第14話 病床で夢を見る②

 アラタは二人の騎士によって大聖堂に担ぎ込まれた。大聖堂にはソフィア王女はいなかったが、大司教が朝のミサを行っているところだった。

 大司教も高位の治癒師である。ついてきたスズは異世界に召喚された際にいた大司教の顔を覚えていたので声をかけた。スズはミサを中断させる事を詫びて、アラタを診てもらえないか頼んだ。

「神はそのような事でお怒りになられません」

 そう言って直ぐにアラタを診てくれた。

「体力的に落ちているようですが、命に別状はありません。治療の必要もないです」

「……よ、良かった……」

 スズは力が抜けて、へたりこんだ。

 クロエも追い付いて事の成り行きを聞いて、ようやく人心地ついた。治療院の病室のベッドにアラタは寝かされた。

「では。私はこれで」

 カイルにスズがお礼を言うと、「いえ、大事にならずに済みました。私もひと安心です」と言って、騎士宿舎に戻っていった。

 暫くして、アラタは目を覚ました。

「アラタは今日も休みなさい」

 そう言うクロエに「いや、大丈夫でしょ?」と身体に異常を感じないアラタは答えた。

「「ダメ!」」

 クロエとスズがハモった。

 頭痛も足首の痛みもなくなっていたし、治療の必要性を感じなかった。

 どちらにせよ、二人は今日も勇者の訓練でここからいなくなるので、それから活動すればいいと思うアラタであった。


 昨夜アラタが取得した光属性の治癒魔法がステータス画面から消えていた。

 代わりに、スキルの欄に【古代治癒師】が表示されていた。もう既に取得されていた。レベルがないパターンのスキルだ。光属性の治癒魔法が変化したのだろうが、まだ、どんな効果があるのか分からない。レアなスキルであるのは間違いないだろう。

 出来れば、自分自身を治せる治癒術の上位互換の能力であって欲しい。


 スズは病室から出ていったが、クロエはまだ病室にいた。

「クロエ、頼みがあるんだが」

「何?」

「魔術師学園に図書館があったらその使用許可が欲しい」

「魔術師学園?」

「そうだ」

 クロエはそこで合点がいった。転移について調べたいのだと。

「申請してみるわ」

「ありがとう。頼んだよ」

「いえ、勇者をサポートするのは私の仕事だから」クロエはさも当然という風に言った。

 少ししてスズが部屋に入って来た。食事を運んできてくれたようだ。お盆にはお粥が載っていて湯気がたっていた。スズが作ったという。身体を起こしたアラタはそのお盆を貰おうと手を伸ばすが、スズはそれを無視して、椅子に座る。

 スズはお椀をもって、レンゲで粥を掬う。湯気が出ていて熱そうである。スズはそれに息を吹きかけ冷ます。

「はい」とレンゲをアラタの口元に持っていく。


 これは! アーンとかいうやつでは?!

 古来、病床につく男を落としてきた女人のファイナルウェポン的な!


 だが、あまりにもスズが何でもない、さも当然のように口に運んでくるので、アラタはそのまま食べた。

 旨かった。

 またレンゲで粥を掬うと、スズはふーふーと息を吹きかけ冷ます。それを食べるアラタ。クロエが、その様子を真っ赤になって見ていた。

 食べ終えると、スズはアラタの口元に付いた米粒を手に取り、パクッと食べた。

「うん、美味しい」

 美少女のいたずらっ子の笑顔。完璧だ。普通の男子ならこれで落ちる!

 やはりこいつ! 天然か?!

 アラタとクロエは身悶えして倒れた。


 ◆◆◆


 暫くしてクロエとスズの二人は訓練の時間になり、戻って行った。

 暇で退屈なアラタは病室を出て行く。【書籍】で本でも読んでいれば良いのかもしれないが、そういう気分でもなかった。

 騎士宿舎に戻り、使用人宿舎の台所に行くと、イザベラとルチアがいた。

 アラタは餅は餅屋に聞いた方がいい様に冒険の事は冒険者に、と考えた。

「カイルから聞いたが、大変だったんだろ?」

 イザベラが心配そうに言う。

 ルチアがアラタの手を握ってきた。

「すみません、ご心配かけたようで」

「無茶せんようにな」

「はい、ところでイザベラさん、聞きたい事があるんですが―」

 その内容を聞いたイザベラは、「そういうのが無茶だと言っておるのだが……」と呆れた。

 だが、何だかんだとイザベラは教えてくれた。要するに良い人なのであろう。



 ◆◆◆


 そして今、アラタの目の前には冒険者ギルド。


 アラタはイザベラに冒険者の心得を聞いた。

 アラタは人の忠告は、きちんと聞く。でも、そのとおりにするかは、別である。他人は自分の思い通りにはならないものだ。

 琴子の気持ちもそうだった。自分が琴子とずっと一緒にいたいと選択した未来。それはついぞ消えてしまった。

 自暴自棄になっていないとは言いきれない。だが、たとえイザベラが親切な気持ちから忠告してくれたとしても、自分の気持ちに添って行動する事に決めたアラタであった。

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