甲子園への序章
水谷一志
第1話 甲子園への序章
一
「さあ、今日もしっかり練習だ!」
俺たちの「甲子園」が今、まさに始まろうとしている。
二
今まで弱小部だった俺たちが甲子園に出られるようになったのは、ひとえに大会の出場規約のおかげ。
あとこのコロナ渦の中俺たちは本当に出られるのかも疑問だったが、何とか大丈夫らしい。
そして弱小部員たちの猛練習が、まさに本格化している。
三
「……ってかこの練習は意味あんの?」
俺たちは甲子園出場が決まってから無駄に、それこそ無駄に「走る」ようになった。
あと地獄の筋トレメニュー。
顧問の先生は、
「何はともあれ甲子園は体力勝負だ!普段使わない筋肉も役に立つ!体力がなければ相手に熱量で負けるぞ!」
……それの繰り返しで俺たちを地獄に突き落とす。
まあ言いたいことは分かるが、朝練時にこれはやり過ぎではないか?みんなそんな思いも持つがやはり目指すは甲子園。その考えはよぎるだけで決して実体化はさせない。
四
でも、俺たちはそんな鬼メニューにくらいつき、よく頑張った。
それはひとえに「甲子園」という魔物のため?
……少なくとも、俺たちみたいな弱小部、自分たちだけの力では絶対に甲子園の舞台に立てない。
それは今まで支えてくれたみんなのおかげ。
いや逆にこっちが支えている?まあそんなおこがましい気持ちも分からなくもないがとにかく熱い熱い他の部員たちのおかげであることは間違いない。
他の部員の「走り」に、全力で駆け抜ける姿勢にみんながどれほど刺激されたことか。
あと「一球入魂」……この言葉が決して比喩ではなくどれほど俺たちの胸に響いたことか。
その姿勢は試合中だけではない。練習中からの徹底。その考え方がどれほど大事か、今なら身に沁みて分かる。
五
それから先も俺たちの練習は続いた。
細かい所の確認、修正。フォーメーションの確認から指先の感覚に至るまで俺たちは考え続ける。
これは私見だがこういう練習って、全体と個々、両方のバランスが重要だ。
特に俺たちはそもそも弱小部。顧問の先生ももちろん学生時代などに経験はおありかと思うが本格的な指導者ではない。
なので最初の個々の練習。この段階で俺たちはお互いに部員同士でアドバイスし合う。
「これ、試してみてもいいか?」
「……だと構え方と握り方に若干の修正が必要だな」
また小集団での練習。そこでも俺たちはシチュエーションに合わせた練習を繰り返し繰り返し行う。
「チャンスの場面では……」
おっと、ここから先は企業秘密だ。
六
今日の練習の最後は、全部員参加の全体練習。
ここで顧問の先生が気合いを入れる。
「さあ、本番までもうすぐだ!しっかりやれよ!」
「ハイ!」
「ところで……」
【お前ら、肝心な所で走り過ぎだ!】
「本番は練習よりも緊張する。だからもっと走ってしまう。特に……、【トランペット】の佐藤!お前は今回のリードなんだから絶対に走っちゃダメだぞ!」
「はい、分かりました先生!」
「さあ甲子園まであと少しだ!全力で初出場の《野球部員》たちを応援できるように、我々【ブラスバンド部】が頑張らないといけないな!」 (終)
甲子園への序章 水谷一志 @baker_km
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