この美しい世界で
シオ
この美しい世界で
風が吹く。
全身を突き抜ける心地よい冷たさの風を浴びる瞬間がすごく好きだ。
全身の皮膚が歓喜の声を上げて鳥肌が立つ。
ミカは遠くの空を見つめながら思う。
その気になって足を踏み出せば空中を散歩出来るんじゃないんだろうか?
そんな絵空事を七割くらいに本気で思いながら母から頼まれたお使いを果たすために、町のパン屋さんへと向かう。
海と山に囲まれた石畳が綺麗なこの町の人々はみんな同じことを言う。
「たくさん勉学に励みなさい。そして良い学校へと進むのです。そしてそこでも一生懸命勉強をしなさい。そうすればあなたは安泰の一生を約束されているのだから。」
ミカには少しも魅力を感じないお話だった。
なんで皆同じ生き方をしなければならないのだろうか?そもそも安泰とはどういう意味なのでしょう?
学校も国も巨大なドラゴンが襲って来て火でも吹かれてしまうものなら一瞬で灰になってしまうのに。
この話を母にしたところ頬を少し叩かれて、「寝ぼけたことを言ってるんじゃないよ。
そんなことを考えている暇があったら勉強でもしていなさい。」と一蹴されてしまった。
けど書いてあったのだ。
私が読んだ本には山の向こうにもっと大きな山があってそこには絶滅したと言われているドラゴンがまだ生存していると。
夢の話には思えなかった。
その本には写真と呼ばれる生々しい絵のようなものが載っていて、その写真にはたしかにドラゴンが映っていたのだから。
ドラゴンが載っている本は1ヶ月くらい前に町の路地裏に落ちていたものだ。
偶然拾って読んでみたところ自分の気になっていたこの街の外の話がたくさん載っていた。
こっそり家を抜け出して登った丘の上。
名前の知らない街が見えたのだ。
多分あの街にも人が生活をしていて、私の知らない世界がある。
あの街の向こうの山の先はどうなっているのだろうか?
近くの海の先にも陸はあるのだろうか?
そう考えるだけで胸が躍った。
この本との出会いはミカの世界を変えた。
今まで平凡でありきたりにしか見えなかった世界が美しい世界へと変貌したのだ。
知らなかったことを知ること、知ることで不思議に見えてくること。
町の大人達も成績優秀で高飛車なアイツも気付いていない私だけの秘密。
こんなに美しい世界の片隅で終わるなんてミカには我慢出来なかった。
あの山の向こうにもこの海の向こうにも出会ったことのない人がきっといる。
顔も名前も知らない友と出会いどんどん世界の美しさを知りたい。
ミカはそう願いながら丘の向こうへと走り出した。
この美しい世界で シオ @sioduhuhu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます