番外編『僕は、ダンジョンに入る』×『アラフォー主婦』

Rapu

番外編:母さん?

1話・とある世界で

「ねえ、???。何を持って行ったら喜ばれるかな?」

「う~ん、僕ならカニの刺身が嬉しいな」

「ふふふ。???らしいわね。あっちに、特上カニを落とす魔物はいないかな?」

「どうだろう? ドロップアイテムは、魔物を倒して見ないと分からないからね。同じ魔物でも、ダンジョンによって違ったりするからね」


 お土産は、特上カニなら喜ばれるか~。ミノタウロスの特上肉とか、ハイオークの上質肉でも喜ばれそうだけど、……あれ? 帰省するんじゃなくて、智明を助けに行くんだった。ん~、必要だと思う物は、武器と『スキル書』かな。


「???、お土産は食べ物じゃなくて、智明を助けるのに必要な物よ」

「フフ、そうだったね。あっちは魔法がない世界だったよね。『スキル書』とアイテムバッグなんてどうかな?」


 ???は、優しい眼差しで微笑みかけてくれる。


「アイテムバッグ! さすが???、絶対に欲しいアイテムよ! アイテムバックは、智明の使っているカバンに空間魔法を掛ければ良いから、『スキル書』を集めに行こうかな? それと、付加魔法を付ける武器も買わないとね。ふふ」

「ああ、どこにでもついて行くよ。愛しい????」


 抱き寄せて、優しくキスをしてくれた。ふふ。


「???、ありがとう」


◇◇◇


 この前、ある国に保護されている迷い人(転移者)に会った。彼は、東京の恵比寿で仕事から帰る途中、ダンジョンに飲み込まれたんだって。コアとは接触していないようだから、普通の迷い人みたい。


 彼が言うには、日本中にダンジョンが出来て、時々、スタンピードが起きるらしい。一般ダイバーの募集を始めたけど、いつ魔物で溢れてもおかしくないと言う。帰りたいかと尋ねたら……


「初めの頃は帰りたかったけどね。ここは待遇が良いし、彼女も出来たから、こっちの生活も悪くない。営業回りしなくていいからね」


 彼は、笑ってそう言った。


 迷い人は、どこの国でも手厚く保護してくれるからね。私はそれがイヤで、???に面倒を見て貰ったけど……ふふ。


 恵比寿の迷い人と話をした後、あっちの世界に行く方法はないかと、鑑定さんに聞いてみた。智明が心配だったから……


 鑑定さんとは、私の中にいるダンジョンコアから生まれたチートな存在。異世界のこと、特にダンジョンのことは何でも知っている。私が魔物を倒して強くなったら、鑑定さんもバージョンアップした不思議な存在。私の記憶にある知識も吸収して、今ではスキル『鑑定S』になっているの。


 そして、何故、私の中にダンジョンコアがいるかと言うと……


 日本でダンジョンに落ちた時、生まれたてのダンジョンコアにぶつかって、私の体内で共存している状態なの。コアは、呼ばないと起きなくてただ寝ているだけ。まだ2~3才の赤ちゃん? だし、悪さしないで寝ているだけだから問題ない。私の身体が、チート体質になっただけで……


 鑑定さん曰く、時空間に、昔の迷い人達が通った道が出来ているそうなの。だから、他のダンジョンコアと接触すれば、膨大な魔力の影響で時空間に歪みが出来て、その道を通って……あっちの世界に転移出来ると教えてもらった。私が落ちた場所の近くに転移したいなら、近いダンジョンが良いとのこと。


「????、僕も一緒に行くよ。一人では、行かせないからね」

「ふふ。???も来てくれるの? ありがとう」


 あぁ~、イチャイチャしている所なんて智明には見せられないわ。あっちに行ったら気を付けないとね。???にお願いして人前では控えて貰おう。


「????、人前ではね。フフ、分かったよ」

「???……よ、よろしくね」


 ???と、あちこちのダンジョンに入って『スキル書』を集めた。武器屋で買った片手剣に、ゴーレムでも斬れる付加魔法を掛けて準備完了。もちろん、お肉と特上カニも集めたよ。


