7話・朝食はブッフェ

 朝、目が覚めると、隣の部屋で哀川さん達はくつろいでいた。


「哀川さん、九条さん、おはようございます」

「おはよう」

「おはよう。東山君、食事に行こうか」

「はい」


 レストランの朝食ブッフェに行ったら、ミーチェとジークがもう食べていた。ミーチェが手を振っている。


「「「「「おはよう」」ございます」」」


 みんな、料理を取りに行って、席に座って食べ始めた。僕は、ジークのお皿を見て思わず、


「ジーク、朝から甘い物ばっかり良く食べられるね」


 哀川さんも、ジークのお皿に乗っているメープルシロップたっぷりのフレンチトーストや甘そうなデニッシュを見て、


「ジークさん、朝から甘い物とか若いな。フフ」

「フフ、美味しい物は、いつでも食べられるよ」


 いや~、朝からそんなにメープルシロップたっぷり掛けたフレンチトーストとか、キツイよ……


「ん? ジークは、若いよ~。誕生日がまだ来ていないから23歳だよ」

「ぶっー!」

「「えっ、」年下? あっ……」


 僕は、コーヒーを拭きこぼしてしまった。九条さんは、ウインナーを転がして……哀川さんは、まじまじとジークを見ている。


「智明、汚~い!」

「見えないかい? そう言えば、ミーチェに会った時も25歳位に見えるって言われたな」


 えっ、30前後に見えるけど……哀川さん達もそう思っていましたよね? ミーチェは、ニコニコしている。


 へぇ~、ジークは僕の1つ上かぁ……正確には2つ上、どっちにしてもだよなぁ。いや、ミーチェは17だから問題ないのか? ん、未成年? でも中身は……考えるのは止めておこう。疲れるだけだ。


 食事を終えて、10時にロビー集合になった。それまではフリーなので、僕は、最後に温泉に入りに行った。


 はぁ~、いい湯だぁ~、癒される……


 集合時間、マイクロバスに乗り込む。みんな、荷物はアイテムバッグに入れるから手ぶらなんだよね。バスは出発して大阪へと向かった。


 途中、道が停滞して進まない……


「事故か?」

「哀川さん、そうみたいですね。大きな事故じゃないと良いんですが……」


 運転手さんが、この道路は片側一車線なので、事故が起きたら最悪だと言っている。九条さんが、様子を見に行ってくれた。


 暫くして、九条さんが戻って来て、事故の状況を説明してくれた。


「隊長、乗用車とトラックの事故でした。事故の実況見分は終わったようですが、事故車両の移動がまだのようです」

「そうか、まだ時間が掛かりそうだな」


 事故車2台が、両方の道を塞いでいるそうだ。それで、反対車線も車が走っていないのか。


「哀川さん、車の移動なら私が手伝えますよ。ここでじっと待たされるのも疲れるし、ちょっと見て来ますね」

「ミーチェ、僕も行くよ」


 ミーチェとジークが様子を見に行くと言うと、慌てて哀川さんもついて行った。もちろん僕も。


「お二人が何をするのか、見届けないなんてありえない!」


 そう言って、九条さんもついて来た。


 事故現場に着くと、パトカーと事故車が2台、少し離れて道を塞ぐように止まっていた。運転手の二人は、既に救急車で搬送されていて、後は車の移動だけのようだった。


 ミーチェが、警察官に車を退避させる場所があるのか聞いていた。ここから、大阪方面に300m程行った先に退避場所があると言う。


「じゃぁ、私が運ぶわ。そこまで、パトカーに乗せて貰えます?」

「「えっ?」」


 警察官が驚いている間に、ミーチェは、手早く反対車線を塞いでいるトラックを、手品のようにアイテムバッグに入れてしまった。どうやって入れたんだ? そして、もう1台の乗用車までバッグに入れた。


「「ええっ!」」

「「ミーチェさん……」凄い!」

「ミーチェ……」


 警察官と僕達は呆気にとられて見ていた。ジークは驚くいことも無く、微笑んでミーチェを見ている。


「哀川さん。さあ、行きましょう」


 呆気にとられていた哀川さんは、啞然としている警察官を急かしてパトカーに乗り込んだ。パトカーの後ろには3人しか乗れないので、ミーチェとジーク、そして哀川さんが乗った。九条さんは、『見逃せない!』と言って走って退避場所まで向かった。まぁ、300mだしね。


 でも、みんなが行ってしまうと、誰がバスの運転手さんに伝えるんだよ……しかたないので、僕が戻って運転手さんに伝える。


「すみません。直ぐに動くので、この先にある退避場所で他のメンバーを拾ってください」


 直ぐに、ノロノロと前の車が動き出してバスは退避場所に着いた。事故車両が2台並べてあり、ミーチェ達が待っていた。


 警察官には、ダンジョンアイテムを使っただけで、詳しいことはダンジョン省から箝口令が出ているので言えない。問い合わせは、直接ダンジョン省にしてくれと言ったそうだ。


「ミーチェさん、余り派手に動かれると困ります」

「派手ですか? 哀川さん、アイテムバッグは持っている人、割といますよね?」


 ミーチェの言う通り、アイテムバッグはJDA隊員ならみんな持っているだろうし、一般ダイバーでも持つ人が増えて来たけど……普通、アイテムバッグをあんな使い方しないよ? それに、二人のことは秘密だって哀川さんが言っていたよね。


 その後は、何事も無くスムーズに大阪のホテルに着いた。ホテルのロビーで、哀川さんがおもむろに口を開いた。


「ミーチェさん、ジークさん。明日、JDA攻略メンバーの会議があるんです。お二人に、オブザーバーとして、会議に参加して欲しいのですが……」

「えっ、哀川さん、本部には行きたくないです」


 だよね、ミーチェは即答する。


「ジークさん、ミーチェさん、お二人に是非! 話を聞いて頂きたい。この前話していた、沖縄ダンジョンの会議なんですよ」


 九条さんも、参加して欲しいと頼んでいる。


 あぁ、九条さんが言っていたラミアの間引きか、大変そうだな。あっ、じゃぁ、神田さんも行くのか……後藤さんも……う~ん、怪我をして欲しくないな。


「ミーチェ、九条さんのチームには、僕がお世話になっている人達がいるんだ。だから、助言できることがあったら……話だけでも聞いて欲しいな」

「トモアキがお願い……もしかして、好きな子でもいるの?」


 ジーク! この場でなんてことを言うんだ。あっ、マズイ、心臓がバクバクしてきた。


「えっ! そうなの? 智明、赤くなっちゃって~。そう言うことは、早く言いなさいよ~。ジーク、会いに行こう」

「うん。ミーチェ、そうしよう。アイカワさん、ミーチェと僕、参加しますよ。トモアキの好きな子を見にね。フフ」

「「ありがとうございます」ジークさん、助かります!」


 哀川さんと九条さんが嬉しそうに言う。


「えっ! いや、あの……」


 うぅ、肯定も否定も出来ない……



 明日から仕事なので寮に帰って来たけど、明日のJDAの会議が気になる……




※    ※    ※


「ふふふ。明日、智明の彼女に会えるんだ~」

「ミーチェ、楽しそうだね。フフフ」

「うん。今まで彼女を紹介されたことないからね。ふふ」


 好きな人がいるなら安心ね。強くなれるわ……守るためにね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る