第3話
ノックの直後に、勢いよく裏口のドアが開いた。
「いつもどおり持ってきたぞー!」
すぐ目の前の台所でお茶を飲んでいるというのに。耳をつんざくほどのリザの大声に、私は顔をしかめた。
「ありが……と……」
どさりと置かれた食料を見下ろして、私は早々に額を押さえた。今週から、一人きりの生活に戻ったことをすっかり忘れていたのだ。
「今回は特別に返品、きくけど?」
「ごめん、お願い。全部、半分でいい」
「はいよ」
意地の悪い笑みを浮かべるリザに、私はため息混じりで答えた。
「来週の注文は?」
「これ……の、半分で」
「はいはい、了解。一年なんて、あっという間かと思ったけど、ずいぶん二人暮らしが染みついたな。お前のところに行儀見習いに寄越すなんて、領主様も何を血迷ったのかと思ったけど。お前にとってはよかったのかもな」
リザの優しい笑みに、私はあいまいに微笑み返した。そういえば――。
「リザの店って雑貨も取り扱ってる?」
「物によるけど。何が必要?」
「可愛い感じのリボンとか、小物とか。片方は白色で、もう一つ、色違いで同じ物……」
「それはお断りだ」
食い気味に断られて、私は固まった。しばらく呆然として、
「はぁ?」
ケンカ越しの声で尋ねた。だが、リザは動じたようすもなく。澄ました顔でそっぽを向いた。
「あの子――エララと約束したんだよ。マーガレットが白い小物と色違いの同じ物を注文することがあったら断ってくれって。あの悪魔に嫁ぐ何日か前に、わざわざ店まで来て、頭下げてったんだ。約束はきっちり守らないとな」
私は額を押さえた。さすが領主の娘。抜かりない。
リザはぽんと私の肩を叩くと、
「諦めて街に下りてこいよ。んで、久々にうちの隣の店でカボチャのグラタンでも食ってけ。好きだっただろ、お前も、イオも」
そう言って、少しだけ寂し気に笑ったのだった。
***
久々に下りた街は以前と変わらないように見えた。王都のように活気があるわけではないけれど、のどかな雰囲気に包まれていた。子供たちのはしゃぎ声。主婦たちの噂話。学生たちのくだらない話。
それらを聞き流しながら、私は早足で通りを歩いた。
私の顔を見た瞬間、また診療所やらないのかと声をかけてくる人がいるかもしれない。医者として、私が誰かを診るなんて許されないことだ。
それに街にはイオとの思い出がありすぎる。
いっしょに歩いた通学路。面倒な先輩を巻くために入り込んだ路地裏。お気に入りのカフェと、お気に入りのカボチャのグラタン。
どこを見てもイオの面影がちらついた。
大きな通りには日用品や食料品を扱った店が多く並んでいる。一本、奥の路地に入ると本や香水と言った贅沢品を取り扱う店が軒を連ねている。お目当ての雑貨屋も、本屋とハーブ屋に挟まれて、昔と変わらない佇まいで営業していた。
店番をしている老婆も変わってはいなかった。ドアが開く音に顔をあげて、客を一べつ。すぐに背中を丸くして、目を閉じてしまう。いらっしゃい、と言われたことは一度もない。
狭い店内は雑多な雰囲気だ。棚にはずらりとガラスビンが並んでいた。素材ごとに、テキトーに、ビンの中に押し込まれているものだから探し出すのが大変だ。白い物は見つかっても、色違いの同じ物が見つからなくて諦める、なんてこともしょっちゅうだ。
なんとかフェルト生地やガラスでできた動物モチーフのペアを見つけ出して、老婆の元へと持って行った。これだけあれば半年分にはなるはずだ。
カウンターにバラバラと探し出した小物を乗せると、老婆はそれらをじっと見下ろした。だが、一向に商品を数えたり、金勘定をしようという気配がない。
「いくらだ?」
しびれを切らして尋ねると、
「あんた、マーガレットだろ?」
しゃがれた声で老婆が尋ねた。
学生時代に何度か来たことはあるが、もう十年近く前だ。頻繁に来ていたわけでもないし、名前を覚えていたとは思えない。いぶかしく思いながらも頷くと、
