SS:好いとーよ(舞音視点 ※心の声は標準語)

 舞音には宝物がある。

 それは、なめしゃんからもらった焼き鳥のキーホルダー。


 名前は『やきしゃん』!


 実はいつもスカートのポケットに忍ばせて肌身離さず持ち歩いてる。

 そして授業中にこっそり手におさめて、先生の視線が逸れた時にやきしゃんをチラチラみて、にまにましちゃってる。


 なめしゃんには秘密だけどね!

 (1回だけ先生に「にまにまするな!」って怒られちゃったのも、ナイショ)



「舞音ぽん、誕生日おめでとー♡」

由夏ゆかしゃん、ありがとう〜!」



 登校するや否や、1番仲良しの由夏しゃんが横から思いっきりぎゅーしてくれた。

 むにむになおっぱいが脇にあたってくすぐったいな。



「舞音ぽんのために……ジャジャーン! クッキー作ってきたよ♡」

「ありがとう! わあ、アイシングクッキーばい! ばりかわいい〜」

「えっへん! 由夏しゃんは頑張ったのだ☆」

「由夏しゃん、好いとーよ!」



 舞音の似顔絵のアイシングクッキーは、由夏しゃんの気持ちがたくさんこもってるのがわかってすごく嬉しい。


 やっぱり誕生日にプレゼントをもらえるのって幸せだなぁ。


 ……あれ? そういえば、なめしゃんの誕生日っていつだろう?


 咄嗟にポケットに手を忍ばせて、やきしゃんをぎゅっと握ってみる。

 舞音はもうなめしゃんからプレゼントをもらってるのに、舞音からは何も返せてない。


 どうしよう……お返しなくてなめしゃんが悲しんでたらどうしよう!



「あれ〜、浮かない顔してどうしたの? もしかして、気に入らない?」

「……う、ううん、す、すごく嬉しいばい!」

「さては、例の彼への恋煩いか〜⁉︎」

「ち、ちが――」

「図星だなぁ〜」



 う……由夏しゃんはいつも鋭い。


 舞音の脇腹をツンツンしながら「教えろ〜、教えろ〜」とにやにやする由夏しゃんに観念して、舞音は素直に今の悩みを打ち明けた。


 すると由夏しゃんは……大爆笑⁉︎

 


「ゆ、由夏しゃん、ひどいばい!」

「ははは! ちがうよ、舞音ぽんがかわいすぎるんだよぉ〜♡」

「ええっ」

「ガチャガチャのお礼なんて普通しないよ! 相手社会人でしょ?」

「えっと、無……」



 無職……はなめしゃんの名誉のために言えない!



「ん?」

「あ、や、えっと……」

「でも舞音ぽんがお礼したいって思ったら、プレゼントしちゃいなよっ!」

「でも、今更遅いけん――」

「そんなことないよ! 私はこんなにかわいい舞音ぽんからプレゼントもらったら、365日いつでも嬉しいもーん!」

「由夏しゃん……」



 由夏しゃんの言葉に、心がキュってなってじーんとしちゃった。



「未来の旦那さんの胃袋掴んじゃいなぁ〜♡」

「だ、だ、だ、旦那さん⁉︎」

「舞音ぽん顔真っ赤〜。かーあいいね♡」



 ちょっと意地悪で、でもとっても優しい由夏しゃんのこと、舞音はばり好いとーよ!


 そして、なめしゃんのことも――



***



 今、舞音は後ろ手にハートの箱をぎゅっと持ってる。

 そして、足が少しだけふるふるしちゃう中、なめしゃんが下に降りてくるのをじっと待ってる。


 何をお返ししようか必死に考えて、やきしゃんのお返しはリアルやきしゃんがいいと思った。


 だから人生で初めて、リアルやきしゃん――焼き鳥を作った。


 お店みたいな甘辛なタレを作ると焼き加減がすごく難しくて、何度も何度も何度も何度も作ったら、いつのまにか50本もできちゃった。


 でもそのおかげで、すっごく美味しくてキーホルダーにそっくりなリアルやきしゃんができた!


 なめしゃん、喜んでくれるといいなぁ……。


 そんな風に不安と期待でそわそわしていたら、階段からなめしゃんが降りてきた。


 ふるふるする足にぎゅっと力を込めて、勇気を振り絞ってなめしゃんに声をかける。



「あ、な、なめしゃん」

「舞音、どうしたの?」



 どうしよう。頭が真っ白で練習してた言葉が出てこない!



