第38話 俺たちのラブコメはこれからだ!!

 二股宣言から一ヶ月が経った。


 はじめは笑里と真琴からのたびたび反発を食らった。「この関係やめにしない?」といわれ、やめるかやめないかの瀬戸際となったのは数知れず。


 とはいえ、笑里と真琴の距離がぎこちなくも縮まっていったので、そんな不満が噴出することは自然に減りつつあった。


「まこのん、今日も一緒にお昼食べようよ!」


「星乃さん、またやるつもり? 今週で三回目だよ?」


 四校時が終わるやいなや、笑里がこちらの教室に押しかけてくる。そうして昼食に誘うのが当たり前となっていた。


「いいじゃーん。ねー。友達でしょ」


「あ、あたしはまだ友達だなんて認めてないんだからね」


「そんなこといわないでよー。あ、もちろん私のかずっちも強制参加だからね」


「今日の昼はウィダーだけだから昼食は十秒前に終わっている。今日はパスだ」


「ひどいよ。せっかく三人分の弁当を作ってきたのに」


「……わかった。真琴、いくしかないんだ。文句いわずにいくぞ」


「仕方ないわね、一樹がいうなら」


 一緒に弁当を食うこと自体は嫌じゃない。つらいのは、クラスの男子から向けられる嫉妬を帯びた目線だ。


 真琴と笑里と楽しそうに絡んでいるところを何度も、しかも堂々と見せつけたせいか、俺はすでにハーレム認定されているらしい。


「リア充○ね」をいう側からいわれる側に出世したわけである。誉高いことだが、俺が教室に戻ると殺伐な雰囲気になるという嫌なオマケがついて来てしまったのは痛い代償だった。


 こんな姿を見たらあの不破雷堂(広範囲オタク・一話参照)が嫉妬超えて殺意でも抱いてるんじゃないかと思われる方もいるのではないだろうか。


 答えはノーである。



 なんと、あいつには彼女ができていたのだ。


 相手は、イベントにいったときに出会った年下の子。たまたまいくつかのイベントに同席して顔見知りになり、連絡先を交換して、仲を深めて付き合うまで至ったという。


 写真を見せてもらったことがある。雷堂とは不釣り合いの健気そうで可愛らしい子だった。雷堂はいいやつだって知ってるが、意外すぎて驚きを隠せなかった。


 もう半年付き合っているという。なお、俺が二股のことを打ち明け、少しイキっていた際に「俺も彼女いるけど?」といわれたことで発覚した。よく隠し通せていたものだ。


 なお、雷堂は俺の二股を肯定的に捉え、かなり応援してくれている。困ったときは幾度となくメッセージで相談した。いつも厳しくも優しく返してくれるんだよ。なんだか雷堂が付き合えたことのはそういうところなんだろうな。。



