2話・異世界のお土産

 彼女が言うには、ダンジョンに落ちて、気が付いたら異世界の山の中で、超イケメン(ジークと言うらしい)に助けられたそうだ。彼が守ってくれなかったら、死んでいたと言う。


 そして、転移してチート体質になって、身体が変異して若返ったらしい……今は17歳だそうだ。そんなことあるのか? しかも、精神年齢も少し若返っただって? 信じられないよ……


「あっちの世界で、恵比寿のダンジョンに落ちて転移した人に会ったの。その人に、あちこちでスタンピードが起きて大変だって聞いたのよ。それで、智明のことが心配になってね……ジークと様子を見に来たの。後、私は元気だよって、智明に伝えたかったのよ。ふふ」


 彼女は、僕ににっこりと言う。


 確か、恵比寿でダンジョンが出来た時、落ちた人は助けられたと報道していた。消えた人がいたのか?


 年下にしか見えない彼女に、母さんだと言われてもなぁ。そう言われれば、目元が似ている気もするけど……


「だから、こっちでダイバー? 冒険者登録していないです。智明を指名したのは息子だからです。夫は愛人と一緒にいるだろうから、邪魔したくないので……」


 えっ! 親父の彼女のことを知っている……本当に、この可愛い女の子が母さんなのか? 隣の哀川さんは、茫然としている。


「あの~、聞いています?」

「……ああ、聞いているよ。信じられなくてね。東山君、どう思う?」

「ダンジョンの向こうの話は分かりませんけど、それ以外の話を聞くと母さんです。親父のこととか、話し方も……でも、見た目が……」


 母さんが、年下になって帰って来たなんて信じられないよ。信じろと言う方が、無理がある。


「信じられないなら、ダンジョンの向こう側から来た異世界人ってことで、後見人は智明でよろしくお願いします」

「えっ! 僕が、後見人?」


 えっ! まだ、母さんだと納得していない、いや、母さんだとは思うんだけど……17歳だよ? 優しそうな雰囲気で、キラキラした黒髪の大きな瞳の可愛い女の子だよ? 17歳にも見えないんだけど……


「異世界人か……すると、そちらの男性は、そうなんだね?」

「ええ、ジークは向こうの人よ」


 イケメンは異世界人なのか……言葉は普通に通じるんだな。彼女はイケメンに、にっこりと微笑んでいる。


「う~む、ちょっと待ってくれ……」


 哀川さんは唸って考え込んでいる。異世界人だと言われても困るだろうな……


 母さんだと言う女の子は、財布に入っていたキャッシュカードを眺めている。そして、イケメンが優しく女の子に微笑んで話しかける。


「ねぇ、ミーチェ。お土産を渡したら喜ばれるよ」

「そうだった! ジーク、ありがとう。智明に良い物を持って来たわよ! ここで良いかな? ふふ」


 彼女は、そう言ってバッグから『スキル書』を取り出し机に並べ始めた。


 えっ? あのバッグは、アイテムバッグになっているんだ。ん? 『スキル書』いくつあるんだ……哀川さんと僕は目を見開いた。


「凄い数の『スキル書』だな、見たことの無い物がある……どうやら、向こうの世界から来たのは、本当のようだな……」

「これ全部『スキル書』?」


 机の上に20個ほどの『スキル書』が並んだ。全部、魔法陣の模様が違う。


「そうよ。スタンピードが起きても、智明が生き抜けられるように持って来たの。魔法が使えたら便利よ~。覚えられえるだけ覚えなさい。智明が魔法を覚えたら、お父さんに離婚届を渡して、ジークと旅行するの。その後、あっちの世界に帰るからね」

「えっ?」


 離婚は仕方ないけど、あっちの世界に帰るだって? 母さんなら……日本にいれば良いじゃないか?


「ちょ、ちょっと待ってくれ!『スキル書』の写真とメモを取らせてくれ! それと、恵比寿ダンジョンが発生した時に、行方不明者がいたか確認を取って来る」


 哀川さんが、慌てて部屋から出て行った。


 はぁ~、驚くことばかりで頭の中がゴチャゴチャだよ……


「ふふ、智明が元気そうで良かった~」

「良かったね、ミーチェ。フフ」


 二人が微笑み合い、そして、女の子が僕を見てにっこりと微笑んだ。その微笑み方は似ている……母さんに。


「母さんなら、何故あっちの世界に帰るって言うのかな?」

「そうね……母さんはね、あっちの世界でジークと生きて行く覚悟を決めたのよ。智明、ごめんね……分かって欲しいなんて図々しいことは言わないわ」


 彼女はそう言って、隣のイケメンと微笑み合う。幸せそうだな……ただ、17才にも見えない女の子が、自分のことを『母さん』て言うのは変だよ……違和感があり過ぎる。


「何故、ミーチェって、呼ばれているの?」

「あぁ、それは助けて貰った時に、ジークが呼び名を付けてくれたのよ。『ミチヨ』って、呼びにくかったから『ミーチェ』ってね。智明もそう呼べば良いわ。母さん、て呼べないんでしょ?」