「もしかして、具合悪い?」

「ち、違うばい! こ、これをなめしゃんに食べて欲しか!」



 なめしゃん優しすぎる!って思いながら、勢いよく箱を差し出した。


 美葉しゃんのおじいさんからもらったピエールマルマルのかわいい空き箱につめた、舞音のリアルやきしゃん……あああ、渡しちゃった!



「あの、これって何?」

「今開けて!」



 なめしゃんはちょっと不思議そうな顔をして箱をパカッて開けた。


 そして目をまん丸にして驚きの表情を浮かべた。



「や、焼き鳥⁉」



 つ、つ、ついになめしゃんが見てくれた!

 食べてくれるかな……食べてほしいな。


 勇気を出して、言おう。



「舞音が作ったけん、食べてくれん?」



 恥ずかしくて顔が熱くなっちゃったけど、出来たてのリアルやきしゃんはもっと熱々なはず。


 食べてほしいなぁ〜って目で訴えたら、なめしゃんはパクって食べてくれた!



「……うまっ!」

「ほんと⁉ 良かったばい!」



 やったぁ!

 美味しいなんて、嬉しすぎるよぉ!

 


「うん、お店の味みたいだ。でも、どうして俺に?」

「舞音、実は昨日が誕生日ばい」

「そうなのか? おめでとう!」

「ありがとう! それでね、友達にプレゼントを貰ったときふと思ったと。なめしゃんには前にガチャガチャしてもろうたんに、舞音はなめしゃんにお返ししとらんって」



 嬉しくてウキウキして、言葉がどんどん出てきた。

 そして、心の中で由夏しゃんにお礼も言った。


 ありがとう〜! 由夏しゃんのお陰ばい!



「そんな、気にしなくていいのに。でも嬉しいよ、ねぎま」

「良かったばい! ガチャガチャのねぎまキーホルダー、スクバにつけとーよ!」



 肌身は出さず持ってるってことはちょっと恥ずかしいから、スクバってことにしちゃった。

 なめしゃんにナイショなこと、また増えちゃったな。


 ……あれ、なんでなめしゃん笑ってるの?



「あ、なめしゃん、舞音のこと笑ったと⁉」

「いや、舞音がかわいくてさ……あ、へ、変な意味じゃないよ」

「……嬉しかばい」



 か、か、か、かわいい……⁉︎


 なめしゃんが舞音のことかわいいって……⁉︎


 にゅにゅにゅにゅにゅ……どうしよう、好きが溢れちゃうよ。



「ご、ごめん舞音、変なこと言って」

「……好いとーよ」

「え? 何か言った?」

「……何でもないばい! 舞音、宿題やってくるばい!」



 どうしよう!

 ゆっちゃった!

 好いとーよって、ゆっちゃったよおおお!


 もう頭の中パニックで、急いで部屋に戻った。

 そしたら、ドアに頭ぶつけちゃった。



「大丈夫か⁉」

「いたたた……だ、大丈夫ばい!」

「それは良かった」



 頭をぶつけたら少しだけ冷静になって、同時になめしゃんの優しさにじーんとしちゃって、気づいたらくるりとなめしゃんの方を向いて口を開いてた。



「……また、舞音のお料理食べてくれん?」

「もちろん。いくらでも食べるよ」

「なめしゃん、ありがとう! 舞音、胃袋から掴めるように頑張るばい!」



 なめしゃんが、また舞音の料理を食べてくれる……‼︎


 嬉しくて嬉しくて……部屋に戻ったら、やきしゃんを握りしめながら玄関で思いっきりぴょんぴょんしちゃった。



 ――なめしゃん、好いとーよ。


 次はもっと美味しい料理作るから、待っててほしいばい!



――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 この度はSSをお読みいただきありがとうございます!


 後日追記にはなりますが、この度『ボロ美女』が電撃の新文芸コンの最終選考対象作品に選ばれました‼︎


 1609作品中の37作品です✨


 応援してくださった方、本当にありがとうございました(*^^*)


 また面白い作品ができましたら投稿するので、今後ともよろしくお願いしますm(_ _)m

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浮気されて職も失った俺、ボロアパートに引っ越してから住人の美女・美少女たちと生活を共にしています。 花氷 @shiraaikyo07

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