十二時の魔法が解けた
香澄 翔
十二時の魔法が解けた
部屋の時計の針が十二時をさした。
恥ずかしさのあまりにベッドの中で身もだえする。
深夜になったから魔法は解けてしまったのだろう。私の隣に眠る少年の顔をじっと見つめる。まつげが意外と長くて可愛い。
なんてことをしてしまったのかと、昨夜の事を思い出して顔が赤く染まる。私にこんな趣味があったなんて、もう二十四歳にもなろうというのに全く知らなかった。
彼はおそらくは十六歳くらいだろうか。もしかしたらもう少し年下なのかもしれない。
道ばたに捨てられるように座り込んでいた少年に一目惚れして、思わず家に連れて帰ってしまった。
触れた体は意外とがっしりとしていて思わず男性を感じてしまった。
まさかの事に顔が真っ赤に染まる。私は何を思っていたのだろうか。
酔っていたからなぁ、と誰も聴いていないのに言い訳をする。
昨日は会社で少し嫌な事があって一人酒のあとふらふらとしながらの帰り道。そこにいた彼は体のあちこちが傷だらけで、でも綺麗な顔をしていた。少し時代錯誤の服はずいぶんと古いものなのだろう。あちこちつぎはぎがされていて、もしかしたら初めは大事にされていたのかもしれない。
でもとうとう捨てられてしまったのだろう。彼は寂しそうな顔を座り込んだ隙間から覗かせていた。
いけない事をしている自覚はあった。これも犯罪になるのだろうか。
少しだけ身を震わせる。
もちろん誰かに見られたわけでは無いし、いちいち訴えてくる人もいないだろう。
ただその切なげな表情にとても可愛いさを感じていた。
連れて帰ってからすぐに服を脱がして、それから汚れた体をお湯をつけたタオルでぬぐってあげた。ぬぐってあげたら思っていたより綺麗な体にどきどきと胸の高鳴りを感じながらも、少し倒錯した感情を覚えていた。
こんな子に私は何を考えているのだろうとも思うものの、だけどこの子とずっと一緒にいたいなとその時は思っていた。
それからお風呂に入る。さすがに一緒に入るのはやめておいた。
互いに綺麗になって。でも少し面倒になって、ろくに服も着ないままベッドへと潜り込んだ。その隣に彼を眠らせる。
どんどん高鳴る胸に私は恍惚としたものすら覚えていた。
これからはずっと一緒にいられるのだと思うと、愉悦に体が震える。
そしてとなりの眠る彼の頬をつんとつついてみる。
ふわりと柔らかい。少しだけ微笑ましい気持ちになって、でも羞恥心に顔が熱くなるのを感じていた。
こんな事をしたのは初めてだった。
隣に眠る彼は何も答えない。
ただ静かに眠っているだけだ。
彼を私は抱きあげると、それからぎゅっと体を抱きしめる。
「恥ずかしいけど、これからよろしくね」
私の問いかけに彼はもちろん何も言わない。
「名前をつけないとね。何がいいかな」
彼の本当の名前は何だったのだろうか。それはわからない。
でもこれからは私の家で過ごすのだから、新しい名前が必要だろう。そうしなければ名前を呼ぶ時に困る。
「うーん。そうだね。太郞くんにしよう。なんとなくそんな感じだから」
彼は私の声に何も応えない。
それもそのはずだろう。
人形が声をもらすわけはないのだから。
道ばたに捨てられて、座り込むようにしていた彼に一目惚れして思わず連れ帰ってしまった。
まさか私に人形趣味があったなんて、本当に思わなかった。
捨てられたものを勝手に持ち帰るのも犯罪だと思う。
だけど誰に迷惑かける訳で無いからいいよね。
誰への言い訳かもわからなかったけど、私は心の中で呟く。
でもこれからは家に帰れば彼がここにいる。私のおうち時間は楽しい時間になりそうだ。
「よろしくね。太郞くん」
私は彼に向けて、にっこりと微笑んだ。
彼は何も答えなかったけれど、私はとても満足してもういちど眠りについた。
幸せな一日だった。
十二時の魔法が解けた 香澄 翔 @syoukasumi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます