コンビニ探偵

オハラ

コンビニ探偵

今やそこに在るのが当たり前、いつでも営業しているのが当たり前とされているコンビニエンスストア。


スーパーよりも手軽で気軽に利用できるということで、これでもかと言わんばかりにそこら中に店を開いている。


小規模ながら多目的に対応する為あらゆる商品が店内に詰め込まれている。


それにより来店する人々も様々であるが、働く側としてはたまったものではない。


多種多様な商品やサービス、公開される映画やコンサート、イベント等の把握や荷物の発送や受取etc・・・これらすべてを聞かれた時答えられる能力を持ち合わせないといけない上に、接客・品出し・清掃などワークスケジュールもパンパンに詰まっているあげく、それらを基本2人体制で乗り切らなくてはならないのだ。




別に仕事の愚痴を言っているわけではないのだが、これらをこなせる人間というのは中々いないわけで、その条件に当てはまる少数派は決まって社会の中でも少数派を生きてきた人達でつまり【変わり者】が多いのだ.....。


そして此処、国道沿いに店を構えているうちのコンビニで、夜勤をしている唯一少数派でないのがこの僕だ。


なぜならお客の要望全てに答える力を持っていないのと、社会的には大学生という【多数派】だからだ。


では何故そんな僕が働いているかというと、それが【コンビニ】なのだからである。




コンビニとは一部の人にはストレス発散の場であったり、無能な人間を見下しに来て自分に自信をつける場でもあるのだ。


そういう人達はなんでも完璧にこなす人間が大嫌いでそこからクレームが発生する場合もある。そこで僕の様な【ダメな人間】というタイプの出番なのである。


まあ、こちらからしたらそういう人達を見下しているので特に苦でもなんでもない。というか他人に興味がないのでどうでもいいのだがーーーーー。




              妄想女子



そして僕のパートナーの【少数派】はやはり変わり者なのだが、その代償にほぼ全ての仕事に対応できる能力を授かっている。


見た目は小柄の一般的にはかわいらしいと評価される30歳手前の【見た目ロリコン詐欺】女、小原さんだ。


夜のコンビニ客はおじさんが多く、それに加え酔っ払いや仕事で機嫌が悪い人が来ることから、かわいらしい店員を配置することで他より集客効果を上げるという店長の考えらしい。


まあ、その効果で店の人気はそこそこなので、アルバイトをクビになる事がないから何も文句は言えないのだが。


正直僕は、小原さんをあまり好きではない.....。


何故かと一言で表すならば、僕とは真逆な人で彼女の変わり者と判断できる代表的な要因が【他人に興味がありすぎる】のだ。


コンビニには情報が沢山溢れているのを知っているだろうか?


しばらく働いているとわかるのだが服装や行動、買い物によって生活情報がある程度見えてしまうのだ。他人に興味の無い僕でも少し分かるのだから、彼女からしたらもはや【客と同居】しているようなものであろう。


たとえば、部屋着の客が飲み物とお菓子を買いに来ると、


「あの人はこの裏に住んでて、明日は休みなのでしょうね。テレビとか映画とか見てて食べ物と飲み物が無くなったから補充しに来たんでしょう。」


「なぜテレビや映画なんですか?」


「あなたもお菓子は手で食べるでしょう?なら手を使わずに無駄な時間を過ごすにはテレビか映画に決まってるでしょう?」


といった具合である。


無駄な時間は言い過ぎだとは思うがあながち間違ってもない答えだと思う。


ただ全て小原さんの妄想なので真意のほどは解っていないのだが。


とにかく何かにつけて推理してしまう【コンビニ探偵】なのである。ただし推理するだけで未解決が多いのだが。




            カメラに映らない女



 ある日、常連の客から電話があった。


「昨日の朝、買い物した後に財布を落としたかもしれないからカメラとかに映ってないか見てくれない?」


彼女は週に5日くらい買い物に来る、ガールズバーで働く20代前半の女性でうちの店で買い物した後から財布が見つからないらしい。いつも仕事帰りで酔っ払ってくるので記憶も曖昧なのだろう。時間などがはっきりしていればカメラですぐ探せるのだが、【朝】としか覚えてないらしい。


店のカメラは一番早い倍速で見ても5秒単位でしか進まず、全部見るとなると仕事しながらでは到底チェックできない。買った物で調べようと思っても、レシートなんかまず持って行かないし、買った物も覚えてないという。


「そもそも店に落としていったなら僕か小原さんが気づくんじゃないですか?」


そういうと小原さんは、


「店の外で落として誰かに持ってかれた可能性もあるんじゃないの?」


確かにそれだと僕らは見ていない。やはり外か中のカメラで探すしかないのか。


せめて時間さえ解れば.....。


「とりあえず彼女がよく来る時間の4時から6時を見てみるしかないわね」


「じゃあ、1時間づつ交代でチェックしましょうーーーーー。」


ーーーーー僕らは仕事をしつつ交代でカメラをチェックしたが彼女の姿は映っていなかった。


「んーいないですね。」


「じゃあ、あなたは6時以降をチェックしといてもらえる?私は違う方法で探してみるわ。」


彼女は勢いよく事務所の椅子に全体重を預けて【めんどくさい】アピールをすると、パソコンをいじりだした。どうやら購入商品で検索をかけるみたいだ。


「でも本人が買った物覚えてないって.....。」


「本人が覚えてなくても、大体買うものなんていつもそんなに変わんないでしょ。」


どうやらよく買うもので検索するみたいだ。たしかに人によっては必ず買う物とかあるしな。


「たぶん、あのお茶とあのタバコは買うと思うから、それを時間で絞って.....。」


ブツブツ言ってるのを横目にカメラを見ながら、客がレジにくるかどうかを見てないといけないなんて、なんてめんどくさいんだ!という意味を込めて貧乏ゆすりをしていたら小原さんに睨まれたのでしかたなく足をとめた。


「彼女らしい販売履歴はないわね.....。」


「カメラも全然映ってないですね。ほんとに来店したんですかね?」


「彼女は仕事の帰りは必ず来るから間違いないはずよ。それに彼女の休みは金曜と日曜だから昨日は仕事のはずだし。」


さすが【コンビニ探偵】客の休みはしっかり把握している。


「じゃあ、カメラに映らずに店内で買い物していったのか?・・・カメラに映らない女・・・。」


「そんなわけないでしょ!大学生なら脳みそ使いなさいよ。」


しかしこのままだとカメラの時間も朝のラッシュに突入してしまう。さすがにこの時間に彼女が来店したことはないのでまずありえない。なによりも人の出入りが増えるのでチェックしたくもない。


「さすがに朝ラッシュに来るなんて事はないですよね?ここは見なくてもいいですか?」


小原さんはイラっとしながら答えた。


「当たり前でしょ!人は規則で動いてるものなんだから。でも万が一があるからちゃんと全部調べてね。」


どっちなんだよ。と言い留めながら更に地獄が続くことになったーーーーー。


そしてカメラのチェックはついに朝ラッシュを過ぎて10時へ差し掛かった。


「小原さんもう10時になっちゃいましたよ。お昼近くなって来たからさすがに水商売の人は寝てるんじゃ.....」


そういった瞬間、小原さんの首が勢いよくグルっと僕の方に向くと目が輝きだした!


夜中だった上に当事者の僕には完全にホラーだった為、思わず声を出してしまった。


「わあぁっ!何ですか急にっ!」


小原さんはお菓子を貰った子供の様に満面の笑顔を見せた。


それは誰しもがかわいいと口からこぼしてしまう様な【反則技】だと思ったが、僕は言ってたまるかと両手で必死に自分の口を抑えた。


「そうよっ!ポイントは朝だったんだわ!」


生き生きとした小原さんはもの凄い速さでまた購入履歴を検索し始めた。


「それさっき何も出てこなかったんじゃないですか?」


ーーーーー無視である。


僕の扱いのひどさにため息をついていると女王様からの指示が飛んできた。


「あった、11時23分よっ!カメラ調べて。」


「えっ?11時?」


「は~や~く~!」


「はいはい。」


この人に仕えた覚えは無いのだが、言われるままカメラの時間を再生してみた。


「あっ、いた!いました。」


そこには確かに買い物に来た彼女が映っていた。


「しかし、なんで朝で11時何ですか?」


すると事件が解決した【探偵】は嬉しそうに口を開いたーーー。


「簡単に言うと生活リズムの違いね。彼女は水商売だから寝る時間が大体朝方になるから、起きるのは昼頃という事になるわね。」


「はぁ。」


「まだ解んないのか...。彼女はお酒が入ってたのもあって【起きた時間を朝】だと言ったのよ。だから起きそうな時間の11時から12時辺りで購入履歴を調べたの。そして推理道理見つけたわけよ。」


「ええっ!でも昼を朝って、それ誰にも通じなくないですか?」


「私に通じたじゃないの。」


「通じたうちに入るんですかねぇ。」


「なによ?」


「いえ.....。」


 結果、カメラには映っている姿を発見したが、落とした財布は見つける事ができなかった。


なぜなら、レジで財布を出し会計を済ませた後、しっかりバッグに財布をしまってそのまま外のカメラから消えるまで何も落としていなかったからだ。


つまり昨日買い物した【バッグ】を本人が覚えていなかっただけで、その中にはしっかり財布が入っていたそうだ.....。


まあ、こういったお騒がせもコンビ二にはあるあるなのだが。


そして後日お詫びとして彼女の店の【割引券】を貰った。


「これお詫びになってなくないですか?行ったらお金取られるんですよね。」


「あら、そういう店に興味あるなら行ってみたら?」


学生だからって茶化してくる小原女王。たまには反撃してやるからなと思い、


「小原さんがいるなら行ってみたいですけどね~。」


僕は小学生の学芸会の様な棒読み演技でそういうと、小原さんは怒ると思いきや顔をそむけてしまった。


反対側に回って顔を覗き込んで見ると、少し頬を赤らめて困った様子に見えた。


「ばか.....。」


そして今日もまた色んな客が【コンビニ探偵】の餌食になっていく。


個人情報を知られたくない方は、朝日が昇ってからお越しくださいませ.....。


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