第17話 貴族×婚約


 私はいよいよ、パーティに正式にデビューを果たす日がやってきた。


 貴族において、パーティデビューとは、結婚相手を選ぶ場としても用いられる。


 もちろん恋愛結婚ではない。

決めるのは、当主同士である。


 私が魔法使いであると知られると、国中の貴族が、お見合い写真を送りつけて来たらしい。


 祖父は、頭を抱えた。

だが、祖父自身も、好きに孫の結婚相手を、決められるわけではない。


 我がルミエール伯爵家は、ルミナス侯爵家の寄子である。


 寄親は寄子の面倒を見るし、寄子は寄親の意見に出来る限り従うのである。


 だから、祖父ジョセフは、ルミナス侯爵に相談した。


 すると、ルミナス侯爵は孫である、チアキ・エン・ルミナスを結婚相手に選んでしまった。


 最早、祖父ジョセフにも私にも、拒否権は無かった...


 本日は、そのチアキとの婚約式も兼ねている。


 私は前世ですら、結婚した事がないのに、この歳で婚約とか、気が滅入る。


 頼むから、ミルキーのような、お転婆娘でない事を祈る。






 やがて、パーティが始まった。

本日は、ルミナス侯爵の館でパーティが開かれる為に、私は生まれて初めての、旅行をした。


 普通貴族は、余暇に、旅行を楽しむらしいが、祖父ジョセフは許さない。


 祖父ジョセフは変わり者で、家族を極力旅行へは、連れて行かなかったのだ。


 なんでも、祖父の両親が、旅行先で、暗殺者に殺されたのが原因らしい。


 私はとりあえず、花瓶に飾ってある薔薇を手に取り、胸ポケットに入れた。


 セクシーだろ?


 最早私は、薔薇を見たら手にしないと気が済まない癖が出来た。


 祖父ジョセフは、真っ先にルミナス侯爵を探す。私を紹介する為である。


 いやいや! 我が家のパーティでも何度か話しているから別に紹介しなくていいのだが...


 やがて、祖父ジョセフとルミナス侯爵は、モジモジした可愛らしい女の子を連れて、私の元にやって来た。


「いつもお世話になっております。フィン・マウル・ルミエールです。本日は宜しくお願い致します」


 私は正式な貴族の礼をした。

いわゆるお辞儀に近いが、右手を心臓に当てるのがポイントである。


 すると、チアキは、ルミナス侯爵に引っ張られて、私の前に出されて、挨拶をさせられる。


「初めまして、チアキ・エン・ルミナスです。よろしくお願い申し上げます」


 チアキはかなり、照れているらしい。

大人しい女性は好みである。


 実にラッキーだ。実は内弁慶とかいうオチは、やめて欲しい。


「いやぁあんなに小さかった、フィン君がパーティデビューとはね! しかも、同年齢の娘が居て本当に良かったよ」


 ルミナス侯爵は、とても喜んでいた。


「私としても、良い縁談を頂き、感謝致します」


 ルミナス侯爵は、さらに笑顔になる。

チアキは相変わらず、ルミナス侯爵の背中に張り付いてこちらを伺っている。


 まるで、小動物の様である。

私はチアキに、飲み物を渡して、話をする。


「チアキ嬢様! 今宵は綺麗なお召し物ですね」


「ーーーーーー」


 チアキは、顔を赤らめて、俯いたままだ。恥ずかしいのであろうか? 


 すると意外な人物がやって来た。

ミルキーだ!!


 私は自宅で開かれるパーティで、たまに顔を合わせては、酷い目に遭わされていた。


 ミルキーは私とチアキが、二人で居る事を不審に思い、声を掛けてきた。


「ちょっとチアキ! 何でこの変態野郎と一緒にいるの?」


 どうやらミルキーは、私を完全に変態野郎だと、噂を流しているらしい。


「変態野郎はあまりに酷いですよ。ミルキーお嬢様」


 しかし、ミルキーは、私との死闘の数々を言い出した。


「チアキいい! このフィンという男は、私のスカートを捲るは、口移しでシャンパン流し込むは、お尻を触るわ...」


「いや要らん事言わなくて良いわ!」


 すると、チアキは喋りだす。


「フィン様は変態なんですか?」


「そう!」


「違う!!」


 私はミルキーと睨み合いを続ける。


「いいかい! ミルキーお嬢様が変態なんだよ! 私を素っ裸にする事、三回以上! 更には、身体に落書きまでするのだよ」


 すると、ミルキーがローキックを私に喰らわす。


 ぐは!! 


「いい! チアキ! こんな変態男は危険だから、他で遊ぼ!」


 ミルキーはチアキを連れてどこかへと行ってしまった...


 私は、祖父ジョセフに相談した。


「ミルキーお嬢様にチアキお嬢様を連れて行かれてしまい、本日の婚約式とやらの準備が出来ません」


 すると、祖父ジョセフもルミナス侯爵も苦笑いを浮かべる。


 そう! ミルキーお嬢様は公爵令嬢であり、身分が上なのだ...二人とも文句が言えない。


「とにかく、笑顔で手を振り、肯定していれば良い!!」


 祖父はそれだけ言うと挨拶周りを再開した。


 私は、今夜の婚約式の為に、ナンパもできずに、窓辺で一人夜景を眺める。


 湖畔の湖に月が反射して、何とも絵画の様な風景である。


 一人で夜景を眺めていたら、また奴がやって来た。


 ミルキーお嬢様だ。

しかし、何やら様子がおかしい。

何故か涙目だ。


「チアキと婚約するって本当なの?」


「はい! まぁ貴族なので私が決めた事ではないんですが...」


「私のパンツをみて、口付けして、お尻まで触っておきながら、責任取らないつもり?」


 どうやら、ミルキーお嬢様はツンデレだったらしい。あの暴力の数々も愛情表現だったのだろうか? 


 だが、私は出来ればミルキーお嬢様は遠慮したい...そもそも、私に嫁の選択権などないのだよ。


「すみません! 貴族の子弟たる者、婚約の話は、当主同士の話し合いによって決まります。私に話されても困ります」


 私は丁寧にお断りをした。

すると、ミルキーは、走り去って行った...







 そして、婚約式の準備の為に私は別室へと向かう...






「それでは、本日の婚約式をはじめます」


 その掛け声と同時に、私は扉を開けてパーティ席に座る。


 隣を見ると驚きの光景だった...

チアキの他にミルキーが座っていたのである。


 私は祖父を見た。祖父ジョセフは目を逸らす。次にミルキーの父を見る。ミルキーの父も目を逸らした。


「おいおいおい!! 一体全体どういう事だ〜?」


「別に貴方なんか好きじゃないんだからね」


 実は、ルミナス侯爵の寄親が、ミルキーの父親である、ベアトリクス公爵なのである。


 つまりベアトリクス公爵家も、我がルミエール伯爵家の寄親に当たる。


 ベアトリクス公爵は娘のミルキーに甘い。

ミルキーが恐らくは、ベアトリクス公爵と祖父ジョセフを脅したのであろう。


 なんて無茶苦茶なお転婆娘であろうか...


 しかし、こうなれば、逆に私は断れないのである...


ミルキーはしたり顔で、パーティ席に踏ん反り返っていたのであった。


 こうして、私は十二歳にして、婚約者を二人も授かる事になった。

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まるで小説のような人生を歩みたくて〜うさぎとモフモフパラダイスをするので、自分を追放した祖国に呼ばれても、もう戻れない... ガーネット兎 @aoyamagakuin

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