 イケメンが呼び名を付けた時に、何故かステータスの名前が【ミーチェ】に固定されたそうだ。イケメンが、『フフ、僕がミーチェをテイムしたんだよ』と笑っている。


 う~ん、確かに自分より年下の女の子に『母さん』なんて呼べないな。周りから見ても変なヤツに見えるよね。


「ミーチェさん?」

「あはは! 変な感じね。智明、ミーチェで良いわよ」


 僕だって変な感じだよ。見た目は別人だけど、話し方も母さんだし……声は違うな。母さんより高くて細い声をしている……


 哀川さんが戻って来て、恵比寿の時に1名の行方不明者がいたことを確認したそうだ。それを聞いたミーチェは、『彼は、あっちで彼女が出来て上手くやっているわ』と答えた。


 そして、哀川さんは、ミーチェが並べた『スキル書』を順番にメモして写真を撮っていった。僕も一緒にスマホに記録していく。


 その後、僕が『スキル書』を覚えられるか順番に試した。既に覚えている魔法もあったので、覚えられたのは半分ぐらいだった。


 新しく覚えたスキルは、『エリアヒール(回復魔法Ⅳ)』『サイレント(風魔法)』『縮地(身体強化Ⅲ)』『カウンター(身体強化Ⅱ)』『雷魔法』『氷魔法』『ライト(光魔法)』『暗闇(闇魔法)』『スリープ(闇魔法)』


 凄いな! 使いこなせるまで時間が掛かりそうだけど、僕はどんどん魔法使いに近づいて行くよ。ステータスも確認した。『ステータス・オープン』


名前  東山 智明

年齢   22歳

HP   398/418(+20)

MP  348/398(+50)

攻撃力  150(+5)

防御力  139

速度   148(+10)

知力   222(+35)

幸運    67

スキル

・片手剣A ・盾A ・火魔法A ・挑発 ・水魔法B

・風魔法A ・回復魔法B→A ・土魔法B ・身体強化B→A

・雷魔法F ・氷魔法F  ・光魔法F ・闇魔法F→E


 おお……凄い! ステータスが色々と上がって、魔法の種類が4つも増えた。


「智明~、これだけスキルを覚えたんだから、生き抜きなさいよ。自分の大切な人を守れるだけ強くなりなさい。そういえば……智明、彼女は出来たの?」

「それは…………」

「そう……」


 哀川さんの前で言えないよ。神田さんと仲良くさせてもらっているなんて……ミーチェ、そんな可哀そうな目で見ないでくれるかな……


「……ねえ、智明。母さんに、今のステータスを見せてくれないかな? 勝手に『鑑定』スキルで見ても良いんだけど、マナー違反でしょ?」

「東山さん、スキルに『鑑定』もあるのですか?」


哀川さんの質問に、『鑑定』はレアなスキルで、『スキル書』は見たことないけど生まれつき持っている人がいると、ミーチェは答えた。


ミーチェには、スキルを覚えさせてもらったし、母さんなら良いか。そう思って見せた。


「どれどれ、ステータスは頑張って上げているわね。あら智明、幸運が低い……誰に似たのかしら……」


 えっ! まさかの一言だ。


「僕の幸運値が低い……?」

「どれ、トモアキ見せてね。……まあ、これだけあれば良い方じゃないかな」


 うっ、イケメンにまで……僕の幸運値は良い方だと思っていたのに……二人の幸運値はもっと高いのか? ミーチェにステータスを見せて欲しいと言うと、


「見たい? う~ん、智明が落ち込むから見ない方が良いわ。世の中には、知らない方が幸せなこともあるのよ」


 ミーチェはそう言って、慈愛に満ちた眼差しで僕を見る。えっ、僕が落ち込む? ええっ、慰められている?


 イケメンが言うには、僕のステータスは、異世界でランクBの冒険者の数値らしい。ランクAになるにはHPとMPが低過ぎるそうだ。幸運値は評価の対象外とのこと。



 覚えられなかったのは、『火魔法Ⅱ・Ⅲ』『風Ⅱ・Ⅲ』『土Ⅱ・Ⅲ』『水Ⅱ・Ⅲ』『ヒール(回復)』『ハイヒール(回復Ⅱ)』『キュア(回復Ⅱ)』『身体強化Ⅰ』既に覚えている魔法と育てた魔法だ。


「哀川さん。私とジークがダンジョンに入れるように、登録カード? を作って欲しいんですけど……お礼に、この余った『スキル書』をお譲りしますけど? 要りませんか?」

「えっ、東山さん、それは……」


 哀川さんが困っている。ミーチェはともかく、異世界人のイケメンに登録カードの発行なんて……勝手に発行したら、責任問題になるんじゃないのか?


