7 降り立った丘にて
ゲートの光に包まれた俺たちは、気づけば草木豊かな丘の上に立っていた。
「いや~……空気に異臭
「異臭元って……」
そういうニーナの方に向き直ると……俺は驚きのあまり二歩ほど、後ずさってしまった。
ニーナが……まあ、布に巻かれたような格好はそのままなんだけど、手のひらに乗りそうなほどに小さくなって、羽が生えている……。
「ニーナ……え?どうしたの?」
「ああ……この状態ですか?」
ニーナがクルリ、と空中で一回転する。その回転の軌跡に、キラキラと光の粒がまかれる。
「どうやら、冒険の同伴時の基本スタイルのようですね。複雑な内臓、
なんでもアリはまあ、フィクションの世界だからそうなんだけど……。
ニーナが「えいっ」と言うと、突然に元の、少女サイズのニーナが現れた。
「意思で自由に形態を戻せるみたいですね。これは
「はぁ~……」
俺は、呆れ半分、感心半分ほどの声を上げながら、手に持つラノベを見た。
このラノベ、確かに女神は冒険の同伴者だったが、こんなフェアリー然とした姿だったか?それに、俺のスキルも「イマジネーション」じゃない……。
ラノベ通りの世界で、ラノベ通りに冒険をしていく……とはいっても細かいところは違っているみたいだ。
「形態といえば、リューヤも変わっていますよ」
「え?」
言われて自分の腕や足を眺めてみる……。確かに、トラック運転手の制服である作業ツナギを着てはいるが、スソに余りが出ている。
俺の体……一回りくらい、小さくなってないか?
「髪の色も鮮やかな赤毛、瞳もこの草原みたいな冴えた緑!きっと、三億年経ったこの星の環境に合わせた変化なんでしょうね!」
「いや……たぶん、これはフィクション上のキャラの個性付けというか……デザインだろう……」
姿は変わったが、俺自身が……俺自身であるという自我は、幸いにもそのままだ。
「で、これからどうしますか?その文献ではこのあと、どうなりますか?」
「いや、俺も完全に覚えてるわけじゃなくておおまかになんだけど……」
俺は今の手足の長さに合うよう、ツナギのスソをまくりながら言った。
このカンジだと、身長は百五十センチくらいか?中学生とかそれくらいの背丈だよな……。
「最初は近場の町に行って、女の子キャラがひとり、仲間に加わってた気がする」
「なるほど~……近場の町ですか」
ニーナはフェアリーモードに変化すると、上に向かって飛んでいった。
「あっ!人工物みたいなものが密集しているところがありますよ!
「どれくらいの距離か分かる?」
「う~ん……こっから豆粒くらい……目測〇・〇〇〇〇二タイトですッ!」
フェアリー・ニーナが俺のところに降りて戻ってきながら報告する。
「タイトって……何?」
「タイトは、タイトですッ!」
「あ……距離の……単位かな?」
「その通りですッ!」
俺にはタイトがまず判らないから、どうにもイメージが沸きにくいな……。
「豆粒ってことは……数キロってところかな……。その町に行くにしても何か乗り物とかあれば楽なんだけど……」
「乗り物、ですか。さっきのスクーター?」
「ニーナがいるなら、スクーターはちょっとなぁ。飛んでついてくるのも疲れるだろ?車だったらいいんだろうけど」
「『クルマ』……。それも乗り物なんですか?」
「ああ。そうだよ」
「スキルで出してみましょうよ!その『クルマ』!」
「えぇ~……出るのかな~」
俺は車をイメージしながら、「ライセンス」と叫んでみた。
が、何も出ない。
「じゃあ、スクーターにしときましょうか。私、いけそうだったらついていきますよ。なんならリューヤの体のどこかに紛れ込んで同乗できると思いますし」
「後者のはちょっと恥ずかしいな……。まあ、でもとりあえず出してみようか。『ライセンス』ッ!」
スクーターをイメージしながら叫んだ次の言葉も、丘の上でむなしく響いただけだった。
なんだ?……俺のスキルの発動条件が、判らない。
「『始まりの部屋』では出せたのに……なぜだ……?」
「結果が異なる時は、
「多重小子」がなんだか判らないが、ニーナの言葉に俺は思い当たることがあった。「始まりの部屋」でスクーターが現れた時、イメージしていたのはスクーターそのものじゃない。運転免許証だ。
「ライセンス!」
ボンッ!
煙と共にスクーターが出現する。
「やっぱり……このスキル、俺が思い浮かべた免許やライセンスに関連したモノを召喚できるんだ……」
「イマジネーション」に近い……けど、制限は多そうだ。結構正確に思い浮かべないといけないみたいだから、俺がその形や、記載されている内容をイメージできない「ライセンス」では効果はないかもしれない。
だけど……昔取った
俺は、スクーターに
「町に行こう、ニーナ」
「ハイッ!」
フェアリーモードのニーナは、俺のツナギのスキマから胸元に入り込んできた。ピョコン、と顔だけ出す。
「しゅっぱーつッ!」
……くすぐったいな。
俺はエンジンをかけてスクーターを発進させた。
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