「売れるのは色違いの一組だけだよ。あとは棚に返してきな」
老婆は小物の山を押しやって、そっぽを向いた。しばらく老婆を見つめていた私は、
「まさか……」
額を手で押さえ、脱力した。
「三日、四日前にあの悪魔に嫁いでった子がいただろ。あの子が頼みに来たんだよ。マーガレットってのが来て、色違いの小物をいくつも買っていくようなら売らないでくれって。頭を下げて頼んでったんだ。どういう事情かは知らんけど、無下にはできない。ほら、一組選びな。他のは戻して、次のときに買いな」
予想通りの老婆の言葉に、私は渋々、一組だけを選んで会計を済ませた。
ずいぶんと根回しが良い。私は茶色の紙包みをポケットに入れて、ため息をついた。今の私のようすを見たら、彼女はきっと歯を見せて楽し気に笑ったことだろう。
***
一週間分の毒と解毒剤を生成して。一週間に一度、街に下りて雑貨屋で小物を買う。
私の新しい生活は、こうして始まった。
やらなければいけないことは、あまり多くはなかった。
ちょうどよかったかもしれない。
最近、悪夢にうなされて起きるようになっていた。一度、目が覚めると、もう寝付けないのだ。
***
一か月後――。
「白くて可愛い物と言ったのを忘れてしまったのでしょうか。ガラス製のカメレオンも、ライオンも、ヘビも良くできているけれど、可愛い物ではありません。次こそは可愛い物でお願いします」
白地に黄色い花が描かれた便せんの文字を追いかけて、私は首を傾げた。私的には可愛いものを選んで、目印としてくくりつけたつもりなのだが。
彼女が嫁いでから初めて届いた手紙には、王宮でのことは詳しくは書かれていなかった。下手なことは書かないよう、領主様に言われているのだろう。
ただ、私が選んだ小物の文句はびっしりと書かれていた。
手紙をもう一度、読み返し。もう一度、首を傾げて。私は頬を緩ませた。
便せんに書かれた文字は子供っぽい丸文字で、スペルミスばかりだった。ただ、文字自体は乱れていないし、筆圧もしっかりとしていた。
文字には書いた人の体調も、精神状態も現れる。今のところは、大丈夫そうだ。
私は手紙を胸に抱きしめた。
***
二枚目の手紙を書く頃には、私のセンスに見切りをつけたらしい。手紙にははっきりとウサギがいいとか、小鳥がいいとか。指定のモチーフが書かれるようになっていた。
彼女が指定したモチーフがなくて、仕方なく私が選んで送ると、次の手紙にはびっしりと文句が書かれていた。
どうやら私には可愛いものを選ぶセンスがないらしい。
***
六枚目の彼女からの手紙が届いた、その日。私は領主邸へと向かった。
手紙の内容はいつもと変わらなかった。王宮の食事は美味しいけど、太るのが心配だとか。私が選んだガラス製のカピバラはリアル過ぎて、やっぱり可愛くないとか。
ただ、いつもよりも文字が乱れていた。線が細く、薄くて、弱い筆圧で書いたのだろうと察せられた。
考えすぎかもしれない。
それでも心配で。私は領主様に――エララの母親に話を聞きに行ったのだ。
領主様はすぐに私を書斎に通してくれた。王宮や彼女のことを尋ねると、
「医学生時代の友人があの悪魔の専属医を務めている。つい先日、会ったんだがね。持って、あと一か月じゃないかと言っていた」
そう言って、にたりと笑った。
「エララも不調等は訴えていないと聞いている。あの悪魔にしては珍しく気に入ったようで、今のところ命の危険もなさそうだ」
エララの話をしたとき。何の表情も浮かばなかったのは、母の顔に戻ろうとして、思い出すことができなかったからだろう。領主様は母だった自分も、人だった自分も、もう忘れてしまったのだ。
「領主様。最近、悪夢を見ますか?」
ふと、私は尋ねていた。私と同じように、毎夜、うなされているのではないか。そう思ったのだが、
「いや。最近は夢も見ないよ」
領主様は無表情に答えた。ただ、ゆっくりと瞬きしたあと、
「そうか、マーガレット。お前は夢を見るのか」
