あなたの理想の死に方、叶えます

ちびまるフォイ

家族に囲まれながら静かな最期を迎えたい!

「理想の死に方はありますか?」


「家族に囲まれながら静かに死にたいですね。

 そういったプランはありますか?」


「ええもちろんございますが……なかなか難しいですよ」


死に方プランのSSSランクにかかれている値段を見て顔がひきつった。


「こ、こんなに高いんですか……」


「最近は家族が離れて暮らすケースも多いですしね。

 それに病気も多様化しています。なかなか家族に囲まれての静かな死は難しいんですよ」


「うーーん……しかしなぁ……自分の最後だしなぁ」


自分の頭の中ではなおも天使と悪魔が交渉を続けていたが、

それらの意見をすべて耳をふさいで腹を決めた。


「SSSプランの死をお願いします!!」


「よろしいのですか?」


「ええ、どうせ死ぬなら妥協はしたくないんです。

 全財産を使うことになっても、理想の死を選べるのならそれがいいです」


「かしこまりました、ご契約ありがとうございます」


死に方プランには「締結」と書かれたはなまるスタンプが押された。


「1点だけ説明することがございます」


「あ、はい」


「いくら死に方を予約したからといって未来を確約したわけではありません。

 こちらのパンフレットに書かれている禁止事項を行った場合には、

 契約したSSSプランを破棄となりますのでご注意ください」


「ま……まじですか」


「映画館のチケットを買って、いざ上映中に眠ってしまったから

 もう1枚チケットをよこせと言われてもできませんよという話です」


パンフレットを開くとSSSプランの死に方へ至るための禁止事項がずらりと書いてあった。


・暴力団やその関係者には近寄らないこと

・睡眠や運動の収監を常に欠かさないこと

・家族に対してえらそうな態度を取らないこと

・危険な場所や危険な行為をしないこと


「……なんか、範囲広いですね。知らずに違反してしまいそう」


「でしたらこの危険感知腕時計をどうぞ。

 もしもSSSプランから逸脱するような人生の送り方をしたらアラームがなります」


「助かります! ありがとうございます!」


「どうぞ幸せなラストをお迎えください」


死亡プラン代理店を出ると晴れやかな気持ちになった。


全財産のほとんどを失ってしまったが、

病気でのたうち回りながら死ぬ不安が解消された。


未来への不安がなくなるだけでこんなにも今が充実とは思わなかった。


「最後にはきっといい人生だったと思えるんだろうなぁ」


そんな未来に思いを馳せているときだった。

ふと見た先に川で溺れている人が、暴力団に絡まれていた。


「だ、だれか! ゴボゴボ! 助けてーー!」


「兄ちゃん、ぶはっ! 金を! ごぼぼっ! 出しやがれ!!」



「どういう状況!?」


絡まれている男はどうやら泳げないらしく、

泳げる暴力団風の悪い男に沈めながらカツアゲを要求されていた。


どちらも自分には気づいていない。

知らんぷりしてすぎることもできる。


それに全財産をはたいて契約した自分の人生の最後を迎えるためには、

危険な行為や暴力団にかかわってはいけない。


しかし……。


「だれかぁーー! 助けてーー!!」


その声に気づかれないうちに逃げようとしていた足が止まった。


「ああもう! なんでこんなことになるんだ!!」


なかばヤケになって川へと飛び込んだ。

危険察知腕時計はさっきからアラームが止まらない。


それでもと暴力団のところまで泳いでいった。


「おいお前! 警察を呼んだぞ!」


もちろん嘘だが自分の中で出した最善策だった。

幸運にも暴力団風の男には響いたらしく血相を変えて対岸へと泳ぎ逃げていった。


絡まれていた男をひっぱって岸まであげるとひと安心。

男は繰り返し繰り返し感謝して手を合わせていた。


「本当にありがとうございます、本当にありがとうございます!」


「いったいなんであんなことになったんです?」


「たまたま私が大量のお金を運んでいるのを見られて、

 それでこのお金の入ったバッグを奪おうとしてきたので

 慌てて川に飛び込んだんですが泳げないことを忘れてたんです」


「なるほど……まあよかったです」


「……あの、顔色が悪いですよ?」


「いいんです、こっちの話なんで」


「あなたは命の恩人です。私にできることかどうか知りたい。どうか話してください」


男に自分が死に方プランでSSSランクの死亡計画を予約したこと。

そして今回の救出劇が禁止事項にあたり、全財産を使ったSSSプランが水の泡になったことを話した。


「……そうだったんですね。それはよかった」


「よかった? よくないですよ。あなたを助けられたのはよかったですが

 俺は全財産をうしなったうえに将来の死に方も保証されなくなったんですから」


「大丈夫です。実は私、死亡ファイナンシャルプランナーなんです。

 いつもお客様に理想の死に方を提供しているんですよ」


「え!? そうなんですか!」


「あなたへのお礼がなにかないかと考えていましたが好都合でした。こちらをどうぞ」


男はせっせとかばんから書類を取り出した。

それはやけに高級そうな金色の紙だった。


「SSSプランの死に方契約書です。今回のお礼に無料で契約させてください」


「無料でって……いいんですか?」


「こっちのセリフですよ。あなたが助けていなければ私は今頃どうなっていたか。

 それでSSSプランが破棄になったのだから、ぜひもう一度保証させてください」


「嬉しいです! まさかまた、家族に囲まれて静かな死を迎える未来が手に入るなんて!!」


「……しかし、これではまだ不十分ですね」


「え? そうですか?」


「あなたが私を助けることで失ったものを再度渡したに過ぎない。

 でしたら、こちらもどうぞ」


男は持っていたお金入リのバッグを差し出した。


「これ、さっき男に取られそうになっていたバッグでしょう!? 受け取れませんよ!」


「受け取ってください。この世界で自分の死亡計画をおじゃんにしてでも

 人を助けに飛び込んだあなたの勇気にはこのお金以上の価値があります

 

 あなたには死ぬまで豊かで幸せな生活を送って、

 そして家族に囲まれて静かな最期を迎えてほしいんです!!」


断っても、断ることを断られそうなほど強い意思を感じた。

SSSプランを契約できるほどのお金を受け取った。


「私はこれで失礼します。どうか幸せな人生を」


男は何度も頭を下げながら去っていった。

手元にはSSSプランの死亡契約書と、たくさんのお金が残っていた。


お金を大事に抱えながら家に戻ると家族は全員驚いていた。


「そんな大金どうしたの!?」

「オヤジ、それだけの金持ってたのか!?」


「説明は今度するよ。今はたくさんのことがありすぎて疲れたから休ませてくれ」


泳ぎ疲れた体を休ませるためにベッドに飛び込むと、そのまま深い眠りについた。


その夜のこと。

まだ眠る父親の周りに家族全員が集まっていた。


「せっかく舞い込んだ大金を好きに使わせてたまるか……!」


誰にも気付かれないようにと家族は協力して静かに父親の首を締めた。

家族に囲まれながら静かな最期となった。

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