休日に、ゆったりとしたコーヒータイムを

佐倉伸哉

本編

 土曜日、朝。目が覚めてベッドの脇の時計を見ると、8時少し前。

 体を起こして、ウーンと体を伸ばす。カーテンから漏れる光の量から、外は晴れているみたい。

 今日はお休み。特段予定も入っていないので、急ぐ必要はない。このまま二度寝しても気持ちいいのだろうが、一度起きてしまった以上は起床することに。

 パジャマから部屋着に着替え、向かった先は台所。手に取ったのは、手動式のコーヒーミル。

 平日はインスタントのコーヒーや缶コーヒーを飲んでいるけれど、自宅で時間がある時はハンドドリップで淹れている。インスタントや缶コーヒーも悪くないが、自分で淹れるとやっぱり違う気がする。

 まずはキッチン台にドリップスタンドをセッティング。それからドリッパーに紙フィルターを置く。紙フィルターは淹れ終えた後の片づけが凄く楽で助かる。ドリッパーの下に愛用のマグカップを設置するのも忘れない。

 それからヤカンに水を注いで、コンロに掛けて火を点ける。お湯が沸くまでの間に、下準備を整える。

 密閉式のガラス瓶からコーヒー豆をスプーンで掬うと、ミルの中へ。豆は自家焙煎が売りのお店で買っており、腕が無くてもそれなりの味が出せるから心配がない。

 蓋を閉じるとハンドルを握ってクルクルと回す。ゴリゴリと挽かれていく音と共に、コーヒー独特の香ばしい香りが鼻孔びこうをくすぐる。この香りだけで気持ちが穏やかな気分になる。

 挽き終えて粉末となったコーヒー豆を、紙フィルターの中へ。隅に残った粉もトントンとしてなるべく落とす。

 そうこうしている間に、ヤカンのお湯が沸いてきた。温度計でお湯が80℃を超えているのを確認して、火を止める。

 さて……ここから先は集中する場面だ。

 ヤカンを少しずつ傾け、お湯がドバっと出ないように細心の注意を払う。理想は細くゆっくりと注ぐイメージ。

 最初の一滴は中心に落とし、それから“の”の字を描くようにお湯を注いでいき、程よい所で止める。水分を含んだコーヒー豆が徐々に膨らんでいき、プツプツと細かな泡が立つ音に耳を傾ける。

 心の中で30秒を数えると、再びお湯を注いでいく。程よく注いだ所で止め、少し間を空けて再び注ぐ……という事を数回繰り返す。

 マグカップに八分目くらいまで入ると、お湯を注ぐのを止めて雫があまり落ちなくなったタイミングでドリッパーを小鉢へ移す。この小鉢がドリッパーを置くのにちょうどいいサイズだったので重宝している。

 マグカップを取り出してから、スプーンで中をかき混ぜる。最初に淹れた時と後から淹れた時で濃度が異なるから、かき混ぜることで味を均等にするのだ。

 かき混ぜるとスプーンで中身を掬い、味見……うん、いい感じ。

 それからは後片付け。紙フィルターはゴミ箱へポイ。コーヒースタンドやその周りはマグカップから跳んだ雫が付着しているので、ティッシュで丁寧に拭いていく。ドリッパー、小鉢、スプーンは水洗いしてからタオルで水分を拭き取る。

 これで完成……ではない。オーブントースターに食パンを2枚入れて、4分でセット。焼き上がっていく様を眺めながら、コーヒーをすする。

 4分後、チーンという音が鳴った。トースターの中の食パンはこんがりキツネ色に焼けている。上出来。

 アツアツの状態の食パンに、バターをたっぷりと塗っていく。溶けたバターが食欲をそそる。


 これで、朝食の完成。


 早速、食パンにかじりつく。バターの塩味と香ばしい小麦の香り、それにサクッとした食感。美味しい。

 そこに苦味が強い中深煎りのコーヒー。この組み合わせ、最強。


 昔、テレビで流れていたインスタントコーヒーのCMで『違いの分かる人』と言っていたけれど、正直細かい違いは分からない。

 でも……手間を掛けることで、いつもの朝食もグレードアップする。自分はそう思っている。


 代わり映えのしない、休日の朝。それでも、豆を挽いてハンドドリップしたコーヒーがあるだけで何か特別な感じがする。

 今日は何をしようかな。思いを馳せながら、美味しいコーヒーに小さな幸せを感じていた。

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休日に、ゆったりとしたコーヒータイムを 佐倉伸哉 @fourrami

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