2 女神の宣告

「再生……?」


 俺の問いに、目の前の女の子はニッコリと微笑ほほえんだ。


「はい、そうです。再生されたんです!今、この星は、あなたが生きていた頃からおよそ三億年後になるんですよ!」

「生きていた頃……?三億年……」


 なんだ?この子は、何を言っているんだ?


「ちょ、ちょちょ……ちょっと待って……」

「はい?」

「生きていた……ってことは俺は……死んだのかな?」

「それはそうですね~。三億年と言わず、一万年程度も経過すればだいたいの炭素生物は死んでるでしょうね!」


 何なんだ。この子のこの、ハイテンションは……。


「その、三億年ってのは……何なわけ?」

「ですから~……あなたという記憶が実在していたのが三億年前なんですよ~!」

「記憶……?」

「じゃんッ!」


 そう言うと彼女は、どこから取り出したのか手に小さな文庫本をかかげてみせた。表紙には少年少女の、色彩豊かなイラストが描かれている。


「それは……ライトノベル……かな?」

「はいッ!そういうものらしいですねッ!これも三億年前の記憶から私が取り出しました」

「……記憶、記憶っていうけど……いったい誰の記憶なの?君の記憶なの?」

「いいえ、私の記憶ではありませんッ!この星の記憶……正確には、この星の各所に存在する物質の構成子——『記憶素子』に記録されているモノです!」

「星の記憶……記憶素子……」


 ダメだ、全然頭が追いつかない。


「……ちょっと整理させて……」

「ハイッ!」

「俺は……死んだ?」

「ハイッ!オリジナルのあなたはお亡くなりになっていますッ!」


 人への死の宣告を、いとも簡単に、楽し気に言ってくれる……。


「じゃあ、この俺は……?」

「『記憶素子』に基づいて私が再構成しましたッ!」

「その『記憶素子』ってのは……」

「物質の最小構成物のひとつです!三億年前のこの星の文明では未発見のモノですっ!」

「で、君は、その記憶を読んで……俺や、その本を……」

「ハイッ。コピーという形で、現在に再生しましたッ!」


 わかった。これは夢だ。トラックの事故からして夢だったんだ。


「あ、ちょっと……寝ないでくださーいッ!」

「……夢なら覚めてくれ。明日も仕事なんだから!」

「いえいえ。あなたのお仕事は私のお手伝いをすることですよッ!」

「……」

「この星を、元の姿に戻してほしいんですよ~ッ!」


 いくら横になってても覚める気配のない俺の頭。俺は観念して起き上がり、彼女を見つめた。

 

「元の姿って……どういうこと?」

「あ、ご興味もっていただけました?じゃあ、説明しますね~。説明のためにこんな姿になってるみたいですからねッ!」


 女の子はキャッキャと飛び跳ねまわる。何をそんなに楽しんでいるのだろうか。

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