告白-
『今日は記念配信に来てくれてありがとう。デビューしてちょうど一か月、そして遅くなっちゃったけど改めて十万人ありがとう』
「¥12000 十万人おめでとう!!」
「¥50000 十万&一か月おめ!!」
「¥30000 十万人おめでとうございます!歌楽しみです!」
『スーパーチャットもいっぱいありがとう。配信の最後に雑談しながら読むからよろしくね?というわけで、早速なんだけどかねてから予定してた、絢辻カレンさんの歌を歌う……んだけど、さすがに二十曲は多すぎるんで二曲のみになりました』
「ちぇ~~」
「最悪歌だけで二時間行くからなw」
「何歌うんだろ」
『歌はちなみに「シンネン」と「アヤマツ」の二曲。自分なりの解釈で真面目に歌うんでぜひ聞いてってください』
「キタぁぁぁ!!」
「¥360 どっちも好きな曲!!!」
「ばかムズイけど大丈夫か?」
俺は大きく息を吸う。
イメージするんだ。
荒野にたたずむ幼い少女を。
平和を願い謳う、気高い女の子を。
あの果てのない荒野の先をいつまでも見続けて。
『綾辻カレンでシンネン』
少女ははてなき荒野に存在し、その世界の安寧を願う。
その叫びは少女なりの世界への嘆き。
苦しくて生きづらくても、その先を願い求め続けることが私を生かす。
「すげぇ」
「うっま」
「いい……」
「表現力ぅ……」
「¥10000 好き…」
そしていつか求めたその願いがついに叶う。
でもその先に平和は持っていないのだ。
果てのない荒野の先にはただ味方の違う正義があって。
その対立に意味をつけるのはそれを謳う存在なんだと。
だから私は謳い続ける。
「すっっげぇぇぇぇぇぇl」
「カッコよかった」
「めっちゃいい!!」
「88888888」
「今なら昇天できる気がする」
「好きだ!」
『……ありがと。どう?シンネンは結構最近の曲で、もうそろそろ一億回再生に届く今伸びてる曲なんだけ……どうだったかな。てかみんな知ってる?』
「それはモチ」
「もちのろん」
「毎日聞いてる」
「めっちゃよかったよ!」
「女性キーなのになんでこんなぴったりはまってるんだろ」
俺はそんな軽口をたたきながらリスナーと戯れ、その傍らに次の曲を準備する。
ただ案外こうやって歌うのは難しい。
イメージしたその分だけ情緒が揺さぶられる。
それこそ、曲が終わった時の現実に引き戻される感覚を感じてからは特に。
「すげ、同接五万人行きそうじゃん」
「スパチャの量やばいww」
「すご」
そして俺は二つ目の曲を歌いきる。
アヤマツはシンネンとはまた違った曲で、シンネンが世界を謳い自分の信念を進み続ける歌なのだとしたら、アヤマツは世界を謳うには自分すらも疑ってその過ちすらも嘆く歌だ。
ある意味で対照的だともとらえられる二曲だと俺は思っている。
それに、俺にとって身近だと思ってしまったから仕方がないのだ。
「88888888」
「めっちゃいい!!!!!」
「これ生ってマ?」
「綺麗すぎる……」
「涙でそ」
「すげぇよ……」
「¥20000 マジで好き」
「¥12000 まじでお金を払うレベル」
「¥1200 チケット代」
『聞いてくれて、ありがとう』
空虚な心の穴、まるで何かをロスしたようなそんな虚しさが残りがちだ。
一人で歌うときなんかは特に。
でも今は不思議とそれを感じない。
それが俺をみてくれるみんながいるからなのか、それともあの時の言葉が俺を支えてくれているのか。
いや、どっちもってことにしておくのがいいのかもしれない。
今俺は確かに画面の向こう側にいるみんなを認識してる。
それをうれしいと思う。
でもだからといって彼女らの言葉が支えであることも事実なのだ。
