妹は有能デベロッパー
俺は妹が好きだ。特にその好意がどういった種類のものかは分からないが所謂シスコンだろう。外が晴れ渡っている中、俺はプログラミングをしていた。
Vimはいいなあ……やはり低レベルな操作を必要とする場面ではIDEはあまりにも力不足だ。MSが一体何を使ってWindowsを開発しているのかは知らないが、Linuxを統合開発環境で開発しているという話は聞かない。
「お兄ちゃん、そこ
「おっと、sedやgrepがもっと柔軟に対応してくれたらこんな細かくこだわらなくても良いのに……」
俺と妹でペアプログラミングをしている。妹の桜はプログラミングが出来る。何故出来るようになったのか聞いたことがあるが、上手いことはぐらかされてしまった。中学生がスマホよりPCを使用してコーディングまで出来るのは珍しいことだと思う。
「なあ……確かに効率は良いんだが……なんでそこまで気が利くんだ?」
フフフと笑って桜は言う。
「愛ですよ! 愛さえあれば大抵のことは我慢できるものです!」
「そこまでC言語が好きなのか?」
ブームのPython等を無視してこんなレトロな言語に付き合ってくれる理由にはなるのだろうか?
「いえ、言語ではなくお兄ちゃんへの……なんでもないです」
妹の目が液晶の画面を舐めるように見ていく、些細な穴も見逃さないような神経質な目線がコードをたどっていく。
「お兄ちゃん、ここ引数の型が違いますね」
「え?」
検索コマンドを入れて差分を表示すると、確かにintのところがlong longで宣言されていた。
「記憶力どうなってるんだ……?」
妹の記憶力の良さに驚きとともに聞いてみる。
「私はお兄ちゃんの書くものは全て覚えていますよ? ちなみに他の人が書いたコードは読めすらしないですけどね」
「自慢するようなことかな……」
よく分からない桜の能力自慢は放っておいてガリガリコードを書いていく。一通り今日のノルマが終わったのでgithubへコミットをしておく。
そのリポジトリをwatchしている人が一人だけいる、言うまでもなく妹の桜だ。
ちなみに妹の方は結構な数をコントリビューションしていて、俺とは比べられないくらいの人気者だ。
「俺も有名になりたいなあ……」
「そんなに良いものじゃないですよ……?」
どこか物憂げにそういう桜の声にはあまり元気がないように感じられた。
「謙虚と自虐は違うぞ?」
お前が良いものじゃなかったらぼっち開発者の俺などどうなるというのか? あまりにも謙虚だと間接的に俺をディスっているのと変わらないだろ……
「そういうことじゃないんですよ……お兄ちゃんは私だけに見られてるじゃないですか? 私はお兄ちゃん以外にも観察されてるんですよ? あんまり気分の良いものではないんです」
よく分からないが著名プログラマにはそれなりの悩みがあるのだろう。俺には多分到底縁のない悩みだろうが……
「お! お兄ちゃん……」
「なんだ?」
桜が小声で俺に絞り出すように言った。
「私のプロジェクトに参加しませんか?」
「えー……お前のプロジェクト大物が何人もいるじゃん……俺が参加したって……」
「お兄ちゃん、有名な言葉があるでしょう? 『目玉の数が十分ならば全てのバグは深刻ではない』ですよ?」
その言葉は知っている、オープンソース界隈の大物の言葉だったかな? 俺が目玉として十分な役割を果たせるかは甚だ疑問だが……
「まあリポジトリにスター付けるくらいなら……」
俺は妹のページを開いて、俺でも読めるCで書かれたサーバのプロジェクトにスターを付けておく。
何故か桜は感慨深げに頷いている。俺一人の力なんてたかがしれていると思うのだが、何故かとても満足そうにしていた。
「俺に出来ることなんて大したことはないぞ?」
「お兄ちゃんに見られてるってだけで十分クオリティは上がりますよ!」
謎理論だが、本人が満足しているなら俺がとやかく言うことでもないだろう。
「それじゃ、お兄ちゃんにこのプロジェクトのメンバーが集まってるdiscordへの招待送りますね!」
「え!? ちょっとまって!?」
疑問を差し挟む間もなくスマホにメールが届いた。そこにはdiscordサーバへのリンクが入っていた。
「じゃあお兄ちゃん! 私が皆さんに紹介するのでログインしておいてくださいね?」
「しょうがないな……」
俺はスマホからメールのリンクをタップする、discordが起動してサーバへの招待に応じるかダイアログが出た。俺はサーバに入る……
『この人が私の相方です!』
『おお! 付き合っておられるとは本当だったんですね!?』
『マジかよ? 恋人同士で開発とかすげーな』
『マ? きっとスゴい人なんだろうなー』
『彼氏さんよろしくー』
メッセージが怒濤の勢いで流れていく。
「なあ桜……俺は一体誰なんだ?」
なぜかナチュラルにサーバマスターの桜の彼氏扱いされてるんですが……
「まあまあ、私が少し見栄を張りました」
「わかったもういい」
端的な説明に呆れてものも言えない。というかなんで普通に兄じゃダメなんだろうな?
「私は天才プログラマで彼氏持ちで、バリバリ働いているって設定なのでよろしくお願いしますね!」
「盛ったなあ……」
ニクアブラヤサイマシマシくらいに盛ったプロフィールに呆れるのだった。
「まあいずれ事実になることですし今は多少盛っていても問題無いでしょう?」
その言葉の意味は分からないが、とにかく俺はそうして有能な開発者集団の中に放り込まれたのだった。
そうしてその後、妹とアプリで一旗揚げるのだがソレはまた別のお話。
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