そう呟いて、考え込むようなようすを見せた。何を考えていたのか。
「あと一ヶ月もすれば、あの子が戻ってくる。あの子が戻ってきたら、あとのことは頼むよ」
そう言って微笑んだ彼女は、久しぶりに母親の顔をしていた。
***
診療所の裏には大きな広葉樹が生えていた。物心がつく頃には立派な大木だった。木の足下には四つ、小さな墓石が置かれていた。
一つには顔も覚えていない父の名。一つには母の名。一つにはイオの名が彫られていた。
母が死んだとき。領主様は一房、母の白い髪を切って、持って帰った。イオが死んだとき。領主様は一房、イオの銀の髪を切って、私のところに持ってきた。
私とイオの関係を知っていたのだろう。そして、また母と領主様も、私とイオと同じ関係だったのだろう。
残る一つの墓石には、お決まりの”安らかに眠れ”という言葉が彫られているだけだ。診療所の裏にひっそりとあるから誰のものかと聞かれたこともない。
名前の彫られていない墓石の下には、二十四名の”被験者”が眠っていた。
殺したのは、私だ。
毒はすぐに完成した。完成したというか、メモの通りに作るしかなかった。
神が先王に与えた力は、すでに亡くなっている先王と、その息子である若き国王にしか引き継がれていない。普通の人間は痛みを感じるけれど、あの悪魔は痛みを感じないという記載を。メモに書かれている生成方法を信じるしかなかったのだ。
十五歳になったエララを預かる、一年前。必死に準備していたのは解毒剤だった。
解毒剤の生成方法については一切、記載がなかった。毒の成分から推測は出来たものの、臨床実験を行う必要があった。
三ヶ月の動物実験ののち、領主様が連れてきたのはあの悪魔に子供を、家族を、恋人を、故郷を殺された人たちだった。全員が領主様と、恐らく私とも同じ目をしていた。
彼らは何の躊躇もなく毒と、まだ試験段階の解毒剤を飲んだ。二度目に毒を飲んだときのエララのように、恐怖に体を震わせることもなく。淡々と、何度も、何度も。
エララ毒を飲ませられる状態になるまで。つまり、まともな解毒剤が出来上がるまでに二十四人が死に、生き残った六人にも後遺症が残った。六人は今、領主邸にかくまわれている。
そのことはエララも知っていたはずだ。
私は医師としてはもちろん、人間としての一線も越えてしまった。
エララが想いと初めてのキスを差し出した夜。受け取ろうとした私を、彼女の声が――イオにそっくりな彼女の声が現実に引き戻した。
母を殺され、イオを殺され、私はあの悪魔を殺すと決めた。そのために、たくさんの人を殺した。
それを忘れるな。
そう、イオに言われた気がして。私はエララの想いを拒絶した。
でも、もしエララが無事に戻ってきたら。そのときは。今更かもしれないけれど、今度こそエララの気持ちを受け取ろう。あの子を頼むと、エララの母親に言われたとき。そう思ったのだ。
「許してくれるだろうか、イオ」
祈るように呟いて、私は空を見上げた。ごく当たり前のことのように、私は再び、神に祈っていた。
頭上には、あの悪魔の元に嫁ぐエララを見送ったのと同じ。曇り空が広がっていた。
***
次に送る毒と解毒剤が完成すると、私は花屋で花を買ってきた。
おしべとめしべが黄色で、一方は白色、一方は紫色の花びらの花。小さなマーガレットの花をくくりつけて、私は彼女に毒と解毒剤を送った。
王の専属医は一ヶ月ともたないと言っていたようだが、確かに、その通りだった。
マーガレットの花をくくりつけた毒と解毒剤を送って。翌週分の生成に取りかかっていた私の元に、領主様がやってきた。
「あの悪魔が死んだ」
領主様は診療所の裏の広葉樹の下で、感情も表情もなく、そう言った。
領主様の様子に復讐なんて、こんなものなのかもしれないと思っていたが、促されて乗った馬車の中で、
「あの子が死んだ」
と、彼女の死を告げられて納得した。
馬車は半日ほどで王宮についた。国王が亡くなって王宮内は慌ただしい雰囲気だった。ただ、皆、どこかほっとした表情をしていた。
