リモートアサシン
今村広樹
本編
ボクと彼女の出会いについて、どこから話そうかなと考えて、キッカケから話すことにしよう。
彼女と出会った場所はグリッサ島にある、パンテマサカルと呼ばれる街だった。
グリッサ島は大陸の南東にある南東群島の北の端にある、亜熱帯の島だ。大戦期が終わってからは、グリッサ島は共和国の領土となっていたが、東部で起こった独立運動の結果として、東グリッサとドラゴニア自治共和国領西グリッサに別れた。
さて、パンテマサカルになんで来たかと言うと、当たり前の話だが仕事。残念なことに観光じゃない。で、その仕事の内容としては、彼女を荼毘に伏して、彼女をめぐる事件に関係するいっさいがっさいをお掃除する。職業の名前は?ってかい。わからないかな、掃除屋だよ、清掃業ってやつだ。
さて、話を戻そう。彼女と『出会った』場所は、町を外れた路地のどんずまりだった。薄暗いところに彼女はいた。顔をめった斬りにされて、四肢を分離させられて、いわゆる猟奇殺人ってやつなのだろう。
確か、今回の彼女の処理を依頼してきた男は
「まあ、いわゆるお水の方の商売の娘なんですがね、ヤッカイなのに引っ掛かっちまって、こんなことになりましてな。まあ、いろいろ隠さなきゃいけねえこともあるんでね、貴女に掃除を任せるっつう話ですわ」
と、言っていた。
さて、遺品を整理していたボクは、彼女の免許証を見つけた。そこには、レベイラという名前と住所が書かれていた。行き掛かり上仕方ないというか、世話焼きというか、ともかくその住所にいくと、そこには母親らしき人物が住んでいた。
ボクは彼女に話をすると、彼女はこう返す。
「ええ、ありがとうございます。あの娘は本当に良い娘で、学校の課題で育てた花が自然の摂理で枯れた時も哀しくて泣くような娘でした。そんな娘を殺したやつをわたしは許せません。どうしたらいいのかしら?」
と、言うわけでボクは今、あんたの処に来たというわけだ。あんたは幸運だよ、大半の生き物は自分がなぜ死ぬかなんて、説明されないもの。じゃあ、さようなら。
銃声。
「ふう、ようやく終わった」
ボクは深いため息をつきながらVRゴーグルを顔から取った。
「しかし、便利な世の中になったもんだよ。あいてに会わないで、暗殺ができるなんてなあ」
少し説明をしてみようか。ボクはいま自分の家、といっても1LDKという間取りのアパートの1室なんだけども、つまりはあいてを相当離れてるってわけだ。どのくらいかといえば多分2,3000キロメートルくらいかな、たしか。とにかく遠い。では、どうするかというと、仮想空間でそこに行ってしまえばいい。いわゆるコロナ渦でも、これならおKってわけだ。仕組みは知らないけど、この仮想空間は現実にフィードバックされて、実際に件のくそ野郎と話すこともできるし、触れたり撃つことだってできる。つまりは『自宅にいながら暗殺』ができるってわけだ。
ともあれ、ボクがテレビを付けると、さっそくこんなニュースが流れた。
「緊急速報です。西グリッサ州議会議員のボルタ氏の死体が発見されました……」
リモートアサシン 今村広樹 @yono
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