第10話

 俺はすぐにミリアが用意してくれた部屋に案内された。


 シルヴィアとユーフィリアに挟まれ、少し大きめのソファーに座る。


「それで、アルどういう事なの?」

「アルベール、この子の名前は何にしましょうか?」


 左右から、各々話しかけてくるが、温度差が半端ない。


「ユーフィリア様、今は私がアルと話しているので、静かにしていてもらえますか?」

「シルヴィアこそ大人しくしていてよ。私たちの子に名前を付けている最中だから」


 俺を挟んで二人は睨み愛を始める。


「二人とも落ち着いて」


「アルはどっちと話したいの」

「アルベール、もちろん私ですよね?この子の将来についてしっかり話し合わないといけないですし」


 シルヴィアは悲しそうに、ユーフィリアは当たり前のように、言う。


 この状態を巻き起こしたミリアは部屋の隅でニヤニヤしながら見ている。そんなミリアを一瞬睨むが、もうどうしようもないので、すぐにあきらめる。


「どっちとも話したいよ。でも、二人とも仲良くして欲しいな」


 ここで、どちらか片方を選ぶと大変な事になりそうな予感がするので、あたりさわりのない返答を返す。


「アルベールが言うのなら、シルヴィアごめんなさい」

「いえ、こちらこそ申し訳ございませんでした」


 若干納得していなさそうではあるが、二人は互いに謝る。


「ねぇ、シルヴィアはこの子の名前は何がいいと思う」


 小鳥の頭を撫でながらユーフィリアはシルヴィアに訊く。


「トリリンとかでいいじゃないですか?」


 シルヴィアは不機嫌そうに返す。


「あら、シルヴィアもっと可愛い名前がいいわ。ねぇ、アルベールはどんな名前がいいと思いますか?」


「うーん。トリスケとか?」


 俺がそう答えると、シルヴィアは噴き出したように笑い始める。


「アルベール!まじめに考えてください!」


 ユーフィリアは頬を膨らませながら言う。


「ごめんごめん」


「アル、この鳥は何の鳥なの?」


 シルヴィアは少し興味が出てきたのか、そう聞いてくる。


「知らないな。庭で餌をあげていた野鳥だから」


 俺はそうシルヴィアに返す。


「アル、あなた、そこら辺にいた鳥を捕まえてプレゼントにしたの?」


 シルヴィアは信じられないといった表情で言う。


「アルベール、そうなの?」


 ユーフィリアが悲しそうに言う。反対側ではシルヴィアが勝ち誇った顔をしている。


「いや、ちゃんと選んだよ。その小鳥は俺が餌をあげている中でも、一番可愛がっていた子だから」


「あら、じゃぁ、アルベールの愛情がたっぷり注がれている子って事ね!」


 ユーフィリアがぱぁっと表情を明るくする一方で、シルヴィアが表情を暗くする。


「ユーフィリアは、どんな名前がいいの?」

「そうですね…。ミリアはこの子がどんな鳥か知っているかしら?」


 ユーフィリアが少し考えた後、部屋の隅にて待機していたミリアの方を向く。


「そちら鳥は、万能鳥と呼ばれる鳥ですね」


「「「万能鳥?」」」


 ミリアの返答に俺たちは首を傾げる。聞いたことない鳥だ。


「ミリアさん、万能鳥ってどんな鳥なのですか?」


 シルヴィアが代表してミリアに尋ねる。


「万能鳥とは、そそいだ愛情によって進化する鳥ですよ。不死鳥と呼ばれる伝説の鳥も元は万能鳥だったとされていて、深い愛情を両親から注がれて進化したと考えられています」


「へー。そうなんだ」


 ミリアの話はホントなのだろうか。いや、絶対に嘘だ。こんなそこらへんにいる鳥から伝説の鳥になるなど考えられない。ただ単に面白そうだからと作り話を話したに違いない。


「お嬢様、すでにアルベール様がたくさんの愛情を注いでいますので、後はお嬢様が愛情を込めて育てれば、伝説の鳥以上の存在になるかもしれませんよ」


「そうなのね!じゃあ、名前は不死鳥『フェニックス』から取ってフェニちゃんに決めたわ!あなたの名前は今からフェニよ」


 ミリアの言葉にユーフィリアは喜び、嬉しそうに小鳥に話しかける。


「ユーフィリア、まだそうなるとは分からないよ?」


「いいえ、必ずなりますよ。いや、必ずします!すでにパパの愛情は込められているのですから、後はママの愛情しだいですので。私がんばりますね?」


 ユーフィリアからはものすごくやる気を感じる。


 ミリアの方をチラリとみるとものすごく楽しそうに笑っていた。


 案の定万能鳥はミリアの作り話なのだろう


「ユーフィリア様、アルとは夫婦ではないですよね?」


 すごく不機嫌そうにシルヴィアが言う。


「あら、シルヴィア。私とアルベールはその内夫婦になるわ。なんて言ったって、伝説上の生物が誕生するかもしれないのですから、皆さんきっと祝福してくれますわ」


 うっとりした表情でユーフィリアが言う。


「うぐっ…。私の方が先に告白されています!」


 確かにユーフィリアの言う通りかもしれないので、シルヴィアは少し言いよどんだが、ダンスの件を持ち出し反撃する。


 再び二人は睨み合いを始める。俺は助けを求めるようにミリアに視線を向ける。


「お嬢様とシルヴィア様、そろそろいい時間ですので、お部屋に戻りましょう」


 ミリアが睨み合いを続ける二人に話しかける。


「そうね、行くわよ、シルヴィア」


「アルベール様、私に感謝してくださいよ?」


 二人が扉出ていった後、ミリアがそう囁いて出て行った。


「お前のせいだろう!」


 俺の叫びはむなしく部屋の中に響き渡った。

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スローライフを送りたいので追放してくれ 佐倉そう @fujigon

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