5話・4日目 DWA本部

 今日、ミーチェとジークはDWA本部に呼ばれている。哀川さんが迎えに来たので一緒に本部に向かった。


 DWA本部の会議室に案内されると、ダンジョン省のお偉いさんらしき人達とDWAのバッジを付けた人が並んで座っていて、僕は部外者だから入らないようにと言われた。すると、ミーチェが怒ってしまって……


「智明が一緒じゃないと何も話さない。帰ります」


 それはダメだよ。ミーチェを宥めて、僕は外で待っているからと言っても聞かない。この世界に来たのは僕に会いに来たんだと、知らない人に話をしに来たんじゃないと言う。ミーチェ、嬉しいけど……困るよ……


「トモアキ。ミーチェは、言い出したら聞かないよ。フフ」


 ジーク、母さんはそうだけどミーチェもそうなのか……けど、偉い人にケンカを売るのは良くないよ。


 結局、哀川さんが間に入って、後見人だからと僕も一緒に話を聞くことになった。


 話しの内容は、この前、哀川さんが聞いたことの確認と、異世界の国々と軍事力の話。向こうの世界の話を根掘り葉掘り聞いてくる。何故、向こうの国の軍事力を聞いて来るんだろう。行き来も出来ないのに……


 ミーチェは、ポカン? とした顔をして、哀川さんは項垂れていた。ジークは一言も話さないで、クスクス笑ってはミーチェの様子を見ている。


 3時間程で、やっと話し合いは終わった。疲れた顔のミーチェが、部屋から出る時に振り返って……


「私達、帰ります。お世話になりました。サヨウナラ」

「「「「何!」」」」


 えっ!? みんな固まった。僕も哀川さんもビックリしたよ。ミーチェ、温泉に行きたいって言っていたよね? 隣でジークだけがクスクス笑っている。


「やっぱり、ミーチェは可愛いね。クスクス」


 ジーク、どこが可愛いんだよ? 二人がサッサと出て行くので、慌ててついて行った。後から、哀川さんも追いかけて来て、


「ミーチェさん、まだ聞きたいことがあるんです。もう少し、帰らないでくれませんか? 温泉に行って貰っていいですから……」


 哀川さんが、JDA部隊に魔物の話をして欲しいとか、他のホテルで期間限定のスイーツブッフェをやっているとか、必死に引き留めている……これは、僕も引き留めるべきか……?


 すると、ミーチェが立ち止まって、哀川さんに向かって言った。


「哀川さん、疲れました……もう話すことはないですよ。聞きたいことがあるなら、今後は紙に書いて渡してください。ここには来ません。それと、週末には、温泉に行きますからね」

「ミーチェさん、ありがとうございます。分かりました……」


 哀川さんには悪いけど、僕も、もう来たくないかな。


 早速、ミーチェは、週末に温泉に行けるように、僕のスマホで調べて予約を入れていた。和歌山の白浜温泉に、行きたかったホテルがあるらしい。二人で行くから大丈夫と言われたけど、僕もついて行くことにした。さっきの会議室のことを思い出すと、二人だけなんて心配だよ……


 哀川さんも慌てて、ミーチェ達がどこの旅館に泊まるのか確認している。



「ねぇ、ジーク。お昼は何を食べようか?」

「ミーチェの手料理が食べたいな」


 あっ、僕も久しぶりに食べたいな……母さんの手料理。でも、ホテルの部屋には、キッチンが付いていなかったよ。


「ふふ。ジーク、嬉しいことを言ってくれるわね。でも、ホテルの部屋では作れないから、作るなら……」

「ダンジョンだね。ミーチェ、直ぐに行こう。フフ」

「うん。ジーク、そうしよう! ふふ」

「「ダンジョン?」」


 僕と哀川さんの声が重なった。


 ここから近い、梅田ダンジョンに向かうことになった。ミーチェは、途中のスーパーで食材と調味料を山ほど買い込んだ。ミーチェ、それはアイテムバッグに時間停止が付いているから出来る買い方だよね……


「智明、買える時にまとめて買っておくのよ。ふふ」


 ミーチェ、にっこり笑って言うけど買い過ぎじゃないか? あぁ、異世界だとお店が少ないのかな。


 梅田DWA支部で、僕はジークを更衣室に連れて行った。ジークは自前の装備をアイテムバッグから出して着替えていた。僕は、まだレンタル装備だけどね。


 ロビーで待っていたらミーチェが来た。昼間の人が少ない時間帯で良かったよ。ジークとミーチェが並ぶと、みんなが振り返って見ている。


 『あの装備は何処のだ?』『そんなドレスみたいな服でダンジョンに入るのか!?』『モデル? 撮影か?』『あの女の子は18才か?』みんなの心の声が聞こえて来るよ……


 哀川さんが、JDA装備の隊員を連れて来た。30歳前後かな? 背の高さは、ジークより低くて僕と同じぐらい、175cm位かな。頭が良さそうで、後藤さん程マッチョじゃない。


