短編48話  数ある預かる元気な女子

帝王Tsuyamasama

短編48話  数ある預かる元気な女子

「お、来たか」

 白いセーター&薄い黄色のひまわり柄エプロン装備の母さんと一緒に朝ごはんであるうどんを準備していたらインターホンが鳴ったので、俺は玄関へ向かった。

「へいへい~っと」

 外履き用のスリッパを装備して、玄関のドアを開けた。

「おはよーゆっきー!」

「おはよーさん」

 薄ピンクの長そでフリースに白くて長いスカート装備で朝っぱらから声も左腕もテンション全開なこいつは秋日野あきひの 詠美えいみだ。

 小学校のときからの仲良し。いろんなことして遊んできた同級生元気っ子。身長は女子の中では高めらしく、健康満々男子中学二年生塩谷しおだに 幹雪みきゆきであるこの俺より高いウッウッ。(めちゃくちゃ身長差があるってほどでもないけどなっ!)

 髪は肩にかかるくらいだがいつも何かしら結んでる。今日はちっちゃい濃い目の赤いリボンで結んで右(あぁ詠美からしたら左か)にぴょこんとひとつにまとめて下ろされている。

「今日もエプロン姿がお似合いですなぁ~」

「うっせっ」

 にやにやしながら言ってきやがってコンニャロッ。

 俺は水色の厚手の長そでシャツを腕まくり・黒の綿パン・そして家庭の授業で作った飛行機柄の青いエプロンゲホゴホッ。

「やあおはよう、今日はちょっと寒いねぇ~」

「おはよう幹雪くん。今日もよろしくね」

「おはよーさんっす」

 そんな詠美の後ろには茶色いジャケット装備の詠美パパと紺色フリース装備の詠美ママもいた。


「いっただっきまーす!」

 五人そろっていただきますが食卓に響

「ちゅるちゅる~むぉいひー!」

「なんで口に入れてZERO秒でうまさわかんだよっ」

 いたと思ったら本日も俺の左横でにっこにこ食べてやがるぜまったくっ。

 日曜日はほぼ毎週、他にも祝日や夏休み春休み冬休みのときとかに不定期で起きるイベントである。これ、朝ごはんを一緒に食べるのもそうだが、夜ごはんまで詠美は俺んで過ごす流れなのである。

 大抵は朝ごはん一緒に食べて、食べ終わったら親三人が一緒に出かけて俺たちはおうちでお留守番。(たまについていくこともあるけどまれかな)

 夕方親たちが戻ってきて、夜ごはん一緒に食べて、秋日野家は帰っていく。というのがベーシックなスケジュールだ。

 小学校で詠美と仲良くなって詠美ん家へ遊びに行ってたら、詠美パパ詠美ママからそんなスケジュールの提案をされた。

 俺は詠美と遊ぶのは盛り上がるからと即おっけー。以来日曜日を中心にこうして朝ごはんわいわい昼ごはんちゃっちゃ夜ごはんわいわいが数年続いている。

 うちの父さん母さんと詠美パパも同級生だったらしい。残念ながら詠美ママは詠美パパとは大学生のときに出会ったらしいので、うちの父さん母さんとは学校は違った。歳は一緒だけど。

 その父さんは去年から仕事の関係で遠くに単身赴任中である。長い休みの日にたまに帰ってくる程度。

 ちょいちょい何ヶ月かあるこの単身赴任も秋日野一家がやってくる理由のひとつにもなっている。車は父さんが持っていったから今うちにはなくて、詠美パパママがうちの買い物とかの荷物を一緒に運んでくれてるんだ。ありがたやー。

 食材の買出し程度ならちゃちゃっとスーパーへ行くだけだが、米とかでかいやつとかは~……な?


「それじゃあいってくるわね」

「いってらー」

 さすがにエプロン装備したまま出かけるなんていうドジはなかったようだ。

「詠美もちゃんとおりこうさんしとくんだぞ」

「あたしそんなに子供じゃないよっ!」

「お昼ごはんはお弁当を食べてね。今日は春巻が入っているわよ」

「やたー!」

「その反応は子供にカウントされないのか?」

「はっ! ゆっきーのあほー!」

「ぐぇっ」

 詠美身長高いからヘッドロックパンチも決まる決まる……。

「まったく元気だなぁ……幹雪くん、任せたよ」

「あいよっ」

「いってらっしゃーい!」

 ということで元気な詠美とヘッドロックめられてる俺に見送られて、母さんと詠美パパママはにこにこしながら出ていった。

 白い玄関の扉がゆっくり閉まっていき……かちゃんと閉まるとやっぱちょっと静か。

「さぁーてっとぉー! まーずーは~……」

 やっとこさヘッドロックから解放されたと思ったら詠美はくるんとリビングへ戻った。行き先は知っている。どうせ……ほらばふって音が聞こえた。

 俺も戻ろ。リビングの扉を閉めると

「んぅ~っ!」

 薄い緑色のソファーへ仰向けになりながら全身めっちゃ伸びしてる女子発見。ほんと身長でけぇなウッウッ。靴下は白い。

「はふ~」

 腕も全開ばんざい。表情もさぞ満足そうだ。目つぶってる。

 ソファーは大小ふたつあり、でかいソファーはそのでけぇ身長で占領されてしまっているため、俺は横のちっさいソファーに腰掛ける。だいたいここまでの流れまでがテンプレート。

「詠美ー、元気かー?」

「元気に決まってんじゃーん! さっきどこでだれと一緒においしい山菜うどん食べたのよっ」

「せやな」

 父さんが単身赴任してるとこから送ってくれた山菜うどん用のご当地山菜お徳用パック。お徳用なので俺と詠美の分はもっさり入れさせてもらった。うどんは冷凍の。つゆは母さんが作った。