上に下にと行き来する人のすき間を縫って、彼女が半年間、暮らした部屋へと向かった。彼女の部屋には領主様の友人だという、王の専属医がいた。
天蓋付きのベッドに、彼女は静かに横たわっていた。
レースのたくさんついた白いドレスを着て、胸で手を組んで目を閉じる彼女は本当のお姫様のようだった。
首に指を当て、肌の冷たさと固さに崩れ落ちた私の背中を専属医が撫でた。
「君のせいじゃない」
彼が指さしたのは、私が彼女に最後に送った毒と解毒剤だった。封は開けられ、目印の花は取り外されていたけれど、透明なケース越しに見える液体の色で判断がついた。毒は七日分すべてが空になっているのに、解毒剤は三日分が残っていた。
「彼女は身ごもっていたようだ」
専属医の言葉を聞きながら、私は固く握られた彼女の手をそっと撫でた。
彼女は私が最後に贈った白いマーガレットの花を握りしめていた。枕元には目印としてくくりつけた小物が散らばっていた。
「穏やかな表情をしていることが、せめてもの救いか」
領主様が彼女の頬をそっと撫でるのを見ながら、私は涙一つ流すことができなかった。
***
領主としてやるべきことがあると言う領主様を王宮に残し、私は馬車で先に帰された。
診療所に戻って一週間。私は不要になった作りかけの毒と解毒剤を眺めていた。
あの男の血を根絶やしにする。
彼女はその使命を完璧に遂行した。あの悪魔を毒のキスで殺し、あの悪魔の子供も殺したのだ。自分自身ごと。
もし、あのとき彼女の想いとキスを受け取っていたら。例え、若き国王の子供がお腹にいても王宮から戻ってきて、言っていた通り、一番に私のところに会いに来たのではないか。解毒剤を飲んでくれたのではないか。
毒と解毒剤が白くかびていくのを眺めながら、私はそんなことばかり考えいていた。
***
「こっちにいたのか!」
いつものように勝手に裏口のドアを開け、台所から入ってきたのだろう。リザは診療所までやってくると、私宛だという手紙を手渡した。
ちゃんと食べているのか。街がどうした。領主様がどうした。あの悪魔が死んで国はどうだ、と話していたが、どの言葉もうまく飲み込むことができなかった。
リザが帰っていくのを見送って、染み着いた習慣で手紙の封を開けた。中の便せんを取り出そうとした拍子に、何かが足元に落ちた。拾い上げると押し花のしおりだった。ぼんやりと眺め、書き物机のすみに置いて、便せんに目を落として。
文字を見た瞬間、頭の中にかかっていたもやが吹き飛んだ。
「……っ」
何日もろくに水を飲むことも、声を出すこともしていなかったせいか。喉からはヒュッと笛のような音がしただけだった。だが、それを気にしている余裕はなかった。
彼女の文字だった。手紙はエララからのものだった。私は震える手で書き物机のライトをつけた。
***
親愛なるマーガレット
今回はいつもより早めのお手紙です。
王宮の料理は美味しいけど、ちょっと飽きてしまいました。塩と胡椒の分量が適当で、毎回、味が違うマーガレットの野菜スープが食べたいです。
そうだ。このあいだの目印。私がお願いしたとおり猫だったけど、全然かわいくなかったです。どうやったら猫のモチーフでこんなに可愛くないのを見つけてこられるの? いっそ才能だと感心してます。
でも最後に贈ってくれた白と紫の花は、マーガレットにしては珍しく可愛かったです。
無事に帰れたら一番にマーガレットに会いに行こう。前は振られちゃったけど、帰ったら、今度こそはって、神様にお願いしていたけど。神様は私の願いを叶えてはくれないみたい。もしかしたら、イオ姉様は私が思っているよりもやきもちやきだったのかもしれません。
母様も、マーガレットも優しいから。気に病まないで、と言っても自分のことを責めるんでしょう。母様には、もう私の言葉は届かないかもしれない。でもマーガレットは私のわがままを聞いてくれるでしょ?
