このレビューは小説のネタバレを含みます。全文を読む(21文字)
創作をしていれば、ふとした時に感じる気持ちが心の中にふわりと重なってくる。挑戦に敗れる毎に、重ねた期待に押し潰されそうになる。それでも歩みを止めないことが力になると信じたい。そう思わせられるお話。
この作品は勇気を与えてくれます。小説家を目指そうと賞に応募したとき、その結果がダメだったときの無力感や、周りの友人たちが現実を見据えて生きていることへの後ろめたさは誰もが感じたことがあるのではないかと思います。自分にとって書くこととは何か、この作品を読めば今一度考えてみようと思えるはず。小説家を志す方へ、ぜひ読んで欲しい作品です。
書かずにはいられない情熱、仕上がった時の僅かばかりの自信、打ちのめされる現実と伴う落胆。それでも突き動かされる「書く」事への渇望。小説を書いた事がある人なら必ず味わった事のある感情が、主人公を通してくっきりとした輪郭を持って展開されます。そのリアルさときたら、自分の話を書かれているんじゃないかと勘違いして、なんだか恥ずかしくなってしまうほど。作品として優れているのは勿論ですが、ふと書く事に迷ってしまった時にも読み返したい、コンパスの様な短編です。
書き手は、紙とペンと本人だけで出来ている訳じゃない。 世界を構成する余白と本人の間にあるもの、それが本人に侵食したり、押し返したり、この物語りは手触りさえありそうなリアルを持って、しかし同時に時計の針が留まらないような淡々さで、そこ、を描きます。 もしも書くことに悩むなら、悩みに耽溺する前に、ギリギリ手前でもいいから、この作品を読んでからもう一度考える、私はそうしようと思います。 書く人に読んで欲しい作品です。