「待たせたね。彼は、私の補佐をしている九条だ。JDA攻略部隊のリーダーもしている。これから、私が付き添えない時は、彼が付き添うから宜しく頼む」

「九条と言います。よろしくお願いします」


 彼は、後藤さんと神田さんがいる部隊のリーダーで、今日は顔合わせを兼ねて、半日一緒に行動するそうだ。


「ミーチェです。よろしくお願いします」

「……ジークだ」


 ジークは、愛想が無さ過ぎるよ。今日は、睨まないだけマシか……


「東山と言います。よろしくお願いします」

「あぁ、後藤と神田が、世話になっているそうだね。よろしく」


 5人で梅田ダンジョンAに入った。ミーチェに、お昼を食べる為にダンジョンに入るって、どういう意味かと聞いたら、


「野営よ。キャンプのバーベキューみたいにして食べるのよ。ふふ」


 そう言って、1階の迷路奥にある大部屋に入って、ジークが中にいたスライムを倒し、二人は野営の準備を始めた。


 ジークは部屋の入口に結界石という石を置いて、テーブルを出し始めた。哀川さん達は、その結界石に興味津々で、手伝いながらジークに色々聞いている。


 結界石は、強い魔物の魔石を材料として錬金術師が魔力を込めて、魔物が近寄らないように作った石だそうだ。野営には必需品で、向こうの冒険者なら誰でも持っているアイテムらしい。九条さんが話を聞きながら、スマホにメモを取っている。


 ミーチェは、作業台を出して手早く料理を作り始めた。良く見ると、包丁を使わないで風魔法か? 一瞬で食材を切っている。火も起こしていない……フライパンに直に火魔法? そんな魔法の使い方も出来るんだ……


「智明~、手伝って。この出来上がった料理を、テーブルに持って行って」

「分かったよ」


 30分程で、テーブルが料理でいっぱいになった。


 ミーチェが作ったのは、コカトリスの唐揚げ、特上肉と上質肉のステーキのにんにくソース、特上カニ身の刺身と焼きガニ、カニ味噌まである……そして、クラーケンと青菜のオイスターソース炒め……サラダとパンも隙間に添えてある。おお~! 凄く美味しそうだけど、作り過ぎじゃぁないのか……


「ミーチェ! 僕の好きな物だらけだよ!」

「うん。ジークの好きなのを作ったから、好きなだけ食べてね。ふふ」


 哀川さんと九条さんは、そのメニューの食材にびっくりしている。ランクAとBの魔物がドロップする食材だって。クラーケンだけ違うらしい。二人が、海にいるクラーケンを倒して手に入れたそうだ。海に魔物がいるのか……


「さあ! 食べましょう~。こっちの調味料で作ったから、どう味が変わるか楽しみね。それに、異世界の食材を智明にも食べさせたかったのよ。ふふ」


 僕に? ふふ、母さんらしいね。みんなで、ミーチェの作った料理を食べた。ジークは目をキラキラさせて、


「ミーチェ、凄く美味しいよ。降参だよ! もぐもぐ……」

「特上カニ? こ、これは旨い……こっちだと何処でドロップするんだ? 九条、知っているか?」 

「知りません。隊長、これクラーケンだそうです……! 感動する美味しさですよ」もぐもぐ……


 僕も食べたけど、何だこれ……旨すぎる! 肉厚で、旨味と甘みがあって食べ応えがあるな。


「ミーチェ、凄く旨いよ!」もぐもぐ……

「ふふ。みんなに美味しいって言って貰うと嬉しいな」


 その後は、みんな無言になって食べるのに夢中だ。『う――ん!』唸り声しか聞こえない。


 ミーチェが転移した時、料理スキルを持っていて既にAだったそうだ。そして、あっちで色々と料理をしたら、Sに上がったと言う。


「「「えっ!」」スキルはSまで上がるの?」


 こっちでは、スキルがSに上がったと言う話を聞いたことが無いから、Aまでしか上がらないと思っていたよ。


 ミーチェの作った料理は、余りにも旨くて、何一つ残らなかった。ジークは、ニコニコしてデザートのプリンまで食べている。凄い食欲だな……僕達は満腹で、もらった缶コーヒーを飲んでくつろいだ。


「哀川さん。私達、運動がてらダンジョンのワープを取りに行きますね」

「では、私は本部へ戻るので、九条を連れて行ってください」


 昼食後、二人がそのまま狩りをすると言うので、九条さんと僕がついて行くことになった。

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