4話・アフタヌーンティー
親父から離婚届にサインをもらって帰って来たら、ミーチェとジークは、ホテルのロビーラウンジで、アフタヌーンティーのブッフェを楽しんでいた。テーブル一面にケーキやプリンを並べている……
「智明、哀川さんお帰り~。智明、ここのケーキ美味しいよ! 一緒に食べない?」
「トモアキ、プリンがあるよ! フフ」
ミーチェ、ジークまで……僕は親父との話で疲れたのに……二人が、嬉しそうにはしゃぐ姿を見ると力が抜けて来る。まぁ良いか~、気を取り直して僕達もケーキを頂くことにした。
哀川さんが、ホテルマンに言って半個室になっている席を用意してもらい、僕たちはそちらの席に移動した。
僕は、バッグから離婚届が入った封筒を取り出してミーチェに渡した。
「ミーチェ、親父からサインをもらって来たよ」
「智明、ありがとう! 哀川さんも、ありがとうございました。これは、後で出しに行きますね」
ミーチェが封筒をバッグに入れると、哀川さんがコーヒーを飲みながら言った。
「ミーチェさん、質問したいんですが、録音させてもらっても良いですか?」
「はい、良いですよ」
哀川さんは、ボイスレコーダーをテーブルに置いて、ダンジョンが何処から来たのかを聞いた。
ミーチェは、一口紅茶を飲んでゆっくりと話し始めた。
「ダンジョンはね、私がダンジョンに落ちて転移した世界から来たんですよ。ジークの生まれた世界……」
その世界には、大きな大陸があって魔素に溢れた大森林があるそうだ。そして、大量の魔素が溜まるとダンジョンが生まれる。その時に、大量の魔素で時空に歪みが出来ることがあって、道が繋がるらしい。ダンジョンは、その道を通って、こちらに発生すると言う。
空間にある道は、こちらの人間が転移して出来たそうだ。遥か昔に……
「ミーチェさん、その道を閉じることは出来ないんですか?」
「哀川さん、それは私には分かりません。私が知っているのは、1,000年も前から、あっちに転移する人がいたってこと。その頃から道はあったかも?」
ミーチェは、多くの人が転移して、道が段々確かな物になってダンジョンが通れるようになったんじゃないかなと言う。
そんな昔から道があるのか……そして、転移したほとんどの人が、何かしらの力を持っていたそうだ。
「なるほど。次にミーチェさん、どうやって、こっちの世界に戻って来たんですか?」
「ああ、それはですね……簡単に言うと私がチート体質だって言ったでしょ? 私の魔力が多いから、ダンジョンコアと接触すると時空に歪が出来て、時空の道を通ってこっちに来られたんですよ」
「なっ、何! ダンジョンコアと接触して……2人で、ですか!?」
ミーチェは、こちらの世界に来られる人間は自分だけだと言う。哀川さんは難しい顔をして、じっとミーチェの話を聞いていた。
「向こうの世界には、魔人や獣人、色んな種族がいるから絶対とは言い切れないですけどね」
えっ、向こうはそんな世界なのか……
ダンジョンコアって、最下層にあるんだよね? ランクの低いダンジョンだとしても、二人で最下層まで行けるのか? ウソだと言っても、目の前に二人がいるのが証拠だよね。どれだけ強いんだ……
「分かりました。後、ミーチェさん。明日、職員を連れて来ますので『スキル書』の文字と読み方を教えてくれませんか?」
「良いですよ。でも、哀川さん、それ午前中にして下さいね。昼からは、ジークと食べ歩きに出かけますから」
「ミーチェ、それは良いね。フフ」
二人でニコニコと微笑み合う。何だろう……母さんと言うより姉? 妹? と、その彼氏だな……
ミーチェは、アフタヌーンティーを楽しんだ後、実家のある市役所へ行って離婚届を受理してもらった。マスクやフードを被って、年齢が分からないように……親父に出してもらった方が良かったんじゃないのか? 勿論、哀川さんと僕が付き添った。
「ジーク。これで、面倒ごとが片付いた~」
「フフ。ミーチェ、後は何をするの?」
「ジークと旅行に行くよ! ふふ」
「お二人とも、旅行はもう少し待ってくれませんか?」
哀川さんが、まだ聞きたいことがあるからと言うと、
「え~、旅行から帰って来てからで良いじゃないですか。温泉に行きたいです」
「ミーチェ、温泉ってお風呂みたいなヤツだよね?」
「ジーク、そうよ。温泉もね、色々な種類があるのよ~」
どこの温泉に行こうかと、二人は温泉の話で盛り上がっている。
「ミーチェさん、ジークさん、お願いです。もう少し、待って下さい……」
哀川さん、何かすみません……
そして翌日、ホテルの会議室で、ミーチェ達は、『スキル書』の魔法陣の読み方をDWAの職員と哀川さんに教えていた。うん、僕も一緒に勉強した。暇だったしね。
午後からは、二人が百貨店を巡ると言うから付き合った。プリンやケーキ、パンまで買い込んでいた。特大のアイテムバッグがあるからって、そんなに買わなくても良いだろうと思う。
二人は、両手いっぱいに買い物しては、階段とか人がいない所でアイテムバッグに入れている……
「智明~、半分は、お土産なのよ~」
「フフ。僕は自分のだよ」
僕が呆れた目で見るからか、ミーチェが言い訳するけど、そんなに誰が食べるんだよ。まあ、それだけ買っても傷まないし、登録カードのチャージ金額は、使い切れない額だけどね。
ミーチェは、離れている私服DPの2人に『ありがとうございます』と、食べ歩きが出来そうな焼き菓子を渡していた。なぜ、その人達が私服DPだと分かったの? DPの人がビックリしているよ……
その日の夜は、ジークに中華を食べさせたいと、ミーチェの希望でホテルの中華レストランで食べることにした。レストランに行くと、何も言っていないのに個室に通された。
「哀川様より、お二人が食事をされる時は、個室に案内するように言われております」
なんだか、本当にVIP扱いみたいだな。まぁ、2人は目立つけどね。
ミーチェは、個室に案内してくれた人に、支払いを部屋付けにしないで登録カードで支払うと言った。
「誰かに、高いのばっかり食べているって、思われたらイヤじゃない」
ふふ。ミーチェ、気にしなくても良いと思う。そんなことを思うなら、ここのホテルを選んでいないと思うよ。
ジークは、中華料理が気に入ったのか、明日も食べようと言う。ふふ、確かに美味しかったけど、僕のオススメも食べてみて欲しいな。
「ジーク、他にも僕のおススメの中華料理があるんだよ。今度、連れて行くよ」
「トモアキのオススメだって! 是非食べたいな」
ミーチェに『どうせ、〇〇の餃子とラーメンでしょう』と、言われた時、本当に母さんなんだと思ったよ。ふふ。
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