私のおうち時間

第1話

　リモートワークに外出自粛、なんてステキ！　おうちで過ごすのが一番好きな私にとってはとってもうれしい！

会社に行くときの面白くないダークスーツも着なくていいし、仕事さえしていればいつもの一番私らしいスタイルでいられます。

　白い家具と花柄のカーテン。ここが私のお城。天井からシフォンを垂らしたベッドで小鳥の声のアラームで目覚めます。

　朝ごはんはネグリジェのままサッと済ませて、まずシャワーを浴びて髪を洗います。顔も泡をたっぷり使ってきれいに整えます。髪を乾かしたらコテで丁寧に巻きましょう。

　今日のお洋服はアーリーアメリカンテイストの小花柄のワンピース、パニエは2枚重ねでスカートをふんわりさせて。お仕事はしないといけないから、フリルのたくさんついたエプロンでも合わせようかな。そしたらヘッドドレスはボンネットじゃなくてワンピースと共布のリボンをカチューシャに結んで、今日はちょっとメイド風。

　お仕事に取り掛かる前にお茶を入れます。朝はちょっと渋みのあるダージリンでシャキッとしましょう。お気に入りのベリー柄のカップとポットのセットを使えば気分も上がります。

　スワロフスキーでデコレーションしたMacBookは、見た目に反して高スペック。マウスは可愛くないけど、こればかりは使いやすさ優先で。

　今日仕上げなきゃいけない案件は、コレね。

「衣料用ベルト」。

　私のお仕事は特許出願用の図面を書くこと。出願前の情報をお預かりしてますからね、詳しくは申せません。

　えーと、ここをこうすると、ここがこう引っ込んで、これが外れるとスルッと素早く…なるほど。あ、くれぐれもご内密にお願いします。

　この案件は楽しい。いつもは厚板とか薄板とかパイプ溶接とか重機のアタッチメントとか、ガテンな内容ばかりだけど、これはお洋服好きにはとても興味深いです。新しい技術が先に見られちゃうのもラッキー。誰にも言えませんが。

　私にも何かお洋服に関すること、発明できないかしら。いつも使ってて、ここがこうだといいなあって思うこと、なかったかしらね。そうだ、パニエなんてどうでしょう。今日みたいに2枚重ねなくてもボリュームを調節出来るパニエ、あったらいいなあ。風船みたいに空気の量で膨らみを調節するの。いくつかのパーツに分ければシルエットも変えられるわ。私は腰がちょっとさびしいから、パニエでボリュームつけられたらうれしいな。お洋服のデザインによって最善のシルエットが作れたら最高。確か前にキャンプ道具で軽くて空気を入れて使う寝具の出願があったけど、あの素材使えないかしら。

あれ？　電話が鳴ってるわ。

　会社のMくんだわ。何事でしょう。この歳になると後輩の面倒も見なくちゃね。でも、フェイスタイムは拒否！オーディオだけで。

「はい。もしもし」

「あ、センパイ！助けてください！明日までの新件抱えてるのに、この間チェック出しした図に大幅変更が入って、コレも明日までって言われちゃって」

「今抱えてる新件は何図だ？」

「全部で8図でまだ２つしか終わってなくて」

「わかった。慌てるな。その大幅変更は説明を受けてるお前がやれ。新件の方は俺がやる。原稿をpdfにして、あとお前が作った2点も一緒に送れ。パスワードはいつもので。慌てて間違えるなよ。じゃ届いたらまた電話するから」

　くれぐれもご内密にお願いいたします。

おわり