僕の考えた最高のおつまみは、胡瓜の漬物と味付け海苔。
@raitiiii
第1話 僕の考えた最高のおつまみはこれだ!
宿題をやって晩御飯を食べた後、僕は見たいアニメがあったから、リビングのテレビ台の前に座った。
慣れた手つきで僕は録画していたアニメを見ようとする。
しかし、そんな僕をビールを飲んで上機嫌になっているお父さんが止めてきた。
「あ、今日はお父さんがこの時間帯はテレビを見る日だろ? 見してくれよー」
お父さんは酔っ払っているのか顔が赤い。
いつもはキリッとしている目が、とろーんと垂れていた。
「えー! 見たいー!」
「お父さんだって見たいー! いいじゃんいいじゃん。 アニメ録画なんだから、後から見れるだろー??」
「そうだけどさぁ……」
「それに、今の時間帯はお父さんが見たいテレビを見る時間って、前決めたろ? 見してくれよーー!」
「ん〜……分かった。 ワガママ言ってごめんね、お父さん」
「別にいいよ」
そう言って、お父さんはソファにドカッと座ってリモコンを操作する。
少しすると画面からはおじさんアナウンサーの声と、大音量の声援や応援歌が聞こえてきた。
「あ〜今日も負けてるよ。 今日負けたら4連敗か?? そろそろ止めないと首位との差がまた開くぞー!」
お父さんはため息を吐いた後、ビール缶を開ける。
プシュッと音が鳴ったと思うと、お父さんは慌てておちょぼ口でビールを啜った。
「おっとと……危ない危ない」
お父さんは苦笑いを浮かべながら飲む。
喉仏が動き、ゴクゴクと鳴る音が僕まで届いてきた。
「あ〜! 美味い! この一杯のために今日、俺は頑張ったんだ!」
「はい、あなた。 いつもの」
「おーいつも悪いねぇ! ありがとう!」
お父さんが袖で口元を拭い、嬉しそうに笑っていると、エプロンをつけたお母さんがそっと枝豆が入っているお皿を机の上に置く。
お父さんはさっき晩御飯を食べたばかりなのに、お酒と一緒に美味しそうに枝豆を食べ始めた。
「お父さん。 さっき晩御飯食べたのにまだ食べるの?」
「おつまみは別腹なんだよ。 ほら、甘い物は別腹っていうだろ? あれと同じだよ?」
そうなのかな?
……んー! 分からない!
でも、美味しそうに食べ飲みしているお父さんを見たら、僕も真似したくなっちゃったな……。
そうだ!
「お母さん! 僕もおつまみ食べたい!」
「あらあら。 枝豆が欲しいの?」
「違うよ! 僕だけのおつまみを今から作って、食べるんだ!」
「おつまみって、あんた飲み物はどうする気よ? お酒は飲めないわよ?」
「飲み物は麦茶にする! そして、麦茶に合うおつまみを探すんだ! いいでしょ?」
「……まぁ、麦茶ならいいっか。 あんたの好きなようにしなさい」
「やったー! お母さんありがとう!」
僕はお母さんにお礼を言うと、冷蔵庫の中を開けた。
開けると中には納豆や豆腐、キムチなどが入っていた。
むむっ……! 納豆はかき混ぜるのがめんどくさいから却下!
豆腐はさっき食べたから食べたくない。 キムチは辛いから食べれない。
う〜ん……どうしよう?
僕は左右をこまなく見たり、引き出しをあける。
すると、引き出しの中に胡瓜の漬物が入っているタッパーを見つけた。
「お母さん! 胡瓜の漬物をおつまみにしていい?」
「別にいいけど、あんた変わってるわね」
「漬物ってお酒のおつまみにピッタリでしょ!?」
「確かにそうだけど……あんたが飲むのはお酒じゃなくて、麦茶よ?」
「別にいいの! 雰囲気を楽しんでるだから!」
「はいはいそうですか。 ま、あんたが満足してるならそれでいいわよ」
「なら、胡瓜の漬物は貰うね! 後はなんにしようかなー??」
僕は冷蔵庫を閉めて机の上を見る。
机には蜜柑やスルメ、餅などが置かれていた。
蜜柑は気分じゃないし、スルメは固いから嫌だ。
餅はお正月に食べる物の気がするから、イメージと違うなぁ〜。
「ん〜〜なにか良いのないかなぁ」
俺は自分の部屋にあるお菓子箱をリビングへと持ってくる。
中を開けるとマシュマロやクッキー、ポテトチップスなどが入っていた。
マシュマロとクッキーは牛乳に合う気がするから違う。
ポテトチップスはコーラとかの炭酸飲料で飲みたいな。
「なかなか良いのないな〜……ん??」
僕はお菓子箱を自分の部屋に片付け、リビングの中をウロウロする。
すると、僕の視界にはデデンッと鎮座されている味付け海苔の容器が目に入った。
「こ、これだーー!!」
僕は笑顔で味付け海苔の容器を高く掲げる。
甘じょっぱい味に、パリッとした歯応え。
更にはなんだか大人っぽく感じる食べ物。
僕が求めていたのはこれだ!!
「麦茶に胡瓜の漬物と味付け海苔を組み合わせるって……ま、別にいっか」
お母さんは不思議そうな表情を浮かべながら僕のことを見る。
右手には醤油味のお煎餅を握っていた。
「ちっちっちっ! これが大人の楽しみ方なんだよ」
「あんたまだ小5でしょ」
「もう歳は2桁にいったから大人だよ!」
10歳だろうが40歳だろうが、2桁は2桁だ。
「あっそ。 ま、食べすぎないようにしなさいよ」
「はーい!」
僕はお盆に麦茶が入ったコップと胡瓜の漬物、味付け海苔の容器を載せる。
僕は震える腕でなんとか机まで運んだ。
「おっ。 なに持ってきたんだ?」
「麦茶と胡瓜の漬物と味付け海苔!!」
「えっ。 どういう組み合わせ?」
「これは僕が考えた最高のおつまみなんだ! お父さんには分けてあげないよ!」
「え〜! ズルいじゃん! お父さんにも分けてくれよ〜!」
「駄目! お父さんは自分のがあるんだから、自分のを食べなよ」
「ちぇ〜ケチんぼ」
そう言うと、お父さんは興味がなくなったのか、僕から視線を外してテレビに注目する。
僕はその横でウキウキしながら、自分の考えた最高のおつまみを目一杯楽しんで食べた。
そして、この僕が考えた最高のおつまみブームはかなり続き、お家にいてお腹が空いた時は大抵食べたのだった。
僕の考えた最高のおつまみは、胡瓜の漬物と味付け海苔。 @raitiiii
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます