第54話 懐かしいあの場所で
両親には帰りが遅くなると伝え、待ち合わせ場所である駅に向かった。
待ち合わせ場所に先に着いた僕は、彼女を待つ。
寒くならないようにカイロをポケットに入れているので温かい。薬もちゃんと飲んできたし、心配することはこの線路の先だけだろう。
「えへへ〜、おまたせ〜。待った?」
「待ってないよ。時間はまだあるけど、お腹空いてない?」
「大丈夫だよ。ご飯食べてきたから」
他愛もない話の中でも、彼女と話しているととても明るくなれる。けれど、
「何? 私の顔に何かついてる?」
「いや、何もないよ」
「そう?」
何か彼女の様子がおかしい。いつもであれば、接近して腕を掴んでくるはずだったのに、会ってから全然ベタベタしてこない。
「ねぇ、何かその……。遠慮してない?」
「え? やだな〜。そんなことないっ……」
すると、彼女の目から涙が少しずつ溢れてくる。見られないよう彼女は、素早く背を僕に向け、沈黙の時間が流れる。
「ご、ごめん! そんなつもりじゃ……」
「だ、大丈夫! 何もないよ!」
「ねぇ、一緒にいるの嫌だった?」
「え? ゆっ君が嫌いになったんじゃなくて?」
どうやら僕達の間で、誤解が生まれているようだった。
「なんで? 僕何も言ってないでしよ?」
「え、だって! 急に二人きりでお出かけなんて、絶対変だもん! だから、いつもひっ付いて腕を組むのが嫌いだから、思い出の場所に連れて行かれて告白の返事で断られるんだと思って……」
「いや、なんで腕組むのが嫌なだけでそんな暗いラストを迎えなきゃいけないの?」
「違うの?」
「違うに決まってるよ!」
お互い誤解が解けた後、彼女は勘違いしていた自分に恥ずかしくなり顔が赤くなる。
その後、目的の電車に二人で乗り、座席でひっつきながら目的地に着くのを待った。
それからしばらくして天の川駅に到着した後、バスに乗って僕達が卒業した幼稚園へと向かった。
近くで降りてから、幼稚園の入口付近で中を覗くと、子供達がはしゃいで遊んでいる姿が見える。
「懐かしいな〜。私達にも、あんな小さい時があったんだな〜って思うよ」
「うん。あ、思い出したよ。あの時の公園の場所。少し遠いけど」
僕達は、あの丘にある星空の下公園へと向かった。楽しく過去話をしながらだったからか、そんなに苦もなく目的地へと着いた。
ここからゆっくりと丘を登っていき、頂上へ着く。すると、見たことのない景色が僕達の目を釘付けにした。
「わ〜、綺麗……」
彼女は美しい景色に一言だけ呟き、一方僕は言葉を失う程にその光景に見入っていた。
丘から見える景色は夕日の光に包まれ、建物1つ1つが夕日色に染まっていく。
「ここには夜の姿と星空しか分からなかったんだけど、こんなに綺麗な街だったんだな〜ってこの景色を見て気付かされたよ」
「私も、この景色をゆっくんと一緒に見れてよかった」
会話が途切れると、沈黙したまま二人で目の前の景色をしばらく眺め続け、そして……。
「ねぇ、最初に出会った幼稚園の頃は、確かにどこか暗い表情とか精神状態もおかしかったかもしれない。けど、初めて見せてくれたあの笑顔は……」
僕はもしかしたら、
「脆音、僕も君の事が好き……」
気持ちを伝えると、彼女の唇が自身の唇に触れる。
「ありがとう……。嬉しい……大好き……」
この時見せてくれた彼女の笑顔は、夕日と共に最高の輝きを見せてくれた。そう、あの頃に見た星以上の輝きを。
告白をしてくれた彼女たちにも自分の気持ちを伝えなくてはならないが、今はこの時間を大切にしたいと思ったのだった。
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