ラナンキュラス

楠式蓮

ラナンキュラス

この春は、荒々しくやって来ました。


でたらめに渦巻く風に乗り、生暖かな雨を従えて。


そんな光の射さない朝に、ラナンキュラスは、一番外側の花弁を、ついに目一杯に広げたのでした。


もどかしいほど大切そうに、一月もかけてほどいてきた蕾は、

狂ったように舞う春の足元で、

折れて千切れそうに見えました。


よりによって、こんなときに。

なにもこんなときを選ばなくても。

虫たちを魅了するための、その美しい姿も、まるで無駄になるというのに。


それでもラナンキュラスにしてみれば、

溢れ出す開花のエネルギーを、

もはや留めることはできなかったのです。

何もかもすっかり、覚悟を決めて、

真っ直ぐに天に向いたのです。


今夜を耐えれば、きっと、

明日は穏やかな陽が昇るでしょう。


そのときわたしは、何か強い光を、

その草花から教えられると思います。





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ラナンキュラス 楠式蓮 @kusushikl

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