「さーて、かずっちもまこのんも食べてー」


 俺たちは屋上入り口前までやってきた。さっそく笑里は風呂敷の紐を解き、中を開けていく。


 今日は卵焼き・ウインナーetcというような弁当ではなく、漆塗りの重箱(三段重)に入ったガチの弁当。


 中身もお節料理よろしく、高級品や手間暇かかるものばかりだ。よくこれを学校に持ってきたな。


「どうしていつものやつじゃないんだ?」


「だって思い出してみてよ。今日が何の日くらい、覚えてないの」


「すまない、わからない」


「正解は、二股カップル成立一ヶ月記念日でした!」


「めんどくさい彼女かよ」


「めんどくさい彼女だってかずっちがいうから自覚はあります!」


「自覚はあるのかよ。そしてそれは自信満々にいうことではない」


 俺が笑里との会話に夢中になっていると、真琴が退屈そうに頬を膨らませた。


「一樹、あたし抜きでおふたりで食べていた方がよろしかったですか?」


「真琴、二股だから仕方ないだろう。割かれる時間と愛情は半分になるのは承知の上だろう」


「わかってるわよ。でも、あんたって星乃さんとはなすときのほうがあからさまに生き生きしてて腹がたつのよ」


「嫉妬か?」


「し、嫉妬じゃないわ。私は単に事実を述べただけ」


「わかってるって。いつものことだ。ほらほら、照れ隠ししても無駄だぞ」


「さっきから否定してるじゃないの! なんなの一樹」


「かずっちはまこのんのことを可愛がってあげてくれてるみたいだから素直になりなよー」


「もう、あんたたちは」


 仲良いんだか悪いんだかだ。みんなして素直じゃないからこうなる。でも、ふたりは口論になっているところですら絵になるから不思議なものだ。


「さっきから一樹はなんでにやついてんのよ。気持ち悪いから覆面被ってもらえるかしら」


「俺はプロレスラーか何かかよ。少なくとも俺は投げる側ではなく投げられる側だがな」


「あんた、まさかドM? あたしに投げられたくて仕方ないなんて抜かしてるわけ?」


「どういう思考回路してたらそんな解釈になるんだ。真琴こそ攻撃する気満々じゃねえか」


「いいじゃないの。あたしはあんたに暴力か暴言を振るうことで快感を得るんだもの」


「あたしだってかずっちとねっとり濃密な時間を過ごせるのが快感だから!」


「頼む。笑里は天使なんだから、意味深ワードでブランドイメージを傷つけるような真似はよしてくれ!!」


 暴力症候群とヤンデレ気質といういわくつきの彼女たちではあるが、毎日楽しく過ごせている。


 クラスの男子からの視線は痛いが、このふたりと過ごすことできるのだ。



 なぜ「も」をつけたかって? 忘れちゃいけない。


 それは。


「ただいましろぉぉぉぉ!!!!」


 靴下で立ったままスライディングをかましていく。


「汚いから体の隅々まで殺菌して」


「冷たい、冷たすぎる」


 真白は不定期の保健室登校からはじまり、ここ一週間で数回教室に顔を出すようになった。


 それからというもの、俺に対する当たりはなぜかひどくなっている。俺以外に関わる人(保健室にいる養護の先生その他もろもろ)ができために、そこと比較して俺の評価は相対的に下がってのだろう。


「お兄、お勉強だけは教えてほしいから殺菌が終わったらお願い」


「もちろん」


「はやくして」


 テレビ生活から一転、真白は勉強を始めるようになった。ここ一年近く勉強をしていなかったことに危機感を抱いたらしい。


「少し待ってろー」


「はーい」



 殺菌を終えて、真白のところにいこうとしたときのこと。


 チャイムの甲高い音が鳴る。


『あたし。今日も仕方ないから家政婦っぽいことをやってあげにきたわ。そろそろこれもやめにしたいんだけど』


「真琴、ちょっと前に『これは真白に会うための口実なのよ』なんて抜かしていたことを、この俺が忘れたと錯覚していたのか?」


『くっ。それをいわれてしまうと何もいえないわね』


「ほら、早く入れ」


 嫌だったはずの家政婦制度も、今では楽しみのひとつだ。絶対に好きになら

 ないなんて思っていたのは何だったんだろうな。今じゃまるで嘘みたいだ。


 とはいえ、嫌いじゃなくなったに越したことはない。





 かくして、俺の二股ライフはこれからも続いていく。


 家政婦としての園崎真琴。


 天使のような幼馴染の星乃笑里。


 我が妹、浦尾真白。


 俺たちのラブコメは、まさにこれからなのだ──────



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 ここまで読んでいただき、ありがとうございました。ぜひブックマーク登録や★での評価をしてもらえるとうれしいです。近いうちに別のラブコメをあげますのでそちらもぜひお楽しみに!

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隣の席のツンデレ女を雇ったら、疎遠だった幼馴染からの好感度がなぜか爆上がりしたんだが まちかぜ レオン @machireo26

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