ジャンルはホラーだったのでそのつもりで読みはじめました。━━が! 読み終わった今は大分違う印象を抱いています。引きこもり生活にどっぷり浸ってきた主人公が恐ろしい怪異事件に巻き込まれ、否応なく自分自身と向き合い、懸命に外の世界との関わりを模索していくハードな青春小説でした。
読み進めていくごとに私のなかで、主人公・生方君の心情へのシンクロ度が高まっていったのは、ひとえに作者のまちかりさんの筆のなせる技です。でも、きっとそれだけではありません。作者さんがこの作品を通してどうしても伝えたかったテーマが、その強い気持ちとともに読んでいる私に伝わったからでしょう。
単なる正義感から怪物に立ち向かっていったのではない、生方君の苦しくもたくましい心の軌跡を、このレビューを読んでくださったあなたにも一緒に追いかけてほしいと思います。
そうそう。生方君の出したSOSにネットの掲示板の仲間たちがアドバイスや応援で応えるところも、よかったな。あの伝説の『電車男』的わくわく感がありました。
探偵はバーにいる――もとい、この物語の主人公(ヒーロー)は自室にいる。
そりゃもう、ずっと自室にいる。
何なら、話の半分以上が自室で展開されているという徹底っぷりである。
しかしこの物語のすごいところは、それだけ主人公が閉じこもっているのに、しっかりホラーとして話が展開するところだろう。
閉じこもっている状況が、ホラーにおけるクローズドな状況として見事に成立しているのである。
登場人物も少なく、しかも主人公が直接顔を合わせた人物というと更に限られる。
だというのに、それが逆に個々の人物の個性を浮き彫りにさせているようにも思ってしまう。
また、主人公が頑ななに外に出たがらないトラウマともいえる理由の描写が生々しく、思わず「頑張ったな……」と言いたくなってしまった。
等身大の主人公が(引きこもりながら)、怪異に立ち向かう本作。
どうやって立ち向かうの? と気になったそこの貴方は、ぜひとも読むことをお勧めする。
ニートで引きこもりの生方経太は少ない社会との接点であるコンビニの宅配サービスから「幽霊を見た」という奇妙な噂を聞く。やがて失踪事件が起こり、警察の捜査が始まる。現れたのは警察だけでなく、国土交通省URAサービスの伏木初見と名乗る役人だった。
経太は自分に気遣ってくれていた親戚のキクさんの死をきっかけに、過去を乗り越えて、事件の真相に迫ろうとするが……。
引きこもりとなった経太が世間を恐れる様子や、そのきっかけとなった事件が丁寧に描写されており、生々しくも共感できる。
第一章までで連載が完結となっているのが寂しい。できることならば、これからも引きこもりながらも活躍する主人公の姿を見てみたい作品だ。