第55話 5つの星に願いを

 俺は、ゆうのあの言葉を聞いてから、落ち着かない冬休みを送っていた。


(いつなんだ? 今日? 明日?)


 あれだけもう想いは冷めたと言っておいて、日にちや時間ばかり見て気になっている。


(電話をして聞いてみるか? いや、やっぱり……。でも……)


 ゆうからは、場所だけどこで告白するのかを聞いている。恐らくだがそこに告白するつもりだろう。


 問題なのは、告白する時間だ。いつなんだろうか。もうやってしまったのか。告白の返事は?


 胸に手を当てて、自分はどうしたいんだと何度も何度も問いかける。もうゆうにしてしまった事のように、次こそ間違わないように。


 自室のベッドの上で転がったり、シャワーを浴びて心を落ち着かせながらよく考えた。


(もう分かってるんだろ? 行かなきゃ……。なのになんで……)


 心が前を向こうとしない。それはなぜか? 

 告白をするということは、それは……。


 蘇る過去に怯えながらも着替えた俺は、少しずつ少しずつ外へと出て、彼女の家へと向かった。


 ゆうの家の隣である事は、彼の口から直接聞いている。


 いつものようにゆうの家へと行く道を通って、彼女の家の目の前まで着いた。


 しかし、インターホンを押すのを躊躇ってしまう。


 勢いで来てしまったが、今はいないのではないか? もう告白されたのなら今来た俺なんかと、理由を見つけて帰ろうとしている自分がいる。情けない。


 勇気をだしてインターホンを押すと、しばらく間がありいないのかと思ったが、声が聞こえた。


「どちら様ですか?」

「あ、ええ〜と。青島涼あおじまりょうだけど」

「今そっち行くから待って〜」


 扉が開くと、彼女が私服姿で出てきた。学生服やメイド服とは違い、とても新鮮味があって可愛いい。


 緊張しながらも、案内されて中に入ってかリビングへ。


「で、今日は何しに来たの?」 

「ごめん。いきなり来てびっくりしたよね」

「まぁ、それもあるけどね」

「どういうこと?」

青島あおじまはさ、私のこと覚えてる?」

「え、何のこと?」

「幼稚園の頃に会ってるんだよ。お互い、やんちゃだったな〜」


 いきなり砕けた口調になり、俺の事をどうやら最初から覚えていたようだった。


「お、覚えていたのか!?」

「いや〜、その口振りだと覚えてたんだね。変わったね〜しっかし。前はいじめばっかだったのに。ゆっ君と友達になってるし」


 俺たちは過去の話でなぜか盛り上がった。てっきり嫌なやつと思われていると思ったのだが……。


「こんなに話をしてなんだけど、嫌いじゃないの?」

「誰が?」

「俺の事……」

「あぁ〜、過去は過去で今は今だろ? 今でもいじめをやっているならしめてたけどな」


 目が怖くなり、睨んでくる。


「いや、もうやってないよ流石に」

「ならいい。ていうかさ、気にするぐらいならするな。もうこの話はなしな」

「わ、分かった」


 気まずい空気が流れるが、彼女から今日来た訳を聞いてくる。


「こうやって駄弁りに来たってんならいいけどよ。そうじゃねえんだろ?」


 そう、俺は聞きたかったんだ。まだゆうのことが……。


「やっぱり、ゆうのことまだ好きなのか?」

「あぁ。好きだ。多分、誰でも言うと思うよ。あいつに惚れちまうなんて。でも、どうやら私は……」


 急に彼女の目元に涙が溜まっていくのが見えた。見られないよう彼女は目を閉じながら、違う方向を向く。


「ご、ごめん! 俺が何かしたか?」

「馬鹿、お前のせいじゃねえよ……。くそ……なんで、見ちまったのかな……」


 悲しい事があったのだろうか。涙を流しながらじゃ話せないと思った俺は、何があったのかを聞いた。


「……。ゆっ君は、どうやら……私の事は、選んでもらえなかったらしい……」


 この話を聞き、あの日になぜあんな事をゆうが言ったのかを。


 俺に同情、いや……あいつがそんなふうに好きな人を選ぶはずがない。それは、俺がよく知っている。


 きっとあいつは見つけたんだ。ずっと一緒にいたいと思える人物を。


 泣いている彼女に、俺は自分なりの言葉で気持ちを伝える。


「こんな時になんだけど、俺は……腹黒ふくぐろの事が好きだ……。幼稚園の頃からずっと」

「な、何を言ってんだよ! 今、……」

「分かってる。あいつの事が好きなんだろ? だから、ずっと待ってる! 俺の事をちゃんと知ってもらってからでいい! あいつへの想いに決着をつけてからでもいい! だから……頭に置いといて考えてほしい! それだけだから、今日来たのも……それだけ伝えに来たんだ」


 言いづらい場面だったが、それじゃあ相手にいつまでも想いを伝えられない。この想いに、決着がつかない。あとは……彼女の問題だ。


「今はまだ……」 

「立ち直れるわけないよな。そんなすぐに前向けるやつなんてこの世にいない。だから、後回しでいい。忘れてくれても構わない。ただ、好きだって事を今日は伝えたかった。それだけなんだ」


 俺はその後、泣き止んだ彼女を見届けてから、家へと帰った。彼女がいつになれば前を向いて、返事をくれるのかは分からない。でも、これは自分で行動したこと。悔いはなかった。



 ☆☆☆



 短い冬休みも終わり、それからというもの月日が流れて僕達はもう高校3年生。


「ゆっ君! 一緒に登校しよ!」

「うん。じゃあ行こうか」


 いつもと変わらないというわけでは無いけれど、受験生になる僕達はこの先、どんな未来が待っているのだろうか。


 脆音もろねと付き合ってからそう思った。


「ねぇ今度さ、ゆっ君の小説見せてよ。タイトルは?」

「それは、まだつけてなかったけど、もう決まってるんだ」


 そう、これは奇跡の物語。願いを叶えようと、何かを得ようともがいて考えて前に進む主人公の話。


「タイトルはそう、5つの星に願いを」




































































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