斜め、夜

玉手箱つづら

斜め、夜

 深夜、仕事帰り、自転車で。ご機嫌は斜め。コンビニに寄る。

 店の前に、学生らしき男女、三人ほど集まって、なにやら話しこんでいる。

「そう! そう! 向こうには向こうの考えがあるってのがね!」

 やわらかく楕円を描いて、彼らを避けて入店する。

「誰かフェアに見てくれる人立てるしかねえべ」

 夜食と五〇〇ミリのサイダーを買う。

「そこまで行ったならやっちゃえばいいじゃん」

「だってー。それって拒絶の意志表示じゃんかー」

 さっきよりも大きな楕円を描いて、彼らを避けて自分の自転車へと歩み寄る。

「できないよー」

 サイダーを開ける。カシュ、と音がする。

 それに反応して、彼らのうちの一人、男の子が、こちらをみる。

「そもそもこうやって一生懸命考えてること自体、間違いかもしれないでしょ?」

 目があうと、男の子は、申しわけなさそうな表情で会釈をした。

 サイダーを飲んで、渇きを癒やして、こちらも会釈を返す。

「争いたくないよ。そんな大した話じゃないし」

「でもなあ。結局なにがしかのことは起きるよそれ」

 駐車場を走り去る際。話の中心になっていた女の子も、やはり申しわけなさそうに、会釈をくれた。

「結局のところ、当人の問題だから」

 自転車を漕ぎながら、なんだ、と思う。

 なんだ。いいやつらじゃないか。

 なんだかはわからんけれど、なんか、真剣そうだったし。当人でもないらしいのに。

 車が横を走り抜ける。一台、二台。

 優しくて、優しくしすぎて、結局何かを駄目にしてしまいそうな、彼ら。

 あるいはそんな言葉も打算で、実際は冷ややかに、うまくやるのかもしれない、彼ら。

 車のほうが、よっぽどうるさいじゃないか。と気づく。

 何でもないような顔をして、一台、二台。

 ──三台。

 僕の影を轢いて去っていく。

 お前なんて見えないと吐きながら。

 なんだ。なんだ、なんだクソ!

 走るな!

 僕以外の、世界中の誰に許されても!

 走るんじゃねえよ!

 馬鹿野郎!!

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斜め、夜 玉手箱つづら @tamatebako_tsudura

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