Cheers!
日本を離れて数年たった。
私が加わったゲームプロジェクトは、社内ベンチャーとしてはかなりの成果を出した。しかしトップの決断により3年程度で終了した――はずが、なんとゲーム会社として独立する事になった。
私も新会社に移籍して、開発と同時にSNSで日本人向けの宣伝もするようになった。
この時になって、かつての同僚は私の本当の転職先を知ったようだ。最初に反応したのは葉月さんで、『なんてとんでもない所に行ったんですか、貴女は!?!?』と、驚いているのか怒っているのか、よく分からないリプを送ってきた。
唯ちゃんはうちのゲームをプレイしてくれているらしく、『思いっきり時間泥棒されてますー』と嬉しい感想を送ってくれた。
うちの母親からもリプが入っていたが、それはミュートにしておいた。だっていきなり『お母さんはもう怒っていません。そんな遠くじゃ私たちの死に目に会えませんよ、早く地元に帰っておいで』とか書いてくるんだもの。なんか炎上の気配がしてるけどシラネ。
存在が空気な父は、意外な事にこのゲームのファンだったらしい。一般のプレイヤーとして、冷静な口調でクレームや要望を報告してくれるのでありがたい。
夜の8時にアパートメントへ帰りつくと、窓から明かりが漏れていた。
私の胸が暖かくなって、笑みを隠せずドアを開ける。
「ただいま!」
「こっちこそただいま」
リーダー、いや祐介が、私をハグで出迎えてくれた。
祐介は今、同じ会社でマーケティングメンバーとして働いている。彼は遠距離に耐えきれなくなり、我が社への転職を決めた。元々自分は営業向きだと思っていたらしく、今の部署にやりがいを感じているらしい。
ただ問題は、月の半分以上が海外出張だと言うこと。だから同棲しているはずなのに、未だに気分は遠距離恋愛。しかも今度は私が待つ側。
「今度は何日いられるの?」
「3日かなあ。また日本に行かなきゃ」
「ふうん」
「……いつも思うけどさ。お前、反応薄くない?」
「そう?」
「寂しいとか思わないの?」
「うーん」
私は首をひねった。もともとボッチ属性だし、それは今も変わらない。だから寂しい、という気持ちはあまりない。それよりは――
「『私の所に帰ってきてくれる人がいる』って思ってるから、ずうっと幸せだよ」
偽りのない気持ちを答えたら、胸の暖かさが更に広がった。自然と顔がほころんでしまうのを止められない。
祐介はそんな私を見て、安心した様子で私の頬にキスをした。
「飯買ってきたけど、食べる?」
「ごめん、メンバーと食べてきちゃった」
「いつもの中華と、紹興酒もあるけど」
「飲みます」
「――酒好きはブレないな」
苦笑いをしながら、祐介は私の手を引いてダイニングに向かう。その横顔が愛おしくて、私は幸せの感覚に目を細めた。
さてさて、この3日間。
どんなふうに彼を愛し、彼に恋し、彼を食らおうか。
会えない日が多い分、とても濃密な時間にしてやるんだから。
共に酔いましょう、この自由に。この幸福に。
それでは、久方ぶりの二人の夜に、乾杯!
(了)
恋と愛と性欲は別(腹) 多賀 夢(元・みきてぃ) @Nico_kusunoki
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