 あぁ、そうだ……智明が独立したから、前から愛人がいる夫と離婚をしようと思っていたのよね。向こうに行くならケジメをつけよう。


 そして、私が転移して来た場所から一番近いダンジョンへ向かう。<迷宮都市>のダンジョンへ。


◇◇◇


「????、ダンジョンコアを壊したらダメなんだよね?」

「そうよ、触れるだけで良いんだって。壊してしまうと、このダンジョンが無くなるから、ここに帰って来られないそうよ」


 鑑定さんが、そう教えてくれた。???と一緒なら、何処に飛ばされても問題ないんだけど。この街は、ダンジョンで潤っているからね。コアを壊せないわ。


 入口の警備兵に、しばらく籠ると言って、二人でダンジョンの最深部へと降りて行った。強そうな魔物がいる……私が手を出さなくても、あっという間に???一人で倒してしまう。最近、彼が苦戦する魔物なんて見たことが無い。




 ※    ※    ※


 6月上旬、もうすぐ、ダイバーになって2年になる。僕は、相変わらず工場で働いていて、週末にダンジョンに入っている。ソロだったり、神田さんや後藤さんと入っている。


 田中先輩は、主任になった今でもアイドルを追いかけている。一目惚れした女の子とは、今でも友達のままみたいだ……


 及川さんは、この春に結婚して仕事を辞めた。そして、今は奈良でダイバーを頑張っている。年内には子どもが生まれるそうだ。少し計算が合わない気もするけど、祝いごとだし良いんじゃないかな。


 太田さんは、箕面DWAの受付嬢と付き合い始めて、毎週、嬉しそうに箕面ダンジョンへ通っている。そして、太田さんからは頼りになる言葉をもらっているんだ。


「東山君、田中さんには内緒で、いつでも恋愛相談に乗るからね」


◇◇◇


 月曜日、佐藤部長に呼び出された。この春、佐藤課長は昇進して部長になった。風格のある剣士は健在で、今でもソロでダンジョンに入っているそうだ。


「佐藤部長、お呼びですか?」

「ああ、東山君。今、DWAの本部から要請があってね。君に、箕面DWA支部まで直ぐに来て欲しいとのことだよ」

「えっ、僕に?」


 DWA本部から箕面に? 何だろう……思い当たることがないな。


「はい、分かりました」


 取りあえず、私服に着替えて箕面DWAへ向かった。



 箕面DWA支部に入ると、DWAの統括責任者の哀川さんがいた。哀川さんはJDAの隊長でもある。


「東山君、待っていたよ!」

「哀川さん、箕面DWAに来るように言われたんですけど?」


 あれ? 哀川さんは困ったような顔をしている。


「ああ、それなんだがね。今朝、箕面ダンジョンから、ダイバー登録していない一般人が二人出て来て、警備していたDPが保護したんだ」


 登録していない一般人なんて、どうやってダンジョンに入ったんだろう? 入口を警備しているDP(警察官)が、登録カードをチェックしているのに……


「一般人が保護? どうして、僕が呼ばれたんですか?」

「ああ、その一般人に事情を聞こうとしたら、東山君を指名したんだよ。呼ばないと何も話さないと言うんだ」


 えっ、僕を? 知り合いか?


「東山君、急に呼び出して悪かったね。取りあえず、一緒に話を聞いて貰えるかな?」

「はい」


 哀川さんと応接室へ行くと、応接室のドアの前でDPが警備している。中に入ると、見たことのない装備を着ている二人の男女がいた。


 男性は、180cm近くあるかな? 背が高くて、カッコイイ冒険者風の装備を着ている。20代後半かな? サラサラしたキレイな銀色の髪で、欧米人の顔立ち。カラコンか? 紫の瞳の超イケメンだが、筋肉質でいわゆる細マッチョ。そして、王子様の雰囲気……うわ~、完璧じゃないか!