 そして元気アピールなのか足にょこにょこ動かしている。

「詠美ー、身長伸びたかー?」

「伸びたよー」

「そっかウッウッ」

 いや俺も一応伸びてはいるけどさ……これじゃ追いつくことはなさそうだぜウッウッ。

「詠美ー、食べてすぐ横になったら太るらしいぞー」

「あたし乙女だから太りませーん」

「乙女すげーな」

 その割には保健の教科書でも理科の教科書でも家庭の教科書でもそんなこと書かれていなかったような。はて。

「あぁ~……なんか寝ちゃいそー」

「昼寝どころか二度寝って言えるくらい早ぇーな」

 にょこにょこ止まった。目はずっと閉じられたまま。

「なんかここ来ると落ち着くんだよねー」

「秋日野家は常に戦場なのか?」

「平和ー」

 そのソファーは平和のさらに上の超平和なソファーらしい。

「きっとゆっきーが催眠術かけてるんだねー」

「あなたはだんだん眠くなるー」

「すぴー」

「俺いつの間にか超能力者」

 そして平和をおびやかす超能力者塩谷幹雪。

「ほれっ」

「ん? ふぇぷっ、ちょっとなにすんのよぉ!」

 俺の座ってるちっさいソファーの背もたれに掛けてあった灰色と茶色のしましまブランケットを詠美に投げつけたケケケ。

「起きたら起こしてくれー」

「ちょっ、あたし寝そうって言っただけで寝るって言ってないよ!?」

「すぴー」

 先手必勝これ武士道なり!! 身体を横に向け、ひざから先は右のひじ掛けにだらんとさせて、両手を頭の後ろに組んで俺も寝る体勢に入った。

「ゆっきーの方が寝る気満々じゃん!」

「おう。詠美も寝たら?」

「んむぅ~っ」

 目を閉じたから実際の表情はわからないが、まぁ今想像しているぷんぷん表情そのままなんだろうな。

「うどん食べた後にすぐ寝ると太っちゃうらしいよ~?」

「ふーん」

「ふーんて」

 うむ。詠美の言っているように平和ではあるかな。

「……ゆっきー」

「んー?」

「……これ。掛けてほしいなっ」

「すぴー」

「ぶーぶー」

「はいはいっと」

 投げつけたのに結局俺が掛けてやるという。

 俺は起きて詠美のそばに寄って、

「んっ!」

 と俺を見上げながら手渡してきたブランケットを受け取り、

「ふんっ」

 ふわさぁ~っと一発で詠美の足先から肩んとこまで掛けることに成功。慣れたもんだぜっ。

「ありがとー」

「どういたまして」

「それを言うならどういたしましてー」

 両手ともブランケットの端を握っている詠美は笑顔で見上げてきていた。

「寒くないか?」

「大丈夫」

 玄関のドア開けたとき風はあったが、天気自体は晴れてるからなぁ。

 あ、詠美はリボンを解いた。そのまま軽くまとめてひじ掛けに置かれた。たったそれだけの動きで髪は広がった。

(……ふーむ……)

「ん? なに、やっぱり遊ぶ?」

 おめめぱちぱち詠美。

「おやすー」

「……うん。おやすみなさい」

 髪が下ろされたにっこにこ詠美のお顔は引き上げられたブランケットで隠れた。そのまま顔は背もたれ側へ傾けられた。

(結局すぐ寝るんかーい)

 ま、この辺の流れも通常運行のうちのひとつと言える。

 てことで俺もまたさっきの寝る体勢へ。ふぃー。


 時計もカチカチタイプじゃなくスルスルタイプだから静かだ。でも塩谷家の家具であるはずのそこのソファーには詠美がすやすや寝ている。

 実は詠美、聞いたところによると、小さいときからすごく疲れやすい体質らしいのだ。病院の先生的には無理しすぎなければ大丈夫とのことらしいが。

 本人の性格自体はあんな感じではちゃめちゃ。んで起きている間は自分の残り体力なんてお構いなしにはっちゃけちゃう。そのせいでエネルギーを使い果たすこともしょっちゅう。小学校のときなんて学校でへろへろになることもよくあった。

 大学一年生の奏絵かなえ姉ちゃんという詠美の姉ちゃんもいるんだが、高校のときからひとり暮らししている。音楽を頑張ってるらしい。昔はよく詠美の面倒を見ていたようだ。子守唄一緒に歌ったなぁ。

 詠美は気持ち的には友達とはっちゃけたい、でも疲れたらすぐ寝ちゃう。でもでもやっぱりはっちゃけたい。そんな詠美の状況が、今のこのお休みの日塩谷家おうち時間イベントにぴったり当てはまっちゃっているらしい。

 昼間他の友達混ぜて遊ぶこともある。ボードゲームやらカードゲームやらいっせーのーでーやらあやとりやら紙風船やらせっせっせーのよいよいよいやら。家の中でできる遊びはやりまくってきたし、新しいおもちゃがやってきたらまたすぐ一緒に遊ぶだろう。

「むにゅ~……」

 ちらっと見てみたら、詠美が寝返り打って顔が外側に向いた。ブランケットフェイスシールドはもう解除されてしまっていて、なんともまぁすぴすぴすやすや幸せそうな詠美の寝顔がそこにあった。

「詠美ー」

 ほら、エネルギー切れた詠美はこのとおりである。昨日疲れたことがあったのかもしれないな。

「……好きだぞー」

 その元気そうな寝顔を見るたびに、俺は詠美を大切にしてやりたいって想い続ける。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

短編48話  数ある預かる元気な女子 帝王Tsuyamasama @TeiohAoyamacho

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