12.「面白いこと言うのね」

魔族の多くは人とほとんど同じ姿を持ち、同じ言葉を操る。


それは、神が自身を模して人間を創り、そして魔神がその人間を模して魔族を創ったからだという。


死霊姫と思わしきその魔族の外見は、二十歳より少し下くらいだろうか。


見てくれだけなら俺よりも若く見える。


もちろん外見と中身は別物なのだろうけど。


特に魔族は寿命が人間のそれよりかなり長く、強さはそれに比例する場合が多い。


服と呼べるようなものは身に付けておらず、手足と胴に黒い膜が張り付いている。


あれが魔族なりの装いなのか、それとも皮膚に近いものなのかはわからない。


後者……、かなぁ?


そんな人と差ほど変わらない存在だが、魔族の実力は人間のそれとは比べ物にならない。


レベルが同じなら、一人の魔族に対して複数の人間が揃ってやっと五分と言ったところ。


「聖女に会いに来たら、変なのがいたわね」


この大群は、聖女様とその聖女様が守護する都市を攻めるための物だったか。


「主賓じゃないのにはしゃいで悪かったな」


「ほんとに、自重してほしいわ」


迷惑しているというポーズはするが、その実は言動に余裕がある。


「もっと早く出てくると思ったんだがな」


「兵隊はいくらでも補充が効くもの。そのためにあたしが前に出たりはしないわ」


「それは合理的だな」


その余裕の元にあるのは、種族の絶対的な差だろう。


常識として、同じレベルで一対一なら魔族が負けることはない。


そして魔族幹部のレベルを大きく上回る人間などいるはずがない。


そんな自信が感じられる相手に、あえて軽口をたたく。


「それで、それは?」


それとは、彼女が鎌とは逆の手に握っている生首のこと。


よく観察すると、その顔に見覚えがあった。


「聖女を連れてくるように言ったのになんの役にもたたないんだもの。全員スケルトンにしたのだけど、これだけ余ってしまったから」


ということは、聖女様の誘拐犯は全員俺がここに来るまでに斬り捨てたか。


まあ魔族と取引なんて自殺行為だから自業自得だ。


もし人間に偽装して誘拐を指示されたんだとしても、それを見抜けなかったなら実力不足。


少なくとも、法の外で生きていくには弱すぎたんだろう。


頭目の頭を死霊姫がつまらなそうに一瞥すると、途端にそれが紫色の炎に包まれて、手の中で灰も残さずに燃え尽きる。


誘拐なんて回りくどいことを、と思ったが、あの街の結界を見れば聖女を別に処理しようと考えるのは当然か。


ここからでも背後に輝く光の柱は、夜とは思えないほどに明るく照らしている。


相当な力を持った奇跡の顕現は、魔王軍の幹部でもまともに食らいたくはないらしい。


「まあいいわ。あの仕掛けは連続して発動はできないでしょうし、あたしがみんな片付けてあげる」


そしてお喋りは終わりだと握った鎌をくるりと回してこちらへ向けた。


しかし俺にはまだ聞きたいことがあったのでもうちょっと待ってもらおう。


「死霊姫、魔王軍幹部だったか。レベルはいくつだ?」


普通はレベルを問われて答えることなどしない。


わざわざそんな情報を与えてもメリットがないからだ。


しかし、そんな当たり前のことを無視した質問に死霊姫は素直に答えた。


「88よ」


それは自負か、それとも余裕か。


俺の希望を砕いて絶望させたいのかもしれない。


「あなたは?」


「85だ」


「そう、人間にしてはやるじゃない」


レベルもだが、後ろに積まれている魔物の山は確かに人間にしてはやる方と言えるだろう。


最高峰だとは言わないけど。


未だ勝てる気が微塵もしない相手と言うのも確かに居るから。


しかしまあ、褒めてもらったのでお礼にひとつ提案をする。


「俺の質問に答えて魔物を引くなら見逃してやる。お前も主賓じゃない奴に殺されて無惨に一生を終えたくないだろう?特にその無駄に長そうな魔族の一生をな」


「面白いこと言うのね」


冗談を言ったつもりはないんだけどな。


ちなみに挑発をしたわけでもない。


ただ単純な忠告の心遣いだ。


「あなたを殺したら、肉体と魂を縛って、一生あたしの奴隷にしてあげる」


そう言って、頬を上げた死霊姫の笑みは、外見の年齢にとても見合わない酷薄な物だった。


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魔王討伐なんて危険なことはしたくないので、サボっていたら追放されました。~世界最強SSSランクのチート聖剣を手に入れた俺は、世界平和とか興味ないけど旅に出ます~ あまかみ唯 @amakamiyui

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