『今日は記念枠ってことで配信をとってるんだけど、ちょっとだけ聞いてほしいことがあるんだ。……いやそうじゃないか、俺がみんなに言いたいことがあるんだ』
「お、なんだ」
「大事な話?」
「発表とか?」
『いや、そういうのじゃない俺の、つまらない与太話……かな。俺がなんでバーチャルライバーをやり始めたのかとかそんな話』
「そういや一回も話してこなかったよな」
「興味あるわ」
「ホントなんで?」
『まぁ話すつもりも本当はなかったんだけど、ちょっと気が変わる様なことがあったんだ、もちろんいい意味でね』
「たしかになんか雰囲気変わった気がする(しない)」
「紫音でもそういうのあるんだ」
「ずっと完璧超人かと思ってた」
『そうだなぁ〜〜。んー、どうせ初配信の時にも話しちゃったからいいかな。俺が今の俺に至るまでの変遷、とでも言えるようなつまんない一人の男の話』
『子供の時興味を持ったのはスポーツだったかな。友達とよくわかっていないことを話したり、戦隊モノのアニメの話をするより体を動かしている時間の方がよっぽど楽しくて幸せだったんだ』
『小学生の高学年になった時興味を持ったのはアニメだった。初めは絵が動いてて声がカッコよくて、ストーリーが華々しくて、そのうち見れば見るほどドツボにハマっていった。日々のほとんどをアニメを見る時間に当てて、学校が終わったら夜の十二時、一時にいつのまにか寝ていることが当たり前になってたっけ』
『中学生になって興味を持ったのは音楽、絵、小説その他アニメを構成するものの類だったかな。音楽ではピアノを幼稚園の時から身近にあったことからとっつきやすかったし、絵についても賞をもらったこともあった。初めて書いた小説は起承転結の起の字もないようなストーリーで、描写は稚拙だしキャラは見えてこないものだったけど、なんだか不思議とおもしろ味があると言われたかな。交友関係も順調で、コピーバンドではキーボードやボーカルをやったし、運動会ではその運動神経から頼られたし、文化祭では得意の演技で劇の主役を飾ったりもした。部活にものめり込んで、小学校のころに憧れたサッカー部でFWを努めたりしてたよ』
『これだけ聞けばまるで完璧な人でしょ。みんなが思ってる様な七々扇紫音はそういう人物でしょ。俺もそう思うよ。でもさ、実際はそんなんじゃないんだ』
『あることがきっかけで高校ではなんの意味もない何も成せない、そんな生活を送る様になった。目を惹かれることも関心を示すこともあったけど、その先が俺にはなかった。言うなれば、なんとなくの日々を過ごしてたんだ。朝起きて朝ごはんを食べずに学校に行って、学校に行っても特に話す相手がいなくて、無為に時間を過ごして、家に帰って寝て。何かに熱中すればするほどどんどん何かを失っていて、突き詰めれば突き詰めるほど後に何も残らないような気がしてたんだ』
『そしていろんなことに興味を持っていろんなことを熱心にひたむきにやってきた俺に残ったのは、その経験で培った幾千の技術や発想、そういうものだ』
ずっと俺はそれが嫌だった。
自分に罰を与えて自分を殺しても、そこに残ったものは今の俺が持ってちゃいけないものなのに。
それがどうして残ってしまうのかってずっと嘆いてた。
罰を与えた今の俺に必要のないものが、これまでの経験を培ってきた俺が汗水を垂らし望んで手に入れた何よりの至高であるというのだから。
言うなればこれはコンプレックスでもあった。
でもそれでも、ずっと考えてずっと悩んで、時に挫折して時に飾って時に笑い合った。
その全てが全部無駄だとは言えないんだ。
きっと昔みたいに心から楽しんで、興味を持ったことには全力で取り組んで、誠実で真っ直ぐで真摯で、無垢な俺には戻れはしない。
だから俺がコンプレックスを解消することはないんだろう。
