第154話 お誘いは断り方が難しい

 あの後、莉斗りと夏菜なつなさんから部屋に誘われ、嫌そうな顔をしている彩音あやねたちを連れてお邪魔させてもらった。


「内装は同じだろうけど、適当にくつろいでてよ」


 そう言われたものの、ミクは警戒を解かないし、あおいは緊張してあかねに抱きついているしで、莉斗も落ち着く気になれない。


「莉斗君、どうして部屋に行くなんて言ったの?」

「断れないよ、あんなキラキラした目で言われたら」

「だからって、私とあんな話した直後に……」

「その埋め合わせは後でするから、ね?」


 彩音さんは彼に手を握られると、「……わかった」と仕方なく頷いてくれる。

 自分の敵だとわかっている相手に莉斗を近付かせるのは、やはり気が進まないのだろう。


「女の子への借りは10倍返しだからね?」

「ええ、ホワイトデーじゃないんだから」

「莉斗君、お返ししたことあるの?」

「そもそも貰ったことがないよ」

「……なんかごめんね」


 莉斗は周りの空気がどんより重くなった気がして、慌てて「気にしなくていいから!」と口にする。

 しかし、そんな会話を横で聞いていたミクは、不満そうな顔をしながら肘で脇腹を小突いてきた。


「チョコなら私が毎年あげてたでしょ」

「いや、貰ってないけど」

「ポストに入れてたじゃないの」

「……え、あれってミクのだったの?」


 毎年小さい箱が入っていて、開けてみるとチョコだからストーカーでもついてるのかと思っていたのだ。

 いや、正確にはストーカーかと疑おうにも、自分にそこまで執着する人物がいるとは思えず、間違えて入れてるんだろうと考えていたのだけれど。


「だって、誰からって書いてないから……」

「あんなにツンツンしてたのよ? 書いたら次の日から顔見れないじゃない」

「それじゃ届ける意味が無いんだけど」

「チョコを食べて幸せな気分になってくれたらそれでいいと思ってたから」

「ご、ごめん。食べたことない」


 オドオドしながらそう伝えた瞬間、ミクの表情が一気に暗くなる。どれくらい暗いかと言うと、黒ペンで塗りつぶした電球で照らした部屋くらいだ。


「……は?」

「ひっ?! だ、だって、送り主の分からないチョコなんて何が入ってるか分からないし……」

「愛情しか入ってないわよ!」

「今年はポストから出してすぐ食べるからぁ……」

「何言ってるの。今年も去年と同じだと思わないで」


 ミクはそう言ってぷいっと顔を背けてしまう。

 今まで捨てていたと知られた上に、これだけ怒らせてしまったのだ。今年はもう貰えないとしても仕方がない。

 そう諦めかけた瞬間、彼女が横目でこちらを見ながら、少し照れくさそうにぼそっと呟いた。


「こ、今年は……手渡しだから……」


 その愛らしい横顔に思わずニヤニヤしてしまって、赤くなったミクから一発ビンタを食らったことは言うまでもない。


「と、唐辛子入れてやるから!」

「ロシアンルーレット?!」

「残したら殴るわよ」

「絶対に避けられないなんて……」

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無口な窓際ぼっち君、実はASMRにハマっていることが隣の席の美少女にバレてしまいました―――彼女はいつでも僕の右耳を狙っている――― プル・メープル @PURUMEPURU

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