これが私の最後のわがままです。マーガレットはお医者さんに戻って。
マーガレットにとっては大切な人の妹で、まだまだ子供だったかもしれないけど。私にとっては最初で最後の恋でした。
最後に贈ってくれたマーガレットの花。マーガレット自身だと思って、持っていきます。勘違いだってわかってるけど、思うくらいはいいでしょ?
偶然にも私の瞳と同じ、紫色のマーガレットも贈ってくれたので。こっちの花はしおりにして送ります。ずっと見ているから。私が迎えに行く日まで、きちんとお医者さんをして。今から死のうとしている私が言うことじゃないけど。おばあちゃんになるまで、ちゃんと生きてね。
***
エララより――と、いう署名で手紙は終わっていた。いつもどおりに。
書かれた文字は乱れてもいなければ、薄くもなかった。丸い文字で、スペルミスが多くて、しっかりとした筆圧で書かれた、いつもの彼女の――エララの文字だった。
「勘違いでも、偶然でも……なかったのに」
母の死から立ち直れずにいた私を支えてくれたのは、親友のイオだった。イオに支えられて、診療所を継いで。でも、イオもあの悪魔に殺されて。
惰性で続けていた診療所も、毒の生成に携わるようになってあっさりと辞めた。解毒剤を完成させるために、二十四人と六人を犠牲にした。
医者どころか人間であることをやめた私を、引き戻してくれたのはエララだ。イオへの想いや、自分の手の汚さに拒絶してしまったけれど。私はとっくに彼女を愛していたのだ。
手紙といっしょに入っていたしおりを抱きしめた瞬間。私は子供のように泣いていた。イオが死んでから、エララの死まで。一度も流れなかった涙が、一気にこぼれ落ちた。
激しくドアを叩く音に、何事かと袖口で目元を拭って、慌てて台所に向かった。
「マーガレット……!」
開きっ放しの裏口にはリザと中年の女性が、青い顔で立っていた。
「この子、高熱を出して何日もうなされてて。意識がないみたいなんだ。急いで診てくれないか!?」
しゃがんだリザの背中には男の子がぐったりとしていた。
「病人なら領主様の邸に……」
「領主様のところは、そんな状態じゃないって話しただろ!」
リザに怒鳴られ、私は首をすくめた。話していた気もするが、記憶に残っていない。
「領主様が自殺した。領主様の邸で面倒を見てた寝たきりの六人を殺して、自らも毒を飲んだらしい。邸は大騒ぎだよ。村のやつらがいっても門前払いだ!」
睨みつけるリザと、すがるような母親の目から顔を背けようとして。開けっ放しのドアから入り込んできた風が、私の手からしおりを奪った。足元の紫色の小さな花は、叱りつけるようにか。大人びた微笑みを浮かべるようにか。こちらを、じっと見つめていた。
医師に戻ることが罪滅ぼしだなんて、そんなことはあり得ない。失くした命は何物でも贖えないのだから。
ただ、どちらにしろ、私はお姫様のわがままを聞かなくてはいけない。彼女に初めて毒を飲ませたあの日、そう誓ったのだから。
「準備をするから、少し待っていて」
しおりを拾い上げた私は、そう、リゼに告げて診療所へと戻った。かびた毒を捨て、白衣を羽織るために――。
毒はむ姫と白い花 夕藤さわな @sawana
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