走れメロスRTA

乙島紅

走れメロスRTA



 RTAリアルタイムアタック――それはひたすら「速く」クリアすることに懸けるゲームプレイスタイルの一種である。


 時に理不尽なNPCに出会い、時に予期せぬ操作ミスに嘆き……数百、数千と己をいじめ抜くような研鑽の末にコンマ一秒を争う戦いに挑む者たちのことを、人は敬意の眼差しを向けてこう呼ぶ。




 ……「走者」と。




 ***




 はい、どうもー。

 今日はかの有名作品『走れメロス』のRTAに挑戦していきたいと思います。


 ご存知の方も多いかと思いますが、初見の方のためにも軽く作品の紹介をしていきますね。

 本作は太宰治によって書かれた短編小説で、人間不信の暴虐な王に処刑されそうになったメロスが、妹の結婚式に出席するために友のセリヌンティウスを人質にして刻限までに処刑場に戻ってくることを約束し、約束を果たして王を改心させるというお話です。

 セリヌンティウスからしたら「なんで自分が人質に?」って話ですけどね。

 プレイ中はお話の流れをほとんどすっ飛ばしちゃうんで、内容が気になる方は青空文庫などでチェックしてみてください。


 さて、作中では「三日目の日没」が処刑の期限になってますが、今回のRTAでは「三分」でセリヌンティウスを救っていきたいと思います。


 ちなみにルールはAny%でバグもガンガン使っていきます。


 ゴールは王と和解して群衆の中の少女から緋色のマントを着せてもらう瞬間ですね。はい、プレイしたことがある方はお察しかと思いますが、つまりAルートエンドでクリアしなければいけません。分岐条件は「処刑場に着いた時点でほぼ全裸になっていること」です。これはけっこう重要なので覚えておいてください。


 はい、では前置きはこれくらいにして、早速走っていこうと思います。


 タイマースタートはメロスの代わりにセリヌンティウスが捕縛された瞬間となります。

 それではカウントダウンです。

 五、四、三、二、一……スタート!


 捕縛されたセリヌンティウスを顧みることなく全力疾走開始です。

 メロスの移動アクションは四パターンあって、歩き、ジョギング、全力疾走、疲労による千鳥足です。画面左上のスタミナゲージが赤になると千鳥足になりスピードがガタ落ちしますが、スタート地点の「シラクスの市」から、妹の結婚式が行われる「故郷の村」までの往路はほとんど障害もなくスタミナも減りにくいので走りっぱなしでいきます。

 ちなみに、全力疾走を赤ゲージぎりぎりまで続けて、一回ジャンプアクションを挟むとジョギングのスピードで前進しながら歩き同等のスタミナ回復が見込めるのでRTAでは必須のスキルとなります。


 さあ、間もなく「シラクスの市」を抜けるところですが、ここで早速バグを使った時短をしていきます。

 街を出ると羊がうろうろしているので手近なやつにタックルしてバトルエンカウントしましょう。

 バトルに入るとコマンド選択画面が出るので、ここで「もちもの」を選択します。

 ここに重要アイテム「妹の結婚衣装」がありますね。メロスが「シラクスの市」を訪れていたのはこのためです。

 はい、これを装備します。

 できてしまいます。これがバグです。

 これが済んだら羊には用はないので短剣攻撃で倒してしまいましょう。そう、王様に暗殺を疑われた問題の短剣です。使えるものは使っていきます。


 バトルが終了すると強制的に結婚式イベントが始まります。

 そうです、メロスが「妹の結婚衣装」を装備してしまったことで「もちもの」から重要アイテムがなくなり、イベント進行フラグが立ってしまうんですね。これは致命的なバグです。

 ちなみにイベントスキップはできない仕様なので、少しでも会話ログを早めるためにメロスの名前設定は「メ」にしてます。


 というわけで無事、「故郷の村」に到着しました。

 ここまで一分です。いい調子で進んでいます。


 とはいえ往路はやり方さえ知っていれば世界ランカーと同じタイムを叩き出せるくらい簡単なので、問題はここからです。

 正規ルートの復路では同じ道を帰るだけのはずなのに、大雨による川の氾濫、王の息のかかった盗賊とのボス戦、精神の磨耗による強制千鳥足モードなど数々の困難が待ち受けています。

 ちなみに現在装備している「妹の結婚衣装」はバグのため一度装備すると自分で外すことができません。つまり、ゴール時にほぼ全裸の状態になるためには「氾濫した川を泳ぎきる」アクションが避けては通れない道となります。ここでかなりの時間を消費してしまうので、その他のアクションを時短できる作業は今のうちにこなしておきましょう。


 まず、「故郷の村」を出る前に道具屋で「疲労回復のハーブ」を所持上限の十個まで買い込んでおきます。これがあると精神磨耗状態の時間を短縮することができます。お金が足りないので短剣はここで売ってしまいます。


 次に、「故郷の村」で料理を焦がしているおばさんがいるので、そこで七秒待機します。理由は後でわかります。いわゆる儀式ってやつです。


 はい、では準備ができたので復路を走っていきましょう。

 復路はすでにメロスの疲労がたまっているので往路よりもスタミナが減りやすくなっています。ここから川まではなるべく全速力で突っ切りたいので、ゲージ管理が鬱陶しい場合はここで先ほど購入した「疲労回復のハーブ」を一つ二つ使っても良いでしょう。


 さあ問題の川が見えてまいりました。めちゃくちゃ濁流してます。

 ここでイベントを挟んで川を泳ぐアクションに入ります。

 川は特定の場所だと流れが遅くゲージが減りにくいのでルート暗記は必須となります。

 さて、無事泳ぎ切って装備の「妹の結婚衣装」もなくなりました。メロス、ほぼ全裸です。これでAルートクリアのための条件は達成したことになります。

 ここから先、敵とのエンカウントはなるべく避けていきたいので敵シンボルに発見されたらメニューコマンドを開いて発見状態をリセットしていきましょう。


 間もなく盗賊登場地点ですが、ここで先ほどの儀式が生きてきます。

 フィールド上にもぐらの穴のような黒い場所があるのでそこで七秒スタートボタンを押し続けて待機します。

 七、六、五、四、三、二、一!

 見てください、メロスが「黒い風」になりました。これは本来終盤で発動する無敵モードで、あらゆるオブジェクトを跳ね飛ばせる状態になります。

 僕も原理はよくわかっていないんですが、村での焦げた煙エフェクトとこのもぐら穴の黒背景が「黒い風」モードと同じ演出らしく、エフェクトを経験しているとボタン長押しで「黒い風」モードが呼び出せてしまう特殊バグです。


 ここからはこの「黒い風」モードでひたすら突っ走っていきましょう。

 盗賊三人組もイベント開始前にオブジェクトを吹っ飛ばせるので戦闘回避してしまいます。

 タイマーは二分経過したところでしょうか。クリアまであと少しです。


 それでは最後の難関、「精神磨耗モード」です。

 ここを飛ばしてしまうとクリアフラグが立たないので仕方なくイベントを再生します。メロスが悪魔の囁きにそそのかされて「もうなんでもいっか」状態になるシーンですね。イベントに入るとバグで引き起こした「黒い風」モードもリセットされてしまいます。千鳥足になったメロスを「疲労回復のハーブ」で回復させてイベントエンド地点まで進ませます。


 謎の聖水出てきましたね。これを飲めば正規の「黒い風」モード発動です。

 原作どおり、その辺で飲み会してる人たちをふっとばして、犬を蹴飛ばして、小川を軽々飛び越えていきます。スタミナゲージも減りません。強すぎる。


 「シラクスの市」に入ったら、あえて門の右側にいる衛兵に向かって行って槍の妨害を受けましょう。ここで当たりどころがいいと……はい、このように街の屋根の上までジャンプして処刑場までの距離を短縮できます。


 正規ルートだと、セリヌンティウスの処刑を止めるために彼の足にかじりつく必要がありますが、そんなことしなくても群衆の犬を「黒い風」モードで蹴飛ばしてセリヌンティウスにヒットさせればイベントフラグ達成です。抱擁し合うメロスとセリヌンティウス。ちなみにRTAではゴール条件になりませんが、Bルートではここでイベントが終わってメロスとセリヌンティウスが翌朝同じ家から出てくる謎エンディングが見られるそうです。誰得だよ。


 今回はAルートエンドなので、王様と和解して群衆の歓声が湧き、その中の一人の少女が顔を赤らめながら全裸のメロスに緋色のマントをかけてくれます。ラノベみたいな終わり方ですね。


 はい、ここでタイマーストップです。

 二分五十七秒。予定どおり三分切ることができました。

 視聴者のみなさんもお疲れ様でした。


 次は『イカロスのぼうけん』RTAに挑戦していきたいと思います。

 ではまた!



〈おわり〉


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

走れメロスRTA 乙島紅 @himawa_ri_e

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