妹は聖女
その日、妹のフユは聖女と認定された。それは唐突であり、何の脈絡もなかった。
確かに十五歳で祝福を受け、職業が決まる、世界はそういう仕組みだった。だからといって俺は平民だというのに妹が聖女などということがあるか?
しかし、その不平を口に出すのは躊躇われた。だって妹はこれから何不自由なく暮らしていけるのだから。きっとそれでいい。そう考えて俺は教会を去ることにした。
「お兄ちゃん! 私は……私は……」
「いいさ、フユ、何も言うな。お前は確かに俺の立派な妹だ」
そう言って王都の教会を後にしたのが三日前、一人きりの生活を俺は淡々と過ごしていた。
そうして夕食を食べようとしたところでふと気がついた。
「一人分には多いな……」
いつも二人分を作っていたせいで習慣がすっかり身についてしまった。慣れとは恐ろしいものだ。
俺は二人分の食事を腹の中にかき込んだ。なんだか無性に妹の作る不味い料理が恋しかった。
「教会もはた迷惑なシステムを組んでくれたものだ……」
世襲制なら何の問題も無く俺たちは二人で暮らしていただろう。聖女……全てを救うほどの魔力を持ち、あらゆる怪我も病気も治してしまう、その力は重宝されるものだった。
きっとこれでいい……誰もが幸せになって、妹は多くの人を助けて……こんなに良いことがあるだろうか。
例えば夕食を二人分作ったり、例えばコップを取り出すときに二つを当たり前のように取ったとしても、きっといずれは慣れるのだろう。
だから俺は……明日も農業をするために早く寝ることにした。そう、こんな日が来ることは覚悟していたんだ。
そうして二日、三日と過ぎていく中で徐々にフユがいないことを心に留めていた。
そうして幾日目の朝が来た。コンコンと家のドアがノックされる。
気乗りしないまま開けるとそこにはどうしようもなく望んだフユが立っていた。
「お兄ちゃん! 一緒に行きましょう!」
手を差し出してそういうフユ、コイツは聖女としての役割があったはずでは。
「ま、細かいことは追々話しますので、とりあえず出ましょうか」
俺はその手を握り、きっとどこへも通じていない無限の迷路へと足を踏み出したのだった。
妹は兄と幸せになりたい! スカイレイク @Clarkdale
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