第12ステージ  終わらない夏

第12ステージ  終わらない夏

 何度目のツアーだろうか。

 始まる前はいつだってワクワクする。慣れないことが嬉しく、毎回新鮮だ。


「ペンライト、バッチリですか?」


 もちろんだ。電池も新しいし、さっき光るかも確認した。

 けど、どんなに準備しても、イレギュラーなことは起こる。

 それもまたライブの醍醐味だ。予定調和だとつまらない。


「ハレさん」

「ん?」


 横を見ると、あずみちゃんが目を閉じ、


「って、ここはライブ会場だから! それはお隣じゃないよー。ライブに集中しよう!」

「そうでした。キスは家でたくさんできますからね」

「そういうことじゃないけど!」


 彼女が隣にいることは安心だけど、行動は安心できない。


「ハレさん、口元汚れていますよ?」

「マジ? さっき食べた味噌カツかな?」


 マフラータオルを持ちながら、彼女が俺の口元を拭こうとした。


「ん!??!」


 タオルで隠すような形で、そっと口づけされた。


「あー、遠征先でするのはまた味が違いますね」

「味を堪能するな。怖い!」


 ライブに集中しようといったのにこれだ。ライブに来るとテンションがあがり、暴走気味だ。これでも、お酒を飲ました時よりはマシだけど。こないだ、お酒入りのチョコで酔っぱらった時は手に負えなくて、絶望したっけ。あらゆるところに跡がついて、ひどかった。


「おおお」

「わああ」


 照明が落ち、ライブが始まる!

 楽器の演奏が始まり、普段より長いイントロから何の曲か、考える。


「この曲は黄色ですね」

「だな!」


 あずみちゃんもすぐに曲がわかるようになった。オタク度合いも進化し続けていると感心してしまう。

 ペンライトの色を変える。

 赤、緑、青、き


「あれ?」


 黄色がうまく光らない。もう一度押すと違う色に変わってしまった。

 このペンライトも寿命だろうか。


「ハレさん」


 隣の彼女が、俺の名を呼ぶ。そして、ここぞとばかりのドヤ顔で言うのだ。

 

「私の予備のペンライト使いますか?」


 苦笑いしながら、俺は受け取ったのだ。

 俺たちはこうして始まり、季節が変わっても夏が終わらない。

 黄色で染まる会場に、天使が舞い降り、会場の雰囲気は最高潮に達したのであった。





 お隣の私が手を差し伸べ、

 お隣の君が今度は手を差し伸べてくれる。


 手を取り合って、また夏の瞬間を味わう。

 隣で嬉しそうにする君が眩しくて、また心の光が灯る。


 夏は終わらない。隣に君がいる夏は終わらないのだ――。

 

                             お隣Summer 完。

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お隣Summer ~ペンライト貸したら惚れちゃいました~ 結城十維 @yukiToy

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