素敵なおうち時間。
夕日ゆうや
母が趣味を認めるまでの話。
俺は〝おうち時間〟を大切にしている。
今日はおうちでできることを探していた。
「料理も、ゲームも飽きたし、次はなにをするかな……」
昔のアニメを見ながら、ぼーっとする。この時間も悪くはないが、こう手を動かしたい気分だ。となると工作か。
以前にも作ったことのあるプラモデルでもするか……。
家電量販店でもプラモデルは売っているが、俺は通販で注文をする。
「しかし高いな。こんなに高かったっけ?」
疑問に思い調べてみると、注文したのは転売されており、高値をつけられる……らしい。無駄にお金を使ってしまった。
知らないとはいえ、そんな奴に加担してしまった罪悪感が湧いてくる。
「くそ。定価の二倍かかった」
怒りがこみ上げてくるが注文してしまったのは取り消せない。
二日後。
手元に届いたプラモデルを見る。
「これが転売されたやつか……」
とはいえ、プラモデルに代わりはない。
「作ってみるか」
「またこんなの買って……」
母に疎まれるが、俺の暇な時間を潰すにはちょうどよいのだ。それを否定されて苛立ちを覚える。
「これはおうち時間にとてもいいんだよ」
「そんなこと言って、高かったんでしょ?」
「うぐっ!」
確かに定価よりも倍も高かった。
「でも中身はよいものだから!」
俺は反論するが、母は困ったように笑みを浮かべるばかりだ。
母がいなくなったあと、俺はプラモデルを組み立て始める。
パチ組と呼ばれる、接着剤などを使わない方法で組み立てた。
今日はそれ以上先にいってみたい。
合わせ目消し、あとハメ加工、スジ彫り、塗装、キャンディ塗装、ダメージ加工、ウエザリングなどなど。プラモデルには他の加工方法があるのだ。
「さて、俺の持っている工具でなにができるか」
うーんと頭をひねって考えるが、スクラッチで加工してみることにした。
材料を通販で購入。今度は転売に引っかからなかった。
二日後。
「また何か買ったの?」
「いいじゃない。俺が好きで買っているんだから。母さんには分からないよ」
「もう、そんないいかた……」
母は怒ったように頬を膨らませる。
プラ板を切り抜き、プラモデルに接着していく。
「誰よ。シンナー吸っているのは!」
「いや、これは接着剤の匂いだから」
「ならちゃんと換気しなさい」
「分かったよ」
この冬に換気はきついが、しかたない。
調べてみると、リモネン系という柑橘系由来の接着剤があるらしい。今度試してみるか。
とにもかくにも、今は目の前のプラモに集中するか。
スクラッチ――プラ板を足して、それから塗装をする。その塗装も、匂いが気になったが、こればかりはしかたない。
寒さの中、プラモを完成させると、写真に収めていく。
「いいね。かっこいい!」
ライフルの位置や翼を調整する。少し動かすと塗装がはげてくるので、大きくは動かせない。
「うーん。困ったな……」
塗装がはげるのは予想していなかった。
写真に収めていくが、塗装がはげるのはかっこわるく見えてしまう。
「最初から塗らなければ良かったな……」
「あら。かっこいい。素敵よ」
「そっか。そうだよね! かっこいいよね!」
「うふふ。そうね。かっこいいね」
「ありがと。母さん」
母に礼を言うと、棚の上に飾る。
写真はSNSにあげると反応があり、とても嬉しい。
「俺、これからもプラモデルを作るよ」
「そう。なら続けなさい。楽しいのがあるのは素敵なことよ」
母さんはそう言い、ガーデニングを楽しむ。
「そっか。そうだよね。それでいいんだ」
好きなことがあるのは素敵なこと。それで毎日が笑顔になれるのなら、続けてもいいのだ。
素敵なおうち時間。 夕日ゆうや @PT03wing
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