でも今の俺が歩んできた全てを無駄だと言わせないためにも、昔の俺に少しでも誇れる俺になるためにも、前に進もうと思うんだ。
幸い今の俺を好きだと言ってくれた人がいるんだから。
いくら無様に転げようとも笑って手を差し伸べてくれる人がいてくれると言うのだから。
俺は誇れる俺になるんだ。
『そんな日々を歩む俺に、言ってくれた言葉があるんだ。………………』
それから俺はいろんな言葉で俺を語った。
俺の出会いの日々が一人一人の言葉が俺を変えてくれたんだと。
そしてこれからを作っていけるんだと。
『だから俺はこれまで以上に俺であり続けたい。これまでに培った全てを誇れる様に』
『天才、万能って言葉で表す様なことじゃなくたっていいんだ。言うなれば、多趣味……』
『多趣味な俺の配信道を』
止まった時計がチクタクと動き出す。
確かな始まりの音を俺は感じたのだった。
ーーーーーー
とあるネット掲示板
「プロライブやばwwwこんなん炎上不可避www」
「所詮絵畜生じゃん」
「絵の皮被ったゴミ同然」
「燃えとる燃えとる」
「バイバリン〜」
「>>21 皮肉効いてて好き」
「>>21 センス◎」
…………
「『ユナイト所属ライバー七々扇紫音、身バレか!?』氏名、年齢、経歴、顔バレ。↓以下七々扇紫音と思われる人物の顔写真と根拠」
「ん?なんか沸いたぞ」
「お、ユナイトじゃん」
「ユナイトって全然炎上しないで有名なとこじゃないっすか!」
「>>125 マジあそこのリーク一切出ないよな」
「ん?んんん?」
「>>110 マジで言ってる?コレ」
「>>128 マジ。おおマジ」
「やばい、やばいやばい」
「顔バレどころか氏名、経歴まで割れてんのヤバすぎね?てか、これマジ?」
「炎上……ってか顔バレ、だけどこれはヤバそう」
「>>152 あいつの視聴者Vリスナーじゃない層もいっぱいいるからマジでヤバいぞ。Vのマナーを知らない奴が多い(Vアンチより)」
「待って冷静になろう、こいつイケメンじゃね?」
「イケメンだ」
「マジイケメン」
「お前ら鏡見てみ?」
「>>202 いつのまにか割れたんだが」
「>>202 なんか油ぎってるんだが」
「>>202 バケモンがいたぞ」
「つまり、そういうことだ」
「うん、粛清」
「イケメンは許せん」
「しかもマジでこいつ天才なのが許せん」
「なんか名前もカッコよく見えてきた、許せん」
「お前ら……涙拭けよ」
アンチスレにその書き込みがされてから一時間も立たない間にその情報はツイッターを拡散源として、瞬く間に広がっていく。
『有名配信者七々扇紫音の顔が流出!?』
『Vtuber七々扇紫音、中の人の実態とは』
『ユナイト所属七々扇紫音の中身はイケメン!?中の人の経歴も』
変な炎上よりも加速度的にまたより広くその情報は知れ渡っていった。
ツイッターをしている人は一度は目に止まったことのある紫オンライブというハッシュタグ。
その半端に知名度があってしまったからこそ、普段バーチャルライバーを見ない層にもその情報は駆け巡り、そこからまた次へそのまた次へと流れていく。
情報元の記事のツイートは、公開されてからたったの一日でいいね数が十万を超え、一躍その名を轟かせた。
"片桐雫"という一人の男の名が。
――――――――――――――――――――――――――
第一章完!!!
つたない文章ながら、読了感謝です
よかったら感想とか書いてってください!
二章目はモチベが続くかわからないのでかけてないです!すみません!!
多趣味な俺の配信道〜スペック最強のイケメンがVtuberになったんだってよ〜 葵青 @kanararrrrr
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