暗がり
淡雪
第1話 思考
学生の頃から、私天野霞は『普通』に人と仲良くなれなかった。
みんなと同じように周りの人と話しているのに仲良くなれない。
仲良くしてくれてるように見えてどこか壁を感じる。
それどころか目に見えて不快感を向けられることもあった。
なんでみんなみたいに『普通』に仲良くなれないの?
学生の頃から、私は『当たり前』に物事がこなせない事があった。
みんなと同じか、それ以上に努力しているのにみんなと同じレベルのこともできない。
「頑張ればできるよ。」
何度周りに言われたか。
「霞ちゃん、絶対頑張ってないよね。こんなこともできないなんて。」
何度その陰口を言っているのを聴いたか。
私、頑張ってる。
すごく頑張ってるよ。
自分でもなんでできないのか分からない。
なんでみんなみたいに『当たり前』に物事がこなせないの?
私は学生の頃から、よくどもる。
みんなはそうならないのだから、それは『普通』ではない。
だから、気にしてしまう。
気にして余計に吃る。
緊張してまた吃る。
そればかり。
なんで、私は普通に喋れないの?
そうした違和感を感じながら、私は目を背けてきた。
気のせいだと言い聞かせて。
自分は『普通』でしっかりものなのだと思い込んで仮面を被った。
しっかり者の自分が、作られた偽物だと思われないように、悟られないように。
しかし、社会人になってそれは崩れた。
同期は気が使えて、要領が良くて、私から見たらとにかく凄い人だった。
上司とすぐに仲良くなって、楽しそうに会話していた。
堂々とハキハキと喋っている姿は本当に素敵だった。
私がどれだけ努力してもできないことを彼女はすぐに成し遂げ、プラスアルファこなして見せた。
私が偽物にならないとできないことを、彼女は本物として容易くできてしまう。
堂々としていて、効率よく仕事がこなせる同期。
オドオドしていて、すぐ吃って、仕事をこなすのに時間がかかってしまう私。
上司からの評価は明らかに真逆で。
そしてある時、上司同士が愚痴っているのを私は聴いてしまった。
「天野さんって、簡単な仕事もさらっと出来ないの。よく吃るし。もしかしてグレーゾーンって奴?」
「マジかよ! 自分の部下がグレーゾーンはキッついな。だってグレーゾーンって『普通』じゃないんだろ?社会不適合者じゃん。」
男女の下品な笑い声が響いた。
そっか。私って人から見たらグレーゾーンなんだ。
私、普通のつもりだったけど、他人からしたらすでに『普通』じゃないんだ。
周りから音が消えた。
自分から表情が消えた。
グルグルと思考が回り始めた。
どうすればいいんだ?
仮にグレーゾーンだと認定されたとしよう。
周りからの私の評価は
『グレーゾーンの普通じゃない奴』だ。
じゃあ、このままでいる?
それでも周りからの私の評価は
『グレーゾーンの可能性濃厚の普通じゃない奴』だ。
ここから私がどう動こうが私は『普通』じゃない奴だ。
しにたい。
この先、生きていても同じ評価じゃないか。
学生の頃から『普通』ができなくて。
でも、学生のうちは偽物でいることで乗り越えられた。
でも、社会は甘くない。
偽物じゃやっていけないんだ。
偽物でしかいられない私なんて消えていいんだ。
暗がり 淡雪 @awaawa_snow
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