 女性の方は、引きずりそうなほど長い、光沢のある白っぽいローブを着ている。フードを深く被っているけど、キラキラと輝く黒髪がフードから零れて見える。日本人か? 大きな瞳の可愛い女の子。穏やかな雰囲気で、15~16歳に見える。


 知らない人だけど……


「あっ、智明! 元気にしてた~?」

「えっ!?」


 女の子が、僕の名前を呼んだ。


「どうして、僕の名前を知っているの?」

「えっ! 智明、分からないの?」


 彼女は少し困ったような顔をしているけど、君とは初めましてだよね?


「ミーチェが可愛くなったから、彼は分からないんだよ。フフ」


 イケメンはそう言って、女の子を抱き寄せる。


「(ジーク。ここでは、人前で可愛いとか言わないでねって、お願いしたじゃない……)」

「フフ。そうだったね、ミーチェ」


 外人は、どこでもイチャつくんだな……


「では、東山君が来たから話をしてくれるかな? ダイバー登録していない二人が、どうやってダンジョンに入ったのか。それと、東山君を指名した理由も教えて欲しい」


 哀川さんが質問すると、イケメンは、彼女を守るように前に出て、哀川さんを睨んで威圧する。強そうだな……女の子がイケメンを宥めて口を開いた。


「智明が来たから話すわ。哀川さん、ダンジョンに入ったんじゃなくて、数年前、ダンジョンに落ちて行方不明になった東山美智代です。向こうで、ジークに助けて貰ったんです」

「「えっ?」」


 この女の子は何を言っているんだ? 何故、母さんの名前を知っている?


「外見が若くなって、魔素の影響で色々と変化したから、分からないかも知れないけど本当です。だから、息子の智明を呼んで貰ったんです」


 彼女はそう言って、バッグから財布を取り出し、財布から運転免許証を出した。


 えっ! 君が母さんだって? あのバッグは母さんも持っていたけど、その財布も、僕が初任給でプレゼントした財布と同じだ……


 哀川さんが、女の子から運転免許証を受け取って確認している。


「これは……確かに東山美智代さんの免許証のようだが……東山君、確認してくれ」


 哀川さんから免許証を受け取った。そこには、紛れもない母さんの写真が……えっ、どうして君がこれを持っているんだ?


「はい。これは、母さんの免許証ですね……」

「信じられないなら質問してくれてもいいし、そうだ! 智明の小さい頃からの秘密を話すわ」


 そう言って彼女は見て来たかのように、僕が子どもの頃のおねしょの話や、スボンが破れてパンツが見えた話とか、恥ずかしい話を始めた。なぜ知っている……母さんしか知らないような話まで、止めてくれ……


「もういいよ! なぜ君は、そんなことを知っているんだ?」

「私が、あなたの母さんだからよ。話を聞いたら分かるでしょ? とっておきの話をしようか?」


 とっておきって……まさか、


「や、止めてくれ!」


 横で、哀川さんとイケメンが笑っている。


「プククッ。東山君、彼女の話は本当かい?」

「……本当です」




 ——————————————————————————

・あとがき・

『僕は、ダンジョンに入る』の続きに、クロスオーバーの番外編は無理があったなと反省しました。考えた結果、『番外編のクロスオーバー』として、こちらに投稿することにしました。ご迷惑をお掛けして申し訳ございません。


※『アラフォー主婦』を読まれていない読者様へ(補足です)


 母親は、主人公(智明)が独立したのを機に、愛人がいる夫と離婚話をしようと思っていました。その矢先、異世界に飛ばされてしまいます。そして、助けてくれたジークと一緒に過ごすうちに、お互いが大切な存在になっています。


[登場人物]

・ミーチェ:ダンジョンに落ちて行方不明になった智明の母親。異世界へ落ちて、チート体質になった。異世界で、迷い人だと言うことはジークしか知らない。今は、ジークと恋人同士。


・ジーク:北の帝国出身のランクB冒険者。実質はランクS以上。ミーチェを助けて一緒に行動するうちに、ミーチェに永遠の愛を誓い溺愛するイケメン。一部、ミーチェに餌付けされているという噂も……『氷のジーク』『幸運のジーク』と呼ばれることもある。


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