第32話 兄妹喧嘩

 無数の槍が迫ってくる

 槍が当たる…

 肉を、骨を、内蔵を破壊してもなお止まることを知らない

 普通なら避けるだろう…

 避け切れる切れないを棚に上げたとしても避けようとはするだはずだ

 だが自分の能力が『死に戻り』なんて知っていたらそんなことはしない

 無駄に避けて死ねなくなった方が辛いからだ

 能力を発動するこのままでは死んでしまう

 だから僕は過去に戻る…

 僕が死んでしまう少し前、それよりもほんの少し前の過去に…


「『グラビティ・ホール』」


 赤黒い槍が向かってくる

 次の瞬間耳を劈く様な音が轟かせたその槍は床に刺さっていた

 

「え、…は?なんで、なんで!なんで!なんで!!」


 当人も琥珀自信が当たると、勝てると確信していたのだろう

 だが今その確信が崩された

 相手が何をしたのか、そもそもとして何が起こったのかすら理解できていないのかもしれない


「一体何をしたの?」


「敵に手の内を明かすわけねぇだろ」


「これが秘策だとでも言うの!?」


「いいや、それは違うな」


 確かにこれは秘策に近いようなものだが若干どころか大きく違う

 これはただ槍に対してとてつもない重力瞬間的にかけてやっただけだ


「グッ」


 木の棒に重力魔法をかけて琥珀を吹き飛ばす

その後に氷系魔法と炎系魔法で連撃する

 話に花を咲かせるのも良いが今はお互いの命をかけた戦いだ

 …故に隙を見せたら付かれる

 

「不意打ちなんて卑怯なんじゃない?」


「散々俺の攻撃をいなしまくってたお前に卑怯どうこうは言われたくないな」


「や、無詠唱多種他魔法を使いまくってるお兄ちゃんにも言われたくないかな」


「それもそうだな」


 それから何百回能力を使っただろうか、僕にとってはこの時間は何時間にも感じられた

 でも実際は数分かもしれないし本当に数時間殺りあっているのかもしれない

 お互い体力は限界だった

 いくら死んでも蘇る。詰まるところ結局はここに行き着くわけだ

 格上相手に勝つことは出来ないだが能力のせいで負けることも出来ない


「お前も限界なんだろうさっきから魔法より物理攻撃が多くなってるのが丸分かりだぞ」


「お兄ちゃんこそお得意の重力魔法はどうしたの?あれかなり効くんだけど」


「ははっ、あれ受けてまだ立ってるんださすが魔王ってとこだな」

 

 琥珀の言う通り『グラビティ・スコール』はかなり効いていた

 こいつは空気中の塵に重力魔法を掛けて一気に下に叩く潰す

 それによって重力の壁を作ることも可能だし一定の空間だけ塵の雨を降らせることも可能だ 

 だが僕にはもうそれを使うだけの気力も体力も残っていない手に持っている木の棒を投げ捨てる

 琥珀も同様に槍を明後日の方向へ投げ飛ばす


さぁ終わらせようこの不毛で泥臭い兄妹喧嘩を

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魔力バカのチート能力者 夏凪碧 @aqua0825

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