年寄りのおうち時間、早くひとりになりたい夏美ちゃん【 KAC20211】

ひより那

年寄りのおうち時間、早くひとりになりたい夏美ちゃん

「おうち時間を書けだって?」


 ワシが週3回楽しみにしているデイサービスの夏美ちゃんに頼まれた課題じゃ。


 何やら『かくよむ』とか言う小説投稿サイトとやらのネタが思い浮かばなかったみたいで、みんなのアイドル夏美ちゃんが直々に家での生活を教えて欲しいと頼んできたのじゃ。


 やっぱりボケてるみんなと違ってワシは頼りになるからのぉ。


 そうは言ってもワシのおうち時間は『朝起きてテレビを見て寝る』。それが殆どじゃ。


「そうだ! 月1回の病院を忘れちゃいかんな」


 えっと8時に病院に言って名前を書いて……、診察が始まるのを待つのじゃ。それからボーッとすること3時間、やっと順番が……いやいや、こんな年寄りじみた話しは夏美ちゃんにしたら嫌われてしまう。カッコいいワシを見てもらわんとなぁ。


「そうじゃ! 朝8時にスポーツジムに行く……これで行こう」


 ランニングマシーンで30分ほど走って汗を流して……「そうじゃ、近くのイタリアンで……。いや、おうち時間だからダメか」


 うーむ、それならば……トメさんの孫が何やら照明のスイッチで毎朝運動をやっているって言ってたぞ。


「7時に起きてスイッチで運動をする」


 お昼はインスタントラーメンで済ませるのじゃが、夜に仕込んだつゆでラーメンを作ることにしよう。ちょっとおちゃめ心を出して麺はインスタントにすれば女心をくすぐるに違いない。


 それから自分のことを自分でやっていることをアピールするように掃除じゃな。いつもはルンバさんとやらにお願いしているが、これはワシがやっていることにして……特に水回りの掃除が好きということにしておこう。


「そうじゃそうじゃ、ワシのお供は重曹とクエン酸と書いておけばアピール出来るぞ。家事エモんに感謝じゃな」

 

 それから……ワシは将棋が好きじゃから……源さんがすまーとふぉんとやらで将棋をやっていると言ってたの。機械に強いワシもアピールしておかんとな。

 

 そういえばすまーとふぉんを使えば離れた場所でも連絡が取れるって言ってたのー。ロインとかいうのを使えば遠く離れた人といつでも話しが出来る文明の利器だそうじゃ。これを使えれば夏美ちゃんに愛のトークをささやきまくれるぞ。


「ワシの得意なゲートボールを忘れちゃあいかん。これはゴルフにしていつも庭で練習していることにすれば……。カッコいいちょいワルジジィの出来上がりじゃな」


 あとは……知的なところも夏美ちゃんに見せとかないとな。


「そうじゃなー孫にいつも勉強を教えてあげてると知ればカッコよさの中に見える知的なワシの魅力に気づくじゃろう」


 それと最後にお金じゃな。若い頃に宝くじに当たって貯金が多いと書いておこう。夏美ちゃんに相応しい知的でカッコよくてお金持ちのワシが一番ふさわしいということに気づくはずじゃ。



「いっつも最後は同じ答えに行き着くんだから。それにしてもデイサービスの職員さんも凄いなぁ、うまくおじいちゃんのおうち時間が楽しく過ごせるように考えてくれるんだから」

「何を言っておる、ワシほど夏美ちゃんにふさわしい男はいないのだぞ」

「おじいちゃん今いくつになった?」

「わしは30歳じゃ、スポーツ万能で知的でお金持ちのモテモテ紳士、夏美ちゃんの未来の旦那様じゃわい」


「はいはい、なんで40歳離れてる私より年下になってるのよ……でもひとつだけ妄想じゃないわね。貯金が10桁あるおかげで夏美も仕事を辞めて好き勝手におうち時間が過ごせているんだから私は幸せよ」


「何をニヤリとしておるんじゃ」

「本当に愛情なのかと随分と周囲から疑われたけど、あなたと結婚できて本当に良かったわ」


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