第3話

「京香のあれはないんじゃねぇか?さすがに小っ恥ずかしかったわ。廊下にも人いたし、俺明日から学校来る自信なくすんだが…」




「あ、あはは…あれは京香ちゃんなりのスキンシップみたいなものだから…」




京香にからかわれ、半ば不機嫌になったところを狭霧になだめすかされながら俺たちは自分の教室の前にたどり着いていた。




「それはわかってるけどさ、それでも恥ずかしいもんは恥ずかしいんだよ。男心ってやつをわかってないんだよアイツは…っと、おはよー」




愚痴を吐きながらドアを開けると、既に多くのクラスメイトが自分の席に座っている。


チラリと壁時計を見ると、ホームルームの時間も近いようだ。


挨拶もそこそこに教室へと滑り込んだ俺達に、ひとりの女子が話しかけてきた。




「おはようございます、暁くん、朝野さん。今日はちょっと遅かったですね」




ゆったりとした口調に人好きのするにこやかな笑顔を浮かべて挨拶をしてきたのは、我が二年三組の委員長、千堂巴だ。


わざわざ立ち上がって声をかけてくれるあたり、少し遅くなった俺たちのことを気にかけてくれていたのかもしれない。




「千堂さん、おはようございます」




「おはよう、千堂。まぁちょっと色々あってな…」




千堂に応えるように俺たちも頭を下げた。


色々の大部分は京香のからかいと俺が起きるのが遅かったことなので、あえて言葉を濁すことにした。




「そうでしたか。それなら良かったです。てっきり事故にでもあったのかと、少し心配になってしまいましたので…」




「はは、大げさだなぁ。でもありがとう。心配してくれて嬉しいよ」




「い、いえ。そんな…私はただ…」




俺がお礼の言葉を述べると、千堂は照れたようになぜか顔を赤くして俯いてしまった。


普段騒がしいやつらに囲まれているせいか、その初々しい反応がなんだか新鮮に感じてしまう。




(やっぱ千堂は美人だよなぁ。京香とはまた違った趣というか、華がある感じがする)




性格も温厚で、クールなところのある京香とはいろんな意味で対極な存在だった。豊かな胸はおそらく互角くらいだろうけど。静乃と狭霧に関してはノーコメント。彼女達の名誉のために、将来性に期待とだけ言っておこう。




ちょっと話を戻すが、千堂は二年では京香と人気を二分するほどの人気を博した美少女で、実家はどこかの企業のお嬢様との噂もある女子である。


京香を手を出せない孤高の華とするなら、彼女は高嶺の華といったところだろうか。




実際、昼飯を一緒にした時はえらく高価そうな箱に、これまた高級そうな食材を詰め込んだ豪勢なお弁当を食べていたことは俺の脳にハッキリと記憶されている。


一口分けてもらったがあれは美味いとしかいいようがない見事な味付けであり、食通ではない俺も思わず唸ったほどだ。影でこっそり京香につねられて痛かったが、美味い食事にありつけただけプラマイゼロといったところかもしれない。




そんな千堂とは一年の頃から同じクラスであり、気にいられたのかこうして毎日話すくらいには仲が良くなることができていた。


おかげでクラスの男子の視線が痛い。ただでさえ京香や静乃、狭霧といった美少女といっていい女の子達とよく行動をともにするため、学校一のハーレム野郎と言われ、影で嫌われていることを俺は知っている…か、悲しくなんてないんだからね!


まぁ贔屓目に見ても静乃も美少女ではあるが、兄としてはいろいろ複雑なところだった。




「…………私だって」




そんなことを考えていると、ふと誰かの呟きが聞こえた気がした。


それは俺の知っている声であったと思う。




「さぎ…」




半ば無意識のうちにその子の名前を呟きかけたのだが、そこで俺の言葉を遮るように朝のチャイムが教室内へと鳴り響いた。




「あ、もう時間ですね。先生がきちゃいますし、千堂くんも注意されないうちに席に座ってくださいな。足止めしたみたいですみません」




「あ、ああ…」




思わず反射的に口を噤んだタイミングで、千堂から声をかけられる。


そこで完全に間が逸れてしまった。隣にいたはずの狭霧が早足で席に歩いていくのを、俺はただ横目で見ていることしかできなかったのである。




(なにか言うべきだったかなぁ…)




まぁホームルームが終わったらでいいか。


そう思った時、教室のドアがガラリと開いた。

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ふくぼんっ!悪ふざけでかけられた催眠術で、好きだった男の子への好感度が反転してしまう女の子達のお話~なのに、なんでアンタひとりだけが…!~ くろねこどらごん @dragon1250

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