アンドロイドの安藤さんの障害物競争

lachs ヤケザケ

アンドロイドの安藤さんの障害物競争

「さあ、始まります! アンドロイドの安藤さんの障害物競争、安藤杯!! 日本のみならず世界からも大注目のレースです。どんな展開を見せてくれるのでしょうか。解説者はアンドロイドの安藤さんのメンテナンスを担当しております安藤です」


 ただのアンドロイドの性能試験だ。

 助手が変なナレーションを入れている。

 出荷される前のアンドロイドには識別番号はあるが、無機質なのでいつしか『安藤さん』と呼ばれるようになった。

 安藤という苗字である自分としては、不愉快である。当然ながら、アンドロイドではなく人間だ。アンドロイドのメーカーに就職したのは、安藤という名前の所為ではない。

 面接で少しいじられたが、まさかアンドロイドが安藤とあだ名されているとは予想できるものではなかった。


「にしてもアンドロイドの競争なんて画期的な初の試みですよね! 面白くなりそうです!」


 毎日やっている。

 しかも性能は同じなので、結果は見えている。

 それなのに助手はテンション高く、楽しそうだ。前かがみになり、マイクを掴んでいる。


「さて、どの安藤が勝つか。一番人気は安藤で、二番人気は安藤ですね。ただ、ダークホースとなりえる安藤もいるかもしれません。こちらの予想を裏切ることになるのでしょうか。とても楽しみです! 各アンドロイドの安藤が所定の位置に着きました。一斉にクラウチング・スタートをとりました! よ~~~い、ドン! おお! いいですね!! どの安藤さんも良いスタートダッシュをしましたよ」


 聴力は同じだから。


「素晴らしいです! きれいに一直線です。どの安藤さんもゆずりません!」


 脚力は同じだから。


「どの安藤も平均台でバランスをとって進みます! ふらつきもなく綺麗! どの安藤も落ちません」


 平衡感覚も同じだから。


「おお! 一斉にバナナの皮で滑りました!!」


 誰だ、バナナの皮があればボケてすっ転ぶようにプログラムしたの。

 見つけ次第、全社員会議で晒してやる。

 

「コーナーをまわり、最後の直線に入ったぁ!! どの安藤が出るんだ! 安藤行く! 安藤行く! 安藤逃げる! 安藤逃げ切れるか! 安藤追う! 安藤どうなんだ!!」


 同じだって。


「ゴ―――ル!!! ほぼ同時です! 目視ではわからないので写真判定にうつります。どうでしょうか?」


 同じだ。

 ここで遅れたアンドロイドがいたら、パーツの交換が必要だ。出荷前の試験でそれは避けたい。


「コンマ何秒の違いもありません。安藤杯はすべての安藤が一位という意外な結末となりました」


 想定内。

 なぜこうも騒がしいアンドロイドになってしまったのだろう。助手としては優秀だが、うるさ過ぎる。

 工場から『出荷』されなかったアンドロイドということで、安藤と呼ばれているのも不快だ。

 なら名前を付ければいいのだが、考えているうちに安藤という名が定着した。

 実に気に入らない。

 

 だが、ただ、見ていて飽きないのは認める。

 一人で黙々と試験と検査をしていたのとは段違いで、そこだけは――。




「次は、全国安藤クイズ選手権ですね!」


 知能試験である。

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