「無くても、帰る時はダンジョンに入りますけどね。カードがある方が、トラブルが無くて良いと思うんですよ。しなくて良いですしね」


 強行突破だって……ミーチェが、可愛く頭を傾げて哀川さんを脅している。哀川さんを、だ……優しそうなミーチェは、ネコを被っていたのか?


「帰る? あなた方は、あちらの世界に戻ることが出来るのか? どうやって……う~む……」


 ミーチェは、哀川さんの問いには答えない。わざとだな。


「哀川さんが、私達の後見人になってくれても良いんですよ? 色々と、知りたいことがあるでしょう?」

「勿論、知りたいことはあります」


 哀川さんは、ミーチェに押され気味で返答に困っている。こういう時の母さんには逆らっても無駄なんだ。僕の場合だけど。あっ、ミーチェは哀川さんに追い打ちをかけた。いや、ニンジンをぶら下げた?


「ねえ……哀川さん。ダンジョンのこと、知りたくないですか? どうやって、ダンジョンが発生しているのか? とか……」


 ミーチェは、哀川さんの目を見てニッコリ微笑んでから目を逸らす。


 ガタン!


 哀川さんの座っていたイスが音を立てて弾かれた。


「えっ! 東山さん、知っているんですか? ……少し待って下さい。上と交渉して登録カードを作って来ます」


 哀川さんが、慌てて部屋を出て行こうとした。


「あ! 哀川さん、登録の名前はジークとミーチェでお願いしますね。ふふ」


 ミーチェはやり手だな。母さんて……こんな性格だったっけ? 精神年齢が若くなったからか? それとも、向こうで何かあったのか?


 程なく二人の登録カードが発行された。そして、そのカードには後見人として哀川さんと僕の名前が記載されていた。ミーチェは喜んで、残った『スキル書』を全て哀川さんにプレゼントした。


 その横でイケメンは、ミーチェを愛おしそうに見守っている。好きなんだな……


「ねえ、ミーチェ。アイテムバックを忘れているよ」

「あっ! ジーク、ありがとう。忘れていたわ! 智明~、アイテムバッグ持っている?」

「え? 持っているけど……」


 ミーチェは、にっこり笑って驚くことを言った。


「ふふ。智明、バッグの容量を増やしてあげる」

「なっ、何だって!」

「えっ!」


 哀川さんと僕は驚いて、声が大きくなってしまった。


 僕の使っているアイテムバッグを渡すと、彼女は、バッグに魔法を掛けて容量を大きくしてくれた。1分も掛かっていないよ。こんな簡単に……凄いな、馬車10台分は入るそうだ。単位が馬車……異世界らしい。


「凄い! ミーチェ、ありがとう」

「ふふ、どういたしまして。哀川さんのバッグも大きくしましょうか? お世話になるので、バッグを預かりますね」

「えっ、そんなことが出来るのか!?」

「私、チート体質ですから。ふふ」


 自分でチートとか、さっきから言っているけどバラして良いの? ミーチェに聞くと、


「どうせ直ぐにバレるから、説明するのも面倒だし良いのよ。それに、後見人の2人に知って貰っている方が、何かと都合が良いと思うの」


 そうなのか? あぁ、隠す気がないのか……


 魔法で容量を大きくしたアイテムバッグに、哀川さんも驚いている。バッグに手を入れると、入っているアイテムと残りの容量が分かるようになったからだ。しかも、時間停止が付いているんだって……本当にチートだ……


「智明、服を買いたいから付いて来て~」


 確かに、その装備のままで出歩くと目立つし噂になりそうだよ。哀川さんも一緒に、二人を連れて駅前にある大型商業施設に行った。


 二人は衣類を数着買って着替えたけど、普通の服でもモデルみたいで目立っている……着ていた装備や予備の服はアイテムバッグに入れていた。支払いは、ミーチェが、さっき銀行へ寄って下ろした現金で支払っていたよ。僕に言えば良いのに……


「東山さん、登録カードに情報料と『スキル書』の換金額を入れてあるので、お財布代わりに使えますよ」

「えっ、哀川さん『スキル書』はプレゼントしたつもりだったんですけど、買い取ってくれたんですか? 登録カードで買い物出来るんですね。ありがとうございます」


 ミーチェは、ニコニコと嬉しそうにお礼を言っている。


 哀川さんは、二人の登録カードを作った時に、1,000万ずつ入金したそうだ。残った『スキル書』12個と情報量で2,000万! 凄いな!


 ん? ミーチェとイケメンが、何か揉めている?


「ミーチェ、フードを被らないとダメだよ」

「ジーク、こっちの世界は大丈夫なのよ。フードを被る方が目立つのよ……」


 どっちでも良いんじゃないのか?


 そして、哀川さんが手配した、大阪市内にあるDWA本部近くのホテルに車で移動することになった。





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