入賞者にメダルを
ぎざ
嘘よ、走り出せ。あの繋ぐ夏の汗だ。利子は止そう。
片田舎の町内運動会。そこで駅伝が行われた。
自治区を1周する、1人1キロにも満たない小さなコース。
町内会の子供たちが1区から5区を走り、アンカーである6区は大人が走った。
子供たちはほぼ同順位でアンカーにタスキを渡したため、単純な大人の足の速さの勝負になってしまった。しかし、正確な順位が思い出せない。
というのは、変な話だが、アンカーがゴールするというタイミングで、そこそこ大きめの地震が起きたようだ。走っていた私たちは分からなかったが、ゴールに待ち構えていた子供たちと他の大人たちは慌て、一斉に避難してしまったらしい。
走っていた私たちには地震が分からず、ただただ懸命に走り、ゴールした。
確か、走りきって、すぐ私の後に誰かがゴールして、振り返るとそのすぐ後にEさんがゴールした、ということは覚えている。
つまり、私、Cの二つ順位が下なのはEさんだ。後は、自分の順位も定かではない。
とりあえず子供たちも他のみんなも無事なら、順位なんてどうでもいいと思うのだが、どこからか現れた強面のオジサンがどうしてもと言うのだ。
メダルなんてどうでもいいと思うのだが。
◆
え、僕ですか?
はい。僕がEです。
今日の町内会の駅伝? はい。僕がアンカーを走りました。
え? 順位ですか?
……正直覚えてないんですよね。
僕がゴールしたとき、僕のチームメンバーと他の人たちもみんな遠くに走り出していて、何かサプライズな事でも起きたのかと思っていました。
走りきった時は心臓バクバクでしたし、まさか強めの地震が起きていたなんて分かりませんでしたね。
……そういえば、近くでDが地面に座り込んで、「Eに勝った!!」って叫んでから、「え!? 地震じゃね!?」って飛び上がったのを覚えています。地面に座り込んでいたからこそ、誰よりも地震に気づいたのかもしれません。
Dに聞いてみてはいかがですか?
◆
え? 誰ですか?
ええ。さっき完走しましたよ。
はい。Bと申します。
順位?
それがはっきりしなくてですね……。
地震が起きたのってご存知ですか?
自分よりも前にAがいたことは覚えているんですが……、あ。自分はビリではありませんでした。全部で5チームが走りました。A、B、C、D、Eの5チームです。
それよりも、地震。大きかったですね。
せっかく町内会の皆が集まっているいい機会ですし、避難経路の確認と、緊急避難先の確認。出来ることは今のうちにやっておかないといけませんね……。
◆
ども。
見ない顔ですね。誰か探しているんですか?
え? 順位ですか? 駅伝の?
それがどうかしたんですか? もう終わって、皆帰り支度始めていますよ。
はぁ。俺はAっすけど。はい。アンカーやりました。
うーん。Cには負けた!
ってことは覚えてるんですけどね。
メダルを渡したいんですか?
町内会の人でも無いのに?
ってか、あなた誰ですか?
警察呼びますよ?
◆
先輩! どうですか? 分かりました?
分からない……ですよね……。
皆の意見をまとめますと、
A: Cには負けた。
B: 自分よりも上の順位にAがいた。ビリではない。
C: Cよりも順位が二つ下がE。
D: Eに勝った。Eよりも順位が上。
E: 覚えていない。
これを元に何通りか考えてみてはいるんですが、
DCAEBの順だと、Bがビリなので違います。
DACBEの順だと、CよりAが早いので違います。
ABCDE、CAEBD、CABDE……。全部当てはまりません。
成立する順位がありませんね。何か、誰か思い違いをしているか、まさか嘘を付いているとか……?
……あ、電話出ます。
はい。はい。あ……なるほど。分かりました。
Dの言っていたことが、思い違いだったようです。確かに、ゴールしてから「Eに勝った!」と叫んだようですが、それは勘違いだったことが後で分かりました。その後、Dは「Eに負けてた……!」と悔しがっていたそうです。
これで、順位が特定できますかね、先輩。
そのメダルを、渡す時が、来ましたか?
…………。
強面の男性は、ビニールの中に入った銅のメダルを、握りしめた。
【解決編】
「こんにちは。ようやく順位が分かりました」
「そうですか。って、まだ考えていたんですか? 順位がそんなに大事なんですか?」
「えぇ。あの駅伝の後、Dさんが何者かに殴り殺されていました。凶器は、銅メダルでした。血は洗い流されていましたが、痕跡が残っていました。私はずっと、3位を探していたんです」
「そうですよね、3位の、Eさん」
A: Cには負けた。
B: 自分よりも上の順位にAがいた。ビリではない。
C: Cよりも順位が二つ下がE。
D: Eに負けた。Eよりも順位が下。
E: 覚えていない。
「この条件を満たす順位はひとつしかありません」
「3位は、あなただ」
「う」
「走って、逃げますか?」
Eは逡巡する。目を左右に動かす。
逃げ場はある。後ろに、広場の出口があった。
「私は、刑事です」
刑事は、Eから目を離さず、諭すように、説き伏せる。
「あなたを、必ず、捕まえます」
Eと刑事の目が合う。
Eは刑事の視線から逃れられない。
「あなたにゴールはありません」
膝から崩れ落ちたEに、刑事は手錠を掛けた。
「金を借りて、その利子が払えなくて、だから……」
Eは聞いてもいないのに、言い訳を湯水のように口から次々と零した。
この分だと、Dの被害者はEの他にもいるに違いない。誰が被害者なのか分からないな。と刑事はうそぶいた。
完
※正しい順位を推理してみてください。
『3位がE』ということは条件に含まずに、最後の条件のみで、全ての順位が確定します。
入賞者にメダルを ぎざ @gizazig
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