第192話 氷結ホテル殺人事件

「今年の勇者が決定しました。今年の勇者はこの二人です! さあどうぞステージの上へ」

 チハルとルマモンの楽しそうな様子に呆気に取られていると、マイクを持った司会者であろう人が寄って来て俺の手を取りソリから立たせてくれた。そして、そのままステージの上へ上がらされてしまった。

 状況が全く理解できないのだが、同じくステージに上がったチハルは観客に手を振っている。チハルは状況を理解しているにだろうか。

「チハルこれは?」

「雪まつりのイベント。ルマモンを捕まえた者が勇者」

 イベントの鬼ごっこだったのか。スリかひったくりかと思ったが違ったようだ。


「それでは今年の勇者にお名前を聞いてみましょう」

 司会者はチハルにマイクを向ける。

「お名前は?」

「チハル」

 続いて俺にもマイクが向けられた。

「セイヤです」

「さあ、今年の勇者は、チハルちゃんとセイヤさんだ。みんな拍手」

 観客から拍手や歓声が起こる。

 そのあといくつか質問されたが、チハルのぶっきらぼうな答えに観客はそれなりに盛り上がる。

「さあ、盛り上がったところで、二人には豪華賞品の授与だ」

 なんと、この鬼ごっこイベントには豪華賞品があったようだ。だからみんな血眼になってルマモンを追いかけていたのか。

「では豪華賞品の勇者のメダルだ」

 チハルは金色のメダルを首から下げてもらい嬉しそうだ。俺はメダルを手に取り重さを確かめる。軽いな。金ではないようだ。どこが豪華賞品なんだか。


「続きまして、副賞です」

 司会者は目録を用意している。豪華賞品がこれでは副賞もたかが知れているだろう。

「副賞は、氷結ホテルディナー付きペア宿泊券だ」


 氷結ホテル? どんなホテルだ。粗末なメダルよりこちらの方が興味を惹かれる。

「それでは目録です」

 チハルがそれを受け取り、観客にアピールしている。こんなにはしゃぐチハルも珍しい。楽しそうでなによりだ。


「最後に二人にもう一度盛大な拍手をお願いします」

 やっとここから解放されるようだ。拍手を浴びながら俺とチハルはステージを降りた。


「チハル、その副賞の氷結ホテル早速行ってみないか」

「行く」

 当日飛び込みで宿泊できるかわからないが、様子だけでも見てみたい。今日の宿泊を断られても、予約をして、ハルクに戻ればいいだけだ。


 ということで、やってきました氷結ホテル。氷でできたホテルを想像していたが外見は至って普通の平凡な鉄筋コンクリートのホテルだ。肩透かしを食らった感じではあるが、早速フロントに行って今日宿泊できるか確認する。


「凍結ホテルにようこそ。ご用件を承ります」

「予約はしてないのですが、今日これから宿泊は可能ですか」

「はい大丈夫ですよ。お二人様ですか」

 どうやら当日でも問題ないようだ。

「はい。それでこの宿泊券を使いたいのですが」

 俺は貰ったばかりの副賞の宿泊券をフロントマンに渡す。

「こちらの宿泊券ですね。大丈夫ですよ。こちらですと夕食は最上階のレストランでお取りいただけます。18時から21時の間にお越しください」

「18時からですね。わかりました」

「それではこちらに名前と連絡先をご記入ください」

「はい」

 名前はセイヤ、連絡先はハルク1000Dと。あとはチハルの分も書いて。

「これでいいですか」

「はい、ありがとうございます。こちら、お部屋の鍵になります。お部屋は4階404号室になります」

「404ですね」

 日本じゃないからな。4号室とかも普通にあるようだ。

 俺は鍵を受け取りチハルと一緒に4階に向かった。


 404号室は至って普通のツインルームだった。

「はあ」

 ここでも肩透かしをくらい俺は思わずため息が出た。

「キャプテン、どうした?」

「いや、氷結ホテルというから氷でできたホテルでもあるかなと期待していたのだが、普通のホテルだなと思って」

「普通のホテルではない」

「チハルはなぜここが氷結ホテルと呼ばれているか知っているのか」

「知っている」


 チハルによるとこのホテルが氷結ホテルと呼ばれるようになったのは、ある殺人事件がきっかけになったということだ。

 ある時、仲の良い恋人同士がこのホテルを利用した。当然二人は愛を確かめ合って、その後二人ともぐっすり眠りについたのだが、翌朝女性が目を覚ますと男性が裸のまま凍漬けになって亡くなっていた。この奇怪な事件に警察は事故と他殺の両面で捜査を行ったが、真相は分からずじまいだった。それ以降このホテルは氷結ホテルと呼ばれるようになったそうだ。


「ちょっと待ってくれよ。そんな物騒な事件が起きたホテルなんて、誰も泊まりたくないだろう」

 もちろん俺も泊まりたくない。

「そうでもない。それ以降、凍漬けの幽霊が出るとか、夜中の0時になると部屋の暖房が勝手に切れるとか心霊現象が起こるようになり逆に大人気」

 なるほど、オカルトマニアに人気なのか。


「凍漬けの幽霊はともかく、暖房が切れるのは、暖房器具が故障してるからだろう。こんな氷点下百度を下回るところで、暖房が効かなかったら凍え死ぬぞ」

「シールドがあるから大丈夫」

「そうは言ってもシールドの魔力が寝ている間に切れたらどうするんだ……。もしかして、男が死んだのはそれが原因か? そもそも、裸だったんだ、シールド自体つけていなかった可能性も」

 真相が明らかになっていないのは、設備不備を認めたくないホテル側が警察を買収したのかも。いや、そもそも設備不備ではなく、男を殺すためにわざと暖房を止めたのかも知れない。考えれば考えただけ疑惑が湧いてくる。


「よかった」

「ん? 何がだ」

「推理オタクにも人気」

「そうなんだ」

 どうやら俺はオカルトマニアではないが、推理オタクではあるようだ。

 部屋に入るなりため息をついたのはうまくなかったな。チハルに心配をかけたようだ。

「ちなみに、事件が起きたのは何年前だ」

「かれこれ500年以上前」

「そうなのか……」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

2024年12月23日 20:44
2024年12月24日 20:44
2024年12月25日 20:44

魔力は最強だが魔法が使えぬ残念王子の転生者、宇宙船を得てスペオペ世界で個人事業主になる。 なつきコイン @NaCO-kaku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画