は地球側の劣勢だった。
マナの取り扱いと、「侵攻者食らい」から伝えられた増幅法、いわゆる「ブースト」という底上げで、姫の世界の戦士よりは拮抗した力ではあったが、どう考えても実戦不足は否めず、能力も対抗武器もあるのに、一日で陥落した都市もあった。
また、感情を持たない「侵攻者」のストレートな殺意は、いっそ冴え冴えと、まるで修道士が責務を全うするかのごとく、淡々と命を刈り取る姿に、多くの「勇者」は恐慌状態に陥った。
そんな劣勢を覆した「反撃の咆哮」は、一日で三つの都市を解放した「侵攻者食らい」から全「勇者」に対するメッセージとして発信された。
正確に言えば「侵攻者食らい」が身に着けていた腕時計型のウェラブルデバイス。そこに実装されたAIから発せられた。
「考えるな!全てSATORIの指示に従え!」
各勇者に与えられた装備は多々あれど、魔導銃と腕時計はその代表だろう。
「侵攻者」を破壊できる手段と、それを最高運用できるアシスタントAI。
「勇者」たちは、SATORIと呼ばれるAIが、まるでどこかに存在する人間のような錯覚を覚え、訓練の過程でその絆を深めていたつもりだったが、初めての実戦。しかも異星人との戦いは、まるで状態異常攻撃にでも晒されているかのように「勇者」と
「SATORI」の連携を奪っていたのだ。
「侵攻者食らい」が持つ「SATORI」は全ての「SATORI」のオリジナルで、一説にはかつて、姫と「侵攻者食らい」と共に戦った相棒を模しているとも言われた。
そのオリジナルからの発信に全ての「SATORI」が応える。
そして応える「SATORI」は全て、各々の「勇者」との絆を深めた唯一無二の存在だった。
世界中の「勇者」たちは、訓練の日々、使命、戦意と共に、その、かけがえのない相棒を思い出した。
劇的だった。
衛星回線、都市に張り巡らされたカメラ、各種センサー全てが目や耳となり、「勇者」たちに死角は存在せず、通常兵器での陽動、撹乱で退路を断ち、時に挟撃で、一体、また一体と「侵攻者」は破壊されていった。
そして、人と、人工知能と、人工遺物。かけがえのない相棒たちの戦いは終盤を迎える。
決戦の場は東京。
そこに降り立った「侵攻者」の一体が、異形に変化する。
その異形は「裁定者」と呼ばれた。
破壊対象の終末を看取るもの。かつて姫の国の終焉を齎したモノ。
それは、人語を解した。
曰く「滅びを受け入れろ」と。
対峙したのは「侵攻者食らい」
曰く「滅んで尚、生きている!」と。
姫の国は滅び、「侵攻者食らい」も大事な存在を失い、それでも、あがいて生きてきたという。
彼らは、長い時をあきらめず、愚直に、ただかけがえのない「相棒」と共に生きたいと、それだけのためにそこに立っていた。
満身創痍の「侵攻者食らい」と「裁定者」の戦いの結果は、東京という都市の一部と「裁定者」が完全に消滅した。という事実だけを伝えておこう。
そしてこの戦いでの民間人の死者は、一人だけだった。
終わりに
復興は時間がかかったが、人々が得た、マナの操作法は、空想と呼ばれていた現象を発現し、また個々の肉体への応用の結果、人が持つ本来の機能を解放したかのように、いくつもの疾病が過去のものとなった。
その流れは科学技術との融合も促進し、想定より前倒しで訪れたシンギュラリティ(科学的特異点)は前述した通り「魔法元年」とも呼称された。
そこに至る始まりはたった三人。
異世界の姫と、地球の二人の少年少女。
……というお話を今度ネット小説に上げようと思ってるんですよ。
……て、もう視聴者もいませんね。
……ふぅ、ダウナー系配信者、セルデンが、黄泉の国よりお伝えしました。
バイバイ、